豊洲市場開場から1年:取扱量は目標の半分、一般の買い物に課題
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黒沼市場長「安全性は担保された」
「今のところ豊洲市場はうまく機能している。安全性については想定外の事態が起きない限り担保されると思う」
今年7月に都の中央卸売市場長に就任した黒沼靖氏は、豊洲開場1年をこう評した。今後も地下水などに関する情報公開を積極的に行い、信頼される市場を目指す考えを強調する。
安全性への懸念から、2016年8月に就任した小池百合子都知事が築地の豊洲への移転を延期。その間、都は豊洲市場の床に新たなにコンクリートを敷いたり、換気システムを強化したりするなど、土壌汚染に関する追加対策を実施。専門家による安全性の確認を経て18年9月、築地の移転先となる中央卸売市場として国から認可された。
10月11日の開場直後は周辺道路の渋滞や、市場内での小型特殊車両「ターレ」の事故など、一部に混乱が見られたものの、その後はおおむね順調な取引が行われた。19年1月5日の初競りでは、青森県大間産のクロマグロに1匹3億円を上回る史上最高値のご祝儀相場が付くなど、幸先のいいスタートを切った。
日本一の魚市場、魚入荷大幅増の目標
およそ6000億円という巨額の事業費を投じ、築地の1.7倍のスペースに最新鋭の機能を備えた豊洲市場。閉鎖型施設で、衛生・低温管理が最大の強みだ。移転前、都は活発な取引を見込んで、2023年度には水産物取扱量を約62万トンとする目標を掲げた。近年の水準を大幅に上回る数字であった。
築地市場の移転案が持ち上がった1990年代後半は、年間70万トン以上の取扱量があり、築地の老朽化に加えて狭隘(きょうあい)化、つまり手狭な点も問題視されていた。「広い場所に移れば、より多くの魚を扱えるようになるのでは」という見方の市場関係者も多く、豊洲移転を後押しした。
移転するまで築地の取扱量は減少の一途だったが、その要因は何も市場のスペースだけではなかった。産直やネットによる流通も含め、市場を経由しない「場外流通」が台頭する中、日本全体の水産物の水揚げ量も減り続け、魚の消費量も肉に抜かれて右肩下がり。そうした状況下で、「広い市場が本当に必要なのか」と疑問視する専門家の声も移転前には上がっていた。
達成率はおよそ半分=旬魚の大不漁が要因
とはいえ、豊洲への移転が実現し、かつて心配されていた風評被害も避けられたことで、取扱量の拡大による巻き返しが期待された。ただ、豊洲に移転しても今のところ、取扱量の減少傾向は変わっていない。都によると、2019年1~8月の豊洲市場の水産物取扱量は合計約22万トン。前年同時期の築地市場に比べ、若干減少している。23年度まではまだ数年あるが、現時点で年換算すると目標の半分程度しか達成していない勘定だ。
期待に反して産物の入荷が少ないのは、予想以上に旬の魚が不漁となっているためだ。卸会社によると、秋が旬のサンマは今シーズンかつてないほどの大不漁に見舞われており、北海道産などの豊洲への入荷は前年の2割程度しかないという。
理由ははっきりしないが、外国漁船の公海での先取りに加え、温暖化に伴う水温の上昇など海洋環境の変化により、サンマ資源の枯渇化が始まったとみられる。ほかにもアキサケやスルメイカなど、多くの魚種の水揚げが低調で、仲卸業者や豊洲にやってくる鮮魚店、料理店などの買い出し人も「仕入れの目玉が見つからない」と不満の表情を浮かべることが少なくない。
さらに近年、魚の寄生虫・アニサキスが警戒され、生カツオの売れ行きが鈍化。春の「初ガツオ」と、秋の「戻りガツオ」が、食卓からやや遠のいているため、豊洲市場の卸、仲卸業者も「旬の魚を売り込めない」と肩を落とす。
当面「量より質」重視と卸
卸会社の中には「今は量を増やすことよりも、消費者ニーズを捉えて質にこだわることが重要」と見る向きもある。来年の東京五輪・パラリンピックを控え「海外に向け豊洲の魚をアピールしたい」(卸)との声もあり、「各業者の総合力で何とか市場を盛り上げていきたい」(同)と意気込んでいる。
魚の卸売りが苦戦を強いられる中、プロではなく一般客の豊洲人気は定着してきた。市場内には、水産仲卸売場棟3階などに、すし店をはじめ計40近くの飲食店が営業しており、日々多くの客でにぎわっている。築地時代から人気の「寿司大」では2~3時間待ちの行列も珍しくないといい、人気は継続中だ。
水産仲卸売場棟4階には、主に業務用のさまざまな調理器具やかつお節、のり製品といった加工食材が買える物販エリアがあり、一般客の利用も可能とあって、足を運ぶ人も少なくない。
観光客の多くが訪れるのが、水産卸売場棟2階の見学通路。ガラス越しに1階のマグロ卸売場が見下ろせるため、早朝には立ち止まって競り風景を眺める姿が目立つ。これまで卸売場の音は聞こえなかったが、10月5日から競り開始の鐘の音や業者らの掛け声がスピーカーで流されるようになり、臨場感があると好評だ。築地時代よりも安全な場所から競りが見られるので、小中学校などの団体客が増え、見学者は2倍以上になったという。
築地のように魚を買えるのか
地元の江東区からも要望が出ている、一般客の魚の購入については業者などが調整中。水産仲卸業者の間では「築地のころのように、一般のお客さんにも売り場へ来てもらって、魚を買ってもらいたい」という人も多いが、「卸売市場だけに業務用の販売に限るべき」(仲卸)といった声も根強い。
中には「時間やエリアを区切って一般客に開放してはどうか」といった意見もあるほか、「一般客の安全をどう確保するかが大きな課題」と指摘する声もあり、年末に向けて仲卸や市場を管理する都などが対応策を検討することにしている。
(バナー写真=手前左は解体が進む築地市場跡地。右奥は豊洲市場 時事)