介護職が足りない!:十分なサービスの確保に不安も

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重労働の割には低賃金といったマイナスイメージが定着している介護職。離職率が高く、ケアの現場は慢性的な人手不足に陥っている。事態の改善に向けて、どのような手を打つべきなのか。

今後の高齢化で加速する介護職不足

日本は世界に類を見ない超高齢化社会に直面している。厚生労働省の資料によれば、公的介護保険を利用できる要介護(要支援)認定者は年々増え続け、2017年度で約633万人となっている。65歳以上の被保険者は約3575万人いるので、高齢者の約18%が何らかの介護サービスを必要としていることになる。

しかも、日本の人口構成を年齢別でみた場合、70歳代前半(1947年~49年生まれ)の層が最も多い。35年にはこうした「団塊世代」が85歳となる。75歳~79歳全体に占める要介護者の割合は約14%であるが、85歳~89歳となると約50%にまで高まるため、15年後の日本社会は非常に多くの要介護者の対応に追われることになる。

とかく社会保障問題となると、サービス拡充のための財源論が焦点となる。無論、介護保険サービスも公共サービスであるから、「負担と給付」といった財源論は大きな焦点となる。しかし仮に一定の財源が確保されたとしても、必ずしも全ての要介護者が介護サービスを受けられるとは限らない。なぜなら、サービスを提供する介護職が圧倒的に足りなくなるからだ。厚労省の試算によれば、16年度は約190万人の介護職が現場で働いているが、このままの推移で高齢化が進めば25年度末までに約55万人の新たな介護職が必要との推計がなされている。しかし、あと5年でこれだけ大量の介護職を確保することは、超少子化に突入している日本社会においてかなり難しいと言えるだろう。

18年度の全国における介護職の有効求人倍率は3.95倍と、全産業の1.46倍をはるかに超えている。ただし1.46倍も高い数値であり、併せて失業率も2.4%と1993年以降最も低い値となっている。これは90年前後の日本経済が最も好調だったバブル期と同様の雇用情勢で、つまり日本社会全体が人手不足に陥っているのである。こうした中で、介護職不足は加速するに違いない。

辞めた理由のトップは低賃金ではなく人間関係

不規則勤務(夜勤)や認知症高齢者対応といった重労働の割には低賃金であり、慢性的な人手不足により有給休暇も取りづらいというマイナスイメージが介護職には定着している。政府による財政支援がなされているとはいえ、実際には全産業の給与水準においては年収ベースで約100万円も介護職は低い値となっている。もっとも、介護職が他産業と比べて敬遠される要因は、賃金問題だけでなく労働環境にもあると考えられる。介護労働安定センターの調査によれば、介護職を辞めた理由のトップは人間関係であり、収入面に関しては必ずしも最大の要因とはなっていない。しかも、法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満という要因も一定の割合を占めている。

このアンケート結果から、介護職に就く人たちは必ずしも高い給与を求めることに優先順位を置くのではなく、「やりがい」「職場の働きやすさ」「人間関係によるストレスを感じない」といった点を重視しているのが分かる。福祉関係の職業に就く人たちは、気持ちが通じる仲間と一緒に人のために役立ちたいと考える傾向にある。そのため、人間関係が悪い職場では、多くの介護職が離職することになる。しかし、労働環境が良くない介護現場の管理職員らは、こうした問題を十分に認識していないのである。さらに、昨今、日本社会で顕在化した「セクハラ」「パワハラ」問題が介護現場でも顕著になりつつあり、介護職の魅力を低減させている。こうしたさまざまな要因により介護職の離職率は全産業を上回っており、離職者の6割以上がわずか3年未満で辞めている。

 また、「権利意識」の高い要介護者やその家族が増えたことも最近では離職を促す要因となっている。例えば、「看(み)てもらって当然と考える」「介護職を家政婦のように見なす」など利用者側に「誠意」がなく、それが原因で介護職が辞めてしまうケースも多い。マナーに欠ける要介護者が増えていけば、介護以外の労働市場も売り手市場であるため、いくら専門職とはいえ、介護分野以外に多くが転職してしまうことになる。その意味では、介護職を増やしていくためには、要介護者やその家族のモラル教育も不可欠である。

外国人介護職の活用には専門スタッフが不可欠

日本の介護業界では外国人人材に期待が寄せられている。介護施設の経営者などが東南アジアへ出向き、人材獲得に積極的である。自治体も外国人介護職の受け入れに乗り出し、補助金制度などの創設も活発だ。筆者は外国人介護職の受け入れについては「賛成」の立場ではあるが、日本人の介護職が不足しているからといって、外国人で補えば問題が解決するといった発想は安易だと考える。

確かに、規模の大きな介護施設では、外国人介護職の指導を専門とするスタッフを配置し、仕事に慣れるまで「ジョブコーチ」として養成・指導しているケースも見受けられる。しかし、人材不足に悩む多くの介護施設では、これら専門スタッフを配置できるほどの余裕はなく、通常の介護業務に就いている日本人スタッフが外国人介護職の教育係となるケースが多い。特に、日本語能力が十分でない外国人を指導するとなると、例えば、「ぬるいお茶」「冷たいお茶」などの違いを理解しないまま介助にあたり、指示の行き違いでかえって日本人スタッフの仕事量が増えてしまう。

外国人介護職を雇用することで人員配置基準を満たすことができ、「法令順守」としては問題解決となるであろう。しかし、外国人介護職に一定のスキルを身に付けさせるための日本人指導者を十分に確保できる介護施設はそれほど多くない。養成する専門スタッフがいなければ彼らは戦力とはならず、外国人介護職を呼び寄せるだけで事が済むわけではない。

最優先すべきは魅力ある介護現場の構築

ある介護施設に入所している高齢者が、「慣れたと思ったら辞めてしまい、また新しい人がケアにあたる。でも、介護される側もけっこう気を遣うので、できるだけ介護職の方に定着してほしいのよ。慣れた人に長く続けてもらうことも、介護サービスの質の一つだから」と、筆者に語ってくれたことを鮮明に覚えている。要介護者にとっても、介護職が安定して働き続けることができないのは深刻な問題なのである。

介護人材不足を解消するためにさまざまな議論が行われているが、最優先されるのは介護現場に良きリーダーを備えることだと筆者は考える。現在、時代錯誤的な労働観を持った40歳代以上の管理職は少なくなく、若手を指導し養成する立場の課長・主任クラスの不適切な対応が、介護職の「魅力」を大きく減退させているケースが多い。しかし尊敬できる先輩介護職がいれば、それなりに人材は集まってくるものである。中間管理職の再教育も必要だろう。介護業界が他産業との「人材獲得競争」に勝つためには、まず良き指導者によって介護現場を魅力あるものに変えていくことから始めるべきである。

バナー写真=(PIXTA)

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