原発と地域経済:関電幹部の金品受領の背景を探る

社会 経済・ビジネス 地方

2019年9月、関西電力の幹部らが原発立地自治体の元助役から長年にわたり多額の金品を受領していたことが発覚し、多くの人々を驚かせた。原発と地域経済の密接な関係について改めて解説する。

2019年9月、関西電力の幹部らが、地元の原発事業に絶大な影響力を持つ福井県高浜町の元助役・森山栄治氏(故人)から、3億円余りの金品を長年にわたり受け取っていたことが発覚した。関西電力の記者会見での対応のまずさや報告書の内容が不十分であったとの批判が強まり、会長・社長が辞任する事態となった。報道では「お菓子の箱の下に小判が入っていた」という時代劇のような状況や、森山氏個人の性格・言動への証言に注目が集まっているが、目を向けなくてはならないのは原発とその立地地域の長期にわたる関係性である。

こうした関係性を無視して、今回の不正行為を「原発マネーの還流」と単純化すべきではない。「原発マネー=汚いお金」とひとくくりにしてしまうと、問題点を正確に捉えることができないからである。そこで、本稿では原子力発電と地域の関係について約半世紀の経過を述べ、今回の問題の核心と解決策を考えることにしたい。

原発の増設を必要とする地域経済

国内の原発は1966年に東海発電所(茨城県東海村)が運転を開始して以来、半世紀近くで50基以上にまで増えた。そして、多くの場合「〇〇3号機」などという形で、立地地域には複数の発電所が数年程度の間隔を置いて増設されている。このような展開となった背景の一つに、原子力発電と地域経済の深い関係がある。

原発の誘致は60年代から本格化した。他の地域が工場など工業関連施設の誘致による高度経済成長の恩恵を得ているのを横目に、原発は工業用地として立地条件の良くない地域を中心に誘致された。従ってそうした立地地域では、当初から原発の建設効果による地元の経済成長が期待されていたのである。

原発の建設には数百億円から数千億円もの巨額な費用がかかる。それが地元の建設業にとって特需となり、地域経済に大きな効果をもたらした。しかし、建設を経て運転が開始されれば特需も終わる。すると、今度は地域の経済が逆回転を始め、衰退の危機に直面することになる。そこで、原発を増設することによって再び特需を得ることが要請された。原発の建設や増設の背景には、こうした地域経済の特殊な事情があった。

同時に、原発と地方財政の関係もある。その建設によって、地方自治体は電源三法交付金や固定資産税(償却資産)など多額の収入を得ることができる。ただし、前者は交付対象が建設期間のみで、後者も運転開始から5年で半分になるというものであった。交付金の使途はインフラの整備に限られたが、立地地域にはインフラが十分に整っていなかったので、道路や学校、公民館などの大規模な公共施設が建設された。しかし、後にこうした施設の維持管理費が増加する一方で、交付金の枯渇や税収の減少によって対応できなくなることから、やはり原発の増設によって再び収入を得ることが要請されるのである。

このように、立地地域に複数の発電所が数年程度の間隔を置いて増設されたのは、地域経済や地方財政との関係がその背景の一つにあり、そこで中心的な役割を果たしていたのが地元の建設業者であった。発電所の増設を地域が求めざるを得ないとすれば、それは必ずしも望ましい関係とは言えないだろう。

原発の集積で潤う地域経済

ただし、多くの地域に建設された原発は3~4基程度であり、しかも90年代半ば以降はほとんど増設されていない。原発が一定程度集積し同時に運転することによって、さらに増設しなくても大きな経済効果が得られるようになったのである。3~4基程度あれば運転に関わる従事者が多くなり、発電所の定期検査が恒常的に行われて作業員も増えて、地域内での消費が拡大する。

また、交付金制度も改正を重ね、運転期間中にも交付されるようになった。これも3~4基程度あれば建設時に匹敵する収入となる。また、交付金の使途も広がり、施設の維持運営や産業振興などにも使えるようになった。固定資産税は相変わらず急減するが、ゼロになるわけではなく課税最低限度まで減少した後は一定となるため、3~4基分でも税収は大きい。従って、財政の面でもそれ以上の増設がなくても大きな収入を得られ、しかも幅広く活用できる形になった。

このように、90年代半ば以降から2011年の東日本大震災までの間に、原子力発電と地域の新たな関係が構築された。経済面では建設業の特需から多様な産業における恒常的な波及効果へ、財政面では安定的な収入と広い使途へと転換したのである。立地地域はできるだけ広範囲な産業分野で大きな効果を得るために、電力会社は原子力への理解を深めるために、両者の関係が積極的に強化されていった。発電所の集積と運転が前提であるが、地域が増設を求めざるを得ない状況でなくなったとすれば、以前よりも望ましい関係になったと言えるだろう。

再稼働や運転延長で最後の建設特需

しかし、2011年に起きた東日本大震災で状況が一変した。日本全国の原発が長期間の停止に見舞われ、地域経済が大きな打撃を受けた。エネルギー政策も原子力発電への依存度低減へと転換し、震災前の状況には戻らないと見込まれている。こうした中で、それぞれの原発の廃炉や再稼働・運転延長などの対応も徐々に明らかになってきた。

このうち、再稼働や運転延長をする発電所は、東日本大震災後の新しい規制基準を満たす必要がある。そこで、電力会社は再び多額の投資を行うことになった。必要な投資額は電力会社によって異なるが、おおよそ数千億円規模に達している。これは原発1基分の建設費用にほぼ匹敵し、しかも再稼働や運転延長のために短期間で対応しなければならない。そこで、再び立地地域の建設業に特需が訪れたのである。

経済産業省の調査によると、福井県の敦賀市と美浜町では原発の停止による経済的影響はサービス業でマイナスが大きかったものの、建設業におけるプラスでほぼ相殺されたという。しかし、建設特需は一時的なものであるし、今後は原発への依存度低減へと転換する。そのため、地元の建設業者にとって今回の特需は最後のチャンスとも言える。福島第一原発の事故以降も行われていた関西電力への資金還流は、こうした危機感と期待感のはざまでの行き過ぎた対応と言えるのではないか。

こうして還流された資金は汚いお金だが、さまざまな経緯を踏まえると、「全ての原発マネー=汚いお金」とひとくくりにすることはできない。そもそも他の地域と同様の経済的効果を目的に発電所が建設されたこと、その後は増設しなくてもよい形になったこと、経済的効果は原発に対する地元理解を深めるために必要なことが主な理由である。

また、電源三法交付金の趣旨は、原子力発電による電力の恩恵は主に大都市の消費地が受けることから、消費地が享受する利益の一部を生産地に還元して両者のバランスを図ろうとするものである。その意味で、交付金の原資は消費者が納める電気料金であり、利益還元と地元理解を前提に大都市の住民や企業が負担している。そのため、地元が経済的効果や税収・交付金を得ることまで否定されるものではないだろう。

「資金の還流」プロセスの徹底究明を

では、今回の事件を受けて今後必要なことは何か。それは「透明化」に尽きる。資金の還流は汚いお金として糾弾されるべきであり、透明化の仕組みがあれば防げたのではないか。福島第一原発の事故以来、原子力発電に対する国民の不信は強まっている。また、電気料金も原子力発電の動向に左右される。電気料金の影響を受けるのは、特に消費地の人々や企業である。不信を取り除くためには、お金を支払う側に見えない暗部をなくしていくしかない。

関西電力が設置した第三者委員会の調査によって、不正な金品受領のプロセスや原因が徹底的に究明され、失われた信頼を取り戻すための再発防止策が示されない限り、新たなエネルギー政策の下で原子力発電と地域の関係を健全な形で再構築することはできないだろう。

バナー写真=1、2号機の再稼働に向けて工事が進む関西電力高浜原発。2019年10月11日、福井県高浜町(時事)

地方 原発