見直し迫られるコンビニのビジネスモデル: 24時間営業は必要か?

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コンビニエンスストアが旗印としてきた「24時間営業」が岐路に立たされている。筆者は顧客の高齢化などで、深夜営業に対するニーズが低下していると指摘する。

問われる24時間営業の是非

深刻な人手不足が進む中、コンビニエンスストアの24時間営業の是非が問われている。発端は2019年2月、大阪府でコンビニ最大手のセブン-イレブンジャパン加盟店のオーナーが人手不足を理由に営業時間の短縮に踏み切ったことだ。当初、セブン-イレブン側は、24時間営業に戻さなければ契約解除という強硬な姿勢を取っていた。しかし、メディアが報じたオーナーの負担の大きさが世論を動かし、3月に同社が深夜営業を短縮する実証実験を行うことになった。その後、現在に至るまでさまざまな議論が続けられている。

「24時間戦えますか」。これはバブル景気真っただ中の1989(平成元)年の流行語で、第一三共の栄養ドリンク「リゲイン」のCMに使われたキャッチコピーだ。その背景には、企業戦士として猛烈に働くことを美徳とする当時の風潮があった。コンビニ市場も同じ頃から拡大し始め、30年余りの時を経て10兆円を超える規模へと成長した。そして時代は平成から令和へと移り、現在では、長時間労働は是正されるべきものとして「働き方改革」が進んでいる。「リゲイン」シリーズでも、「24時間戦う」のではなく、「人生100年時代を応援する」というコンセプトの新商品が2019年2月に登場した。

人々の暮らし方が変われば、商品の形も変化する。果たして、24時間営業を続けるコンビニのビジネスモデルは今の時代に合ったものなのだろうか。

小売業の中で際立つ利便性

「セブンイレブン、いい気分。開いててよかった!」。これは1976年にセブン-イレブンがテレビで流した初CMだ。それ以来、コンビニは「時間」と「距離」、「品ぞろえ」という三つの利便性を柱に発展してきた(※1)

まず、「時間」では、24時間営業であるため、いつでも商品を買うことができる。「距離」に関しては、自宅の近くにあるために利便性が高い。コンビニはスーパーやデパートとは異なり小規模であるため、住宅街にも立地している。さらに、どこにでもあるという利便性の高さもある。コンビニの店舗数は2019年6月時点で全国5万6485店(経済産業省「商業動態統計」)であり、小売業でコンビニに次ぐドラッグストア(1万6058店)やスーパー(5000店)と比べても格段に多い。

「品ぞろえ」については、言うまでもないが、コンビニには食料品や日用品、文具類、新聞・雑誌など幅広い商品がそろっている。近年はドラッグストアでも食料品を扱うようになったが、営業時間の長さや品ぞろえにおいて、コンビニが優位性を保っている。

なお、2011年3月の東日本大震災をはじめ、近年、深刻な自然災害が相次いでいるが、そうした緊急時には、店舗網が張り巡らされ、生活必需品が手に入るコンビニの存在意義は大きい。現在、多くのコンビニでは、災害時の物資供給や帰宅困難者の支援において自治体と連携協定を結び、社会的なインフラ機能を担うようになっている。

品ぞろえやサービスの種類が豊富な日本のコンビニ

ところで、海外でコンビニへ行った際、日本のコンビニの良さを改めて感じる日本人も多いのではないだろうか。同じセブン-イレブンでも、品ぞろえやサービス、店員の対応が均質ではなく、その店舗によって異なるからだ。

品ぞろえでは、日本では保存の利く加工食品だけでなく、弁当やおにぎり、惣菜(そうざい)、生鮮食品など鮮度の高い食品が多いことが特徴だ。加えて、おでんや揚げ物、コーヒーなど、その場で調理された温かい食品もある。近年では、コンビニが独自に開発するプライベートブランド商品も人気だ。

サービスの種類も豊富だ。コピーやFAX、金融機関の現金自動預払機(ATM)、各種チケットや乗車券などの販売代行、宅配便やクリーニングの受け付け、光熱・水道費など公共料金の収納代行、住民票などの各種証明書の交付サービスにも対応している。高齢化が進み、買い物困難者が多い地域では、商品の配達サービスや移動販売なども進む。清潔なトイレを誰でも無料で使えるという点も、日本独自のサービスと言えるだろう。

店員の接客態度も質が高い。マニュアル化されたレジでの素早く丁寧な応対や来店客へのあいさつ、整然とした商品陳列、行き届いた店内の清掃などは、日本の「おもてなし」精神が根底にあるのだろう。

コンビニ来店客の高齢化

日本のコンビニは、コンビニエンスの名の通り、多様な面で利便性が高い。今や日本人の生活に深く入り込んでおり、欠かせない存在だ。しかし、現在では24時間営業の必要性は低下しているのではないだろうか。

なぜなら、コンビニの来店客が高齢化しているからだ。日本のコンビニ最大手のセブン-イレブンの来店客を見ると、1989年では20代以下の若者が来店客の62%を占めていたが、2017年には2割へと減っている。一方で50歳以上は9%から37%へと4倍に増えている。高年齢層は深夜の利用が少ないため、高齢化社会の進展とともに24時間営業を必要とする消費者は減っていく傾向にある。

なお、セブン-イレブンの来店客は、日本の人口構成よりも高齢化が進んでいる。その理由には、若者の消費行動の変化と高齢単身世帯の増加が挙げられる。

日本では若い世代ほど厳しい経済状況に置かれている。非正規雇用者が増え、正規雇用者でも賃金水準が低下しているためだ。また、少子高齢化による将来の社会保障不安もある。一方で、技術革新により、安くて品質の良いモノやサービスがあふれている。成熟した消費社会に生まれ育った日本の若者は、コストパフォーマンス意識が高い。定価で商品が売られているコンビニよりも、値引き率の高いディスカウントストアを利用したり、インターネット通販などで費用対効果を十分比較検討した上で商品を買ったりするようになっている。

一方で、未婚化や晩婚化、核家族化の進行で高齢単身世帯が増えている。現在、日本の世帯全体の3割強が単身世帯であり、そのうち3分の1が65歳以上だ(総務省「平成27年国勢調査」)。高齢単身世帯の生活とコンビニは親和性が高い。コンビニでは小分けの惣菜や3枚入り食パンなどが売られ、小単位で商品が構成されている。さらに自宅近くに立地しているので、歩いて行くことができる。なお、高齢単身世帯は都市部と比べて高齢化の進む地方部で多い。つまり、人手不足に悩む地域ほど、深夜営業の必要性は低下しているのだ。

なお、コンビニは家事の時短化ニーズの強い共働き世帯の受け皿にもなっている。日本では今、18歳未満の子どものいる世帯の約6割が共働きであり、「女性の活躍推進」政策の後押しもあり、今後も増えていく見込みだ(厚生労働省「平成30年国民生活基礎調査」)。こういった世帯のコンビニ利用は帰宅時の買い出しなどが多いとすれば、深夜営業に対するニーズも高くない。

持ち回りの24時間営業でインフラ機能の維持を

一方で、24時間営業をやめれば利便性が下がると言う声もあるだろう。しかし、最近ではコンビニが開いていなくとも、より利便性の高い代替手段が存在する。注文後、数時間で配送可能なネット通販サービスも増えている。人手不足の中で、コンビニだけが24時間営業に固執して疲弊する必要はないだろう。

ただし、特に高齢単身世帯の多い地方部では、コンビニの社会的インフラとしての存在意義は大きい。24時間営業を全くなくしてしまっては、災害時などを考えれば不安が高まる。そこで、例えば地域の診療体制のように、コンビニ各社が持ち回りで24時間営業を担うことを提案したい。開いている店舗が一つでもあればインフラ機能を維持できるだろう。

コンビニは24時間営業を前提として商品の製造ラインや配送などの物流網が構築され、商品の陳列や清掃などの店舗運営がなされている。営業時間が短縮されれば、それに合わせて製造や配送の時間帯を変えなくてはならない。そのためには大規模なシステム改変が必要となってくる。単純に営業時間を短縮すれば、24時間営業の問題が解決するわけではない。今、コンビニのビジネスモデルの抜本的な見直しが迫られている。

バナー写真=2019年3月22日、短縮営業の実証実験で店を閉めた後、早朝に再び営業を始めた東京都足立区のセブン-イレブン本木店(時事)

(※1) ^ 木下安司著『コンビニエンスストアの知識』(日経新聞社、2002年)。

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