巨大IT企業GAFAにどう向かい合うべきか

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インターネットに出現したGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など巨大IT企業。こうした企業によるデータ・技術・人材の独占化の懸念が高まっており、多くの国々で規制論議が起きている。プラットフォームビジネスの特徴と重要な政策課題をまとめた。

イノベーションと競争

近年、多くの政府機関やシンクタンクで巨大IT企業の規制の在り方が活発に検討されるようになっている。日本政府は「未来投資戦略2018」に基づき、経済産業省、公正取引委員会、総務省による検討会を開催し、2018年12月に「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を公表。19年6月に開催された20カ国・地域首脳会合(G20)大阪サミットでも、デジタルデータの自由な流通を確保するための国際ルール作りが議題に上った。

まず巨大IT企業を取り巻く技術特性や産業特性をまとめておこう。GAFAによるプラットフォームビジネスの第1の特徴は、半導体や通信ネットワーク、人工知能(AI)などの補完的技術が続々と登場し、猛烈なスピードで進歩しつつあることである。第2の特徴は、これら多数の補完的技術の複合的連関が深化する中で、特許など知的財産権が必ずしも市場における優位性につながらなくなっていることである。第3の特徴は、異なる市場に属する顧客グループやサプライヤーが、プラットフォームを介して連結される市場構造が観察されることである。このような市場を「両面市場」と呼ぶ。

両面市場では、ネットワークの規模が拡大するほどユーザーの効用が増加する。これを「ネットワーク効果」と呼ぶ。また、サービス提供にかかる追加的費用が極めて低くなる「規模の経済性」が強く働く。そのため無料サービスが提供されることも多い。このような需要・供給両面での規模の経済性によって、両面市場ではプラットフォームに膨大なデータ・人材・技術の集積が促されることとなる。こうして、プラットフォームを運営するGAFAのような巨大IT企業の市場支配力がさらに高まる。

デジタルプラットフォームやそれを取り巻く補完的技術の研究開発と、それに基づく製品・サービスの開発は同時並行で進む。従って新機能や新サービスを継続的に開発し続けることが成功のカギを握る。プラットフォームビジネスで展開される競争は、価格競争のような「市場における競争」(competition in the market)よりも、新製品・新サービスをいち早く提供する「市場を目指す競争」(competition for the market)が重視される。

さらにいえば、プラットフォームにユーザーを誘引するための無料サービスや大規模な広告宣伝などの「注目を集める競争」(competition for attention)、あるいは、心理学や行動経済学の知見に基づき、消費者の嗜好(しこう)や意思決定の枠組み(フレーム)にまで影響力を及ぼそうとする「フレーム競争」(frame competition)が行われているとみるべきかもしれない。

このように、プラットフォームビジネスでは、イノベーションを軸とした猛烈な競争が行われている。この点はポジティブに評価すべきことだ。その一方で、ネットワーク効果や規模の経済性によって、プラットフォームへのデータ集中が促され、さらには個々人の行動や考え方にまで影響力が及ぶこととなる。これによって、プラットフォーム企業の経済的支配力のみならず、政治的・社会的な支配力まで高まりつつある点に注意しなければならない。

所得格差拡大や租税回避も

この相反する機能・メカニズムをどう見るかに応じて、適切な競争政策・規制政策の在り方に対する考え方も変わってくる。そこで、これらの多元的支配力の観点に留意しつつ、プラットフォームビジネスを取り巻く政策課題を整理することとしよう。それは以下の3つのトレードオフ(相反)にまとめることができる。

第1のトレードオフは、プラットフォームの技術進歩によって生産性が向上する一方で、所得分配の不平等化が進むことである。例えば、ロボットや人工知能(AI)などによる自動化は、人間たる労働者が優位性を持つタスクを減少させ、それを資本に代替させていくことによって、労働者の賃金を低下させる。従ってAIを利用した自動化技術が普及すると、高賃金を提供する雇用機会が増えない限り、労働分配率を低下させていくこととなる。

この第1のトレードオフは社会的な広がりをもつ深刻な課題を生じさせつつある。例えば、ウーバーのドライバーのような「ギグワーカー」と呼ばれる非正規型就業者は今後ますます増加すると予想される。しかし、法的に独立した事業者とみなされるこれらギグワーカーの法的保護は極めて不十分なままである。彼らは労働基準法上の労働者と見なされず、また労働組合法上の労働者に与えられる団結権や団体交渉権も十分に付与されていない。巨大IT企業は、競争力確保のため、「引き抜き防止条項」のほか、兼業や同業者への転職を禁じる「競業避止義務条項」などの拘束条件を従業者に課す例も多い。労働法と競争法の谷間を埋める政策調整が強く求められている。

第2のトレードオフは、データ・技術・人材の集中が新しいイノベーションを促す一方で、研究開発やサービスの多様性を損なう危険を高めることである。巨大IT企業は、莫大(ばくだい)な研究開発投資を行い、ベンチャー企業など将来のライバル企業となりえる企業を活発に買収している。これによって、データのみならず、技術や人材の集中化も進行している。

しかし、これらイノベーションの集中化が社会全体にとって望ましいと言えるかについては、ケース・バイ・ケースの判断が求められる。例えば、データや技術・人材の集中によって、高賃金の雇用機会が増加し、労働生産性を高めるような技術変化が促されると期待してよいのか慎重な検討が必要である。競争政策やイノベーション政策によって、多様な研究開発プロジェクトが実施される環境をいかに維持していくかが課題であるといってもよい。

この第2のトレードオフは、巨大IT企業への国際課税の問題も引き起こす。インターネット上のプラットフォームへデータ・人材・技術が集中すると、税率の低い国への利益移転が容易となる。サービスを提供する拠点を持たない巨大IT企業は、税率の低い国・地域(タックスヘイブン)に法的な拠点を設けることによって租税回避を合法的に行うことができるのである。このような租税回避は、公平・公正な市場環境をゆがめ、所得分配の不平等化を助長するのではないかと懸念されている。

経済協力開発機構(OECD)とG20では、2013年以降、このような租税回避をBEPS(税源浸食と利益移転:Base Erosion and Profit Shifting)と呼び、これをけん制するための課税ルールの見直しを2020年までに策定するプロジェクトに取り組んでいる。19年3月にロードマップ、また同年6月に経過報告書がOECDから公表されている。しかし、巨大IT企業や各国政府の利害が複雑に絡むため、なお一層の協議が必要という段階である。

プライバシー保護

第3のトレードオフは、データの集中によってプラットフォームの提供するサービス品質が向上する一方で、プライバシー保護やセキュリティー確保に対するリスクが高まることである。個人データのプラットフォームへの集積によって、検索の速度や精度、ユーザーへの推奨機能やマッチング機能の改善は確かに期待できるだろう。

しかし同時に、集中化した個人データはサイバー攻撃の対象となりやすく、情報漏洩のリスクを高めることにも注意しなければならない。この点で、分散的なデータの管理・利用を促すようなイノベーションを進めることや、そのためにプラットフォームに集中化したデータを自由に移動させる「データ・ポータビリティ」、プラットフォームのインタフェースの「相互運用性」(interoperability)の確保が必要となる。さらに、その手続きの透明性や公正性を確保するなどの施策を着実に実行していくことが望まれる。プライバシー保護やセキュリティーを提供するサービスや技術においても競争が行われ、多様なサービスの選択肢が提供されることが望ましいのである。

独占的な市場であっても、条件によっては競争可能(コンテスタブル)な市場となり得る。そのためには、できる限り新規参入が容易となるように、ボトルネックとなる不可欠資源(例えばデータや技術)が、円滑に転々流通する市場を整備することが求められる。それによって、新規参入の障害となる巨額な固定資本の投資水準が抑えられ参入障壁を低めることにつながるのである。

プラットフォームビジネスにおける政策課題は、イノベーションの推進力を損なうことなく、社会的・経済的な独占力を強めつつある巨大IT企業の力をいかに制御するかにある。その制御の根拠となるべき法の射程は、競争法にとどまらず、労働法、個人情報保護法、国際課税ルールなど多岐にわたる。かつては画期的なイノベーションを実現する挑戦者であったGAFAは、今や巨大な力を持つ独占者となりつつある。

しかし、その集団的エゴイズムによって未来の卓越したチャレンジャーが登場することが妨げられてはならない。GAFAが獲得しつつある市場や社会の支配力は決して既得権となってはならない。社会の多元的な価値に広く影響力を及ぼしつつある巨大IT企業に対して、われわれが守るべきは、公正で透明な社会の実現であり、個人情報が保護されリベラルな価値が保証される言論空間であり、公正かつ自由な競争が持続する市場経済であることを強調しておきたい。

バナー写真:経営方針を説明する米フェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)(時事通信)

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