擬人化ワンダーランド・ニッポン : 国旗をイケメンに、ゴキブリを美少女に

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今から約800年前に描かれた国宝「鳥獣人物戯画」は、ウサギやカエルなどを擬人化して人間社会を面白くおかしく描いた作品だ。「鳥獣戯画」は今もアニメ化されたり、グッズが作られたりして人気だ。そして、現代の日本は、動物のみならず、国旗や駅、血液型などの万物を擬人化して作品を生み出す擬人化大国となっている。その背景をひも解くと…

世界の国旗をサムライに擬人化

国旗の擬人化プロジェクト「ワールドフラッグス」が話題を呼んでいる。サイトでは世界の国旗を擬人化するとともに、国旗の由来や各国の歴史や文化を紹介している。擬人化された国旗をきっかけに、世界の人々が相互理解を深め、オリンピックをはじめとする世界的なイベントを盛り上げていこうというものだ。

キャラクターの特徴を一言で表現するならば「イケメン侍」。サムライは世界的に知られた日本文化を象徴するワードであるから、本コンテンツを通して日本にも関心を持ってもらおうという意図も読み取れる。野球の日本代表のニックネーム「侍ジャパン」など、スポーツシーンで闘争心を表す表現としても好んで使われるので、世界に発信する日本産キャラクターのコンセプトとして相応しいものだろう。

万人受けするマスコット・キャラクターではなく、また男性層の支持を得られる半面、批判も多い美少女キャラクターでもなく、「イケメン」にしている点が興味深い。イケメンや美少女に擬人化することを〈萌え擬人化〉という。東アジアでは2000年代に入ってある程度広まっているが、他の国々からの反応はどうなのだろう。また、男性や中高年層の支持を得られるのだろうか。今後の展開が興味深い。

左から日本、スペイン、フランス、ロシア、英国の国旗の擬人化キャラクター©WORLDFLAGS
左から日本、スペイン、フランス、ロシア、英国の国旗の擬人化キャラクター©WORLDFLAGS

キャラクター作り

「擬人化表現」は、今日の日本においては非常に身近なものとなっている。駅、鉄道、コーヒーショップ、血液成分、コンピュータ言語などありとあらゆるものが擬人化されている。正確に言うと、キャラクターを作る際に、擬人化は欠かすことのできない表現手法となっているのだ。サブカルチャーの世界のみならず、メインカルチャーにもキャラクター文化が浸透している今日の日本においては、不可欠と言える。 

新しいキャラクターを作るときに、モチーフになるものは1つとは限らない。たとえばご当地キャラクターは本体となるモチーフに、その地域の特産物や観光名所、市町村のシンボルとなる花や鳥、著名な歴史上の人物などの要素が加味される。

私の住む埼玉県上尾市の隣の桶川市のキャラクターは市の花であるベニバナを頭部に使い、身体は中山道桶川宿という江戸情緒を残す歴史的景観をアピールすべく江戸の旅人の姿だ。行政や企業、イベント関連のキャラクターには具体的なモチーフに加えて、「未来」や「平和」といった抽象的な観念まで盛り込まれることも多い。

桶川市マスコットキャラクター「オケちゃん」
桶川市マスコットキャラクター「オケちゃん」

複数のモチーフが混成して作られるキャラクターを「複合型」と仮称すると、その一方で一つのモチーフに基づいて一人のキャラクターを造形することも行われる。

たとえば東京モノレールの「天王洲アイル」駅を擬人化したキャラクターは、古い地名の「天王洲」と、英語の「アイル=小島」を組み合わせた名前から、日本人と欧米人のハーフをイメージして、駅を人間の姿で表現することになる。言い換えれば「駅を人に擬(なぞら)える」のである。ここに擬人化キャラクターが誕生することになる。

アマチュアの創作活動の広がり

もともと、擬人化は〈たとえ〉として発想され、啓蒙や風刺などの目的で古くから利用されてきた。とりわけ近代社会では、日本に限らず、風刺・パロディに加えて、児童の教育・啓蒙や児童用・家庭用商品の宣伝などに好んで用いられる。

今日、そうした側面はもちろん踏襲されているが、一方でキャラクターを作る手段として擬人化という手法を使う機会が格段に増えてきた。

その背景としては、1990年代の(コミックマーケットに象徴されるような)同人文化、とりわけ、様々な作品・作家のファン文化の担い手(特に女性層)による表現活動がある。特定の作品・作家のファンコミュニティという“島社会”の中で、好きな作品に登場するキャラクターを使い、オリジナルでは描かれていないストーリーを作ったり、全くことなるシチュエーションで新たなエピソードを展開させたりする二次創作的な営みが繰り返されてきたのである。

80年代後半には、国民的な人気漫画『アンパンマン』や『ドラえもん』に登場するキャラクターをイケメンに擬人化したBL(ボーイズラブ)同人誌が作られ、アニメのパロディのサブジャンルとして形成されていった。こうした二次創作は、さらにさかのぼって70年代後半からファンクラブの会誌やアニメ漫画雑誌の投稿欄などを媒体に盛んに行われ、形を変えつつ今に及んでいる。

形を変える大きな契機となったのが、インターネットの浸透、それに伴うパソコンやスマートフォンの普及だ。個人サイトやブログ、SNSなどを通じて、二次創作した作品が、“島社会”を飛び出し、不特定の人の目に触れる機会が生じたのだ。

多くの人々が共感できるキャラクターを作るには、仲間内でしか通用しない既成のキャラクターや、まったくのオリジナルを創出するのではなく、誰もが知るモチーフを使うのが得策だ。黒板や理科の実験道具のような学校の備品や、通勤通学に利用する鉄道や駅、コーヒーショップや回転寿司のネタ、都道府県や寺社、政党、大学などなど、日常社会のあらゆるものから、果ては不可視のものまで万物が2000年代には「擬人化」の対象となった。

ブームの当初はまだ誰もやっていないネタをアピールすることが多かった。例えば、ゴキブリの美少女化や、憲法第9条の擬人化表現はかなり話題を呼んだ。しかし、「なんでもあり」=「万物が擬人化できる」ことが日常化した今、新奇性よりも、作品の質が問われるようになってきている。

メインカルチャーの中の擬人化表現

ところで国や地方自治体、図書館や警察などの公共機関、企業、大学から地方の商工業会や商店街までもが何かにつけてキャラクター作りに取り組むようになったのは、1990年代から盛んになったご当地キャラクター、いわゆる「ゆるキャラ」の影響が大きい。

一般社会に向けたキャラクターは、児童文化に由来するマスコット的な、老若男女を問わない万人受けをするものが基本路線となる。オタク文化に由来する萌えキャラ路線を採る場合もあるが、しかし女性キャラクターの肌露出多めな表現は性的に見られがちで、多かれ少なかれ批判の対象となるリスクがある。

公的機関の中で、最もサブカル作品に協力的なのは自衛隊だ。地方基地でも独自のキャラクターを設定しているところが多い。背景には、自衛官の募集対象世代にアピールするための有効なツールになり得るとの判断があるのだろう。

その一つに、山口地方協力本部の「めかっ娘3姉妹」のようなアンドロイド(人間型ロボット)という設定の美少女も存在する。これは1980年代のアニメ「機動戦士ガンダム」シリーズに登場するモビルスーツ(MS)を美少女にコスプレさせるようにデザインした「MS少女」の流れをくむものだ。萌え擬人化のルーツも一つではないのである。

自衛隊山口地方協力本部 萌えキャラ「メカっ娘」
自衛隊山口地方協力本部 萌えキャラ「めかっ娘3姉妹」

「擬人化」なのか、「制服を着た美少女」なのか、「アンドロイド」なのかは表現者の設定の問題であって、結果として同じ効果をもたらしている点で一括することができる。要は「萌えキャラ」を創作するという目的を達成するために「擬人化」というキャラクター設定上の選択肢があるわけだ。

文化史の中の擬人化

日本では、中世以来、動植物を擬人化した物語が数多く作られてきた。国宝の『鳥獣人物戯画』に始まり、〈十二支〉〈魚介類〉〈酒〉〈『源氏物語』各巻〉など、一定のカテゴリーを設け、その範囲でキャラクター化したり、他のカテゴリーと対立させたりして楽しむ文化が続いてきた(伊藤慎吾『擬人化と異類合戦の文芸史』参照)。前近代の社会では、子どもから大人まで隔てなく受け入れられるものだった。

そうした「擬人化」という発想に馴染んだ文化伝統が、今日、コミックマーケットなどのサブカルチャー人気や、インターネットの普及など現代の要素を取り入れながら、再生しているように見える。今後どう変化していくか、しっかり観察していきたい。

バナー写真 : WORLD FLAGSのイケメン侍(左から日本、中国、米国、アラブ首長国連邦国旗の擬人化キャラクター) ©WORLDFLAGS

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