試される日本の「移民」政策

日本の移民政策を占う試金石:特定技能制度のゆくえ

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今年4月に新たな在留資格「特定技能制度」がスタートした。20年以上運用してきた「技能実習生制度」をめぐる数々の問題が指摘される中、日本は今後、どのように外国人を受け入れていくのか。国際交流センターの毛受敏浩理事の見解を紹介する。

人手不足が生んだ「特定技能」

2018年12月、国会での自民党と野党との激論を経てようやく政府は出入国管理法を改正し、新たな在留資格「特定技能制度」の新設を決定した。近年、著しい人手不足から「人手不足倒産」が続出する事態となった。経団連からの要請もあり、政府はやっと重い腰を上げ、ブルーカラー分野での外国人労働者の正式な雇用を模索し始めた。その結果が「特定技能」と呼ぶ在留資格である。特定技能は最長5年間の期限で家族帯同を許されない1号と、在留資格の更新が認められる2号に分かれる。今のところ業種はブルーカラーの14業種に限定されている。

外国人なくして成り立たない日本の窮状

昨年夏、山形県のある市長が筆者に面談を求めて上京してきた。面談の理由は「どうしたら外国人住民を増やせるか」を聞きたいというのだ。これまでありとあらゆる方法で町おこしを行い、政府の指示に従って地方創生の事業を実施してきたが、人口減少に歯止めが利かない。このままでは将来、町は立ち行かなくなる。となれば、外国人に来て定住してもらうしかなく、その方法を知りたいということだった。この市長の訪問が示すように、人口減少に頭を痛めている国民は「外国人は安全・安心の社会への脅威」から、「どのようにしたら外国人を増やし定住してもらえるか」へ意識の大転換が起こりつつある。

一方、政府は新制度を移民政策ではないと明言している。2018年12月10日、国会閉会にあたり安倍晋三首相は、入管法の改正についてコメントした。「今回の制度は移民政策ではないかという懸念について、私はいわゆる移民政策ではないと申し上げてきました。受け入れる人数には明確に上限を設けます。そして、期間を限定します。皆さまが心配されているような、いわゆる移民政策ではありません」。これは国民の間にある移民に対する強いアレルギー、治安などへの不安を前提とした発言といえる。

現実には国民の間で移民に対する反発は急速に弱まっている。過去5年の間に外国人観光客は年間2千万人も増加したが、治安は悪化していない。人口減少が一層深刻化し、外国人がいなければ日本の社会が回っていかないことを多くの国民が実感しているからといえよう。

つまり、移民の受け入れ容認に向かっている国民の意識と、彼らを危険視する政府との間で、認識のずれが生じている。

政府が依然として「移民政策でない」と主張することでどのような問題が生じるのだろうか。政府は新政策を「人手不足対策のため(※1)」と定義している。しかし、外国人受け入れは一時的な手段であるとの認識では、日本にとっての最重要課題である人口減少問題の解決には結び付かない。その結果、特定技能には定住につながる2号の規定がありながらも、その道筋が明らかではなく、職種も建設と造船の2業種に限られている。これは昨年末の国会の議論で、一部の保守派の議員が2号は「移民ではないか」と反発したためである。

人口減少が2020年代には四国の総人口380万人をはるかに超える550万人に達すると想定されていることを考えれば、優秀な外国人材を積極的に受け入れ、その定住化を図らなければ日本社会の持続性にも支障が生じることは明らかである。

郷土の味も製造から消費まで主役は外国人

今年4月、四国のテレビ局に招かれ報道番組に出演する機会があった。驚いたことに四国4県では、外国人在留資格で最も多いのは技能実習生だという。少子高齢化によって働き手が急速に減少した四国では技能実習制度による外国人労働者が急増している。四国の名物ミカン、うどん、カツオの供給は技能実習生がいなければ、もはや成り立たないと聞いた。うどんに至っては、技能実習生が製造し、留学生が販売し、外国人観光客がそれを食べるといった状況すら生まれている。従来、日本で最も外国人住民、観光客が少ない地域だった四国において、すでに基幹産業が外国人労働者頼みになっている変化に多くの住民は気付いていない。また外国人への偏見を是正する取り組みや、外国人のための相談窓口の整備も遅れているという。

技能実習制度では従来、実習生の労働環境や人権問題がクローズアップされてきた。しかし、産業政策にも大きな問題が横たわる。ひとたび人手不足によって企業が技能実習制度を利用するようになると、人件費が最低賃金レベルに固定される体質に陥り、将来日本人を雇用する体力がなくなっていく。技能実習生は最長5年しか滞在できず、技術の継承は見込めない。つまり、労働者を使い捨てにする体制といえる。

本来、企業はできるだけ優秀な人材を採用し、彼らにOJT(社内訓練)や職業訓練の機会を提供することで一人前にし、企業に貢献する人材として育てていく。そうすることでより付加価値の高い製品やサービスを提供するのが理想的な在り方だ。一方、技能実習制度も特定技能制度も受け入れる外国人労働者に対して、学歴の要件はない。そのような人材を企業が喜んで受け入れるのは、一時しのぎ、使い捨ての感覚があるからなのだろう。このような雇用体系に依存する企業の増加は、今さえよければよいとする企業を増やすことになる。それは産業政策として正しいとはとても思えない。日本の企業の体質を低賃金に依存する(途上国型の)産業に変えてしまうのではないか。

技能実習と特定技能は将来どのように運用するべきか?

隣の韓国では1980年後半から日本の技能実習制度に似た「産業技術研修生制度」を運用していたが、2004年から3年間の移行期間を設けて、07年に特定技能に類する「外国人雇用許可制度」へと完全に切り替えた。

日本の技能実習制度は本来、国際貢献を目的とした制度である。それがゆがめられて中小企業にブルーカラー分野での安価な労働力を提供する制度として20年以上も使われてきたのは周知の事実だ。しかし、ブルーカラーの分野で特定技能という新たな制度ができた以上、技能実習制度は本来の国際貢献を目的とした事業に厳格に限定されるか、あるいは廃止されるのが本筋だろう。

新在留資格/外国人労働者問題に関するヒアリングに出席した外国人実習生たち=2018年11月8日、国会内(時事)
新在留資格/外国人労働者問題に関するヒアリングに出席した外国人実習生たち=2018年11月8日、国会内(時事)

18年末で技能実習生の数は32万8360人と、前年末比で19.7%も増加している。特定技能制度では日本人並みの待遇が必要となり、また転職の自由も保障される。しかし、技能実習制度では転職できない上、最低賃金の適用が多いため、企業にとってこれほど都合のよい制度はない。どんな悪条件でも働き手が他の職に移ることができないので企業は待遇を改善する必要もない。一方、実習生からすれば、高い技術を身に付けようとしても他の企業で働く道はなく、制度の趣旨である技能の習得に支障が生まれている。

本来、特定技能ができた以上、技能実習制度を利用していた企業は、新制度へ移行すべきである。政府も2種類に限定している特定技能の職種を拡大し、永住や家族帯同に道を開く2号への移行を全面的に認めるべきだ。

日本では技能実習制度に依存する地方の中小企業が多く、完全移行は容易ではないものの、数年間の移行期間を定めた上で全面移行をする必要がある。

なぜなら雇用先を変えられない(転職の許されない)技能実習制度である限り、労働基準法違反の状態が続くことになる。国際社会の日本に対する見方も厳しくなる一方だろう。特定技能の創設で、深刻な人口減少に悩む日本が、移民受け入れに大きな一歩を踏み出したと世界から大きな期待が日本に集まった。しかし、結局は表面的な変化にすぎなかったと見なされればその期待は失望に転じてしまうだろう。

19年8月時点で海外から呼び寄せることを許可された特定技能1号の在留資格取得者は119例にすぎない。技能実習制度から特定技能への移行が順調に進み、特定技能が発展していくのか、あるいは特定技能が頭打ちになり、逆に送り出しプロセスでの不正、不法労働者化、人権侵害などの問題を抱えたままの技能実習制度が膨らんでいくのか。特定技能のゆくえは、日本が人口減対策として移民政策にどこまで本気で取り組むのかのリトマス試験紙といえるだろう。

バナー写真:新在留資格/食品加工工場で勤務するベトナム人技能実習生=2018年8月30日、埼玉県加須市(時事)

(※1) ^ 深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れる制度(農林水産省HP)

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