まだまだ足りない首都圏空港容量、羽田民営化と成田との競争がカギ

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羽田からの国際線が今春以降、さらに50便増える。「国際線は成田、国内線は羽田」を30年余り絶対的に強要されてきた世代の筆者からすれば、夢かと思うような変化だ。今回の増枠は、羽田発着便の東京上空飛行を認めることによって可能となった。日本経済のけん引力を今後も東京に依存せざるを得ない状況では、首都圏の航空キャパシティ確保は最重要の施策だ。

東京上空飛行がようやく実現

首都圏の空港需要は、国土交通省の最近の予測では、2032年には発着回数で少なく見積もっても年間78万回、多ければ94万回にも達する。これに対し、東京上空飛行なしの場合の成田・羽田の容量は71万回にすぎなかった。

東京上空飛行により、容量は数万回増加可能となる。仮に新たな滑走路を建設しても、東京上空飛行が認められなければ、上空が混雑したままのため発着枠は増えないから、これは非常に重要な要の施策である。

筆者が東京上空通過を訴えていた30年前、世間はまったく相手にしなかった。羽田の拡張と再国際化も、役所は2010年まで突っぱねてきた。しかし、30年前に「絶対無理」とタブー視されてきたことで、現在、実行済みの施策はたくさんある。空港の民営化、航空輸送の自由化、羽田の拡張、成田の滑走路延長・時間制限緩和なども、筆者が主張していた30年前にはすべて「絶対無理」と否定されていた施策である。

結局は、なんとも単純な話だが、既得権者の関心の変化と目の前に迫った東京五輪が政策担当者をやっとやる気にさせたというだけのことなのだ。

課題は騒音と落下物

しかし、いずれは実施すべき案にずっと蓋(ふた)をしておいて、いきなり実施しようとすると、当然軋轢(あつれき)が生じる。東京上空飛行経路は合理的かつ必要な案であるが、一方で、騒音問題や落下物問題など課題も大きい。それらへの対応策は短期間によく工夫されたとはいえ、いかんせん、急場しのぎの感がいなめない。

騒音課金の適切な水準や方法、補償については、もっと前から検討すべきであった。30年前から東京上空を検討していれば、不十分な騒音対策のままで見切り発車をする必要はなかったのである。深謀遠慮のない先を見ない政策は、結局、高い費用を国民に課すことになる。

羽田に第5滑走路、首都圏にビジネスジェット専用空港を

東京五輪は、腰の重い政策担当者に喝を入れるには有効であったかもしれないが、仮に新型コロナウイルスで開催不能となっても、長期的に見て、首都圏の航空需要を満たすには、今回の東京上空飛行だけでは十分な対応はできない。

羽田に新しい5番目の滑走路を建設すれば、東京上空飛行を組み合わせて、羽田で60万回の発着枠を確保できる。これに、成田の運用時間拡大と飛行経路の緩和が加われば、ようやく2030年以降の需要にゆうゆう対応できるようになる。

日本経済は今後も東京に依存せざるを得ず、けん引力が失速してしまえば、地方再生も創生もありえない。

加えて、航空旅客一般の対応だけでなく、アジアの経済・金融センターとして東京が発展するには、MICE(会議や国際会議、展示会などの大イベント)や統合型リゾート(IR)の整備と並んで、富裕層やトップ経営者のためのビジネスジェットの基地が必要となる。このためには、都心基幹空港である羽田にビジネスジェットの発着枠と駐機スペースを十分に用意するか、あるいは、ビジネスジェット専用の二次空港を整備すべきである。

「そんなもの、つくる余地ないよ」と笑いものにされそうだが、羽田の5本目の滑走路は、C滑走路と平行に建設が可能であり、水上交通との話し合いができれば難しい話ではない。ビジネスジェットの専用空港も、現有のジェネラルエヴィエーション(航空輸送以外の航空活動)用の空港の拡張でもよいし、東京湾に新設するのも一案だろう。

ロンドンの都心にあるロンドンシティ空港は、1980年代になってドックランドに新たに建設された民営空港である。市場のニーズと民間の創意はこういった思いがけない成果をもたらす。30年前には笑いものだった多くの施策が結局は実現された事実を今一度想起してほしい。

成田に競争力はあるか?

羽田だけでなく成田にも一層の活躍が求められる。一昔前は絶対にタブーの施策であった成田の滑走路延長、運用時間拡大、飛行経路の修正も、粘り強い空港会社の地元との話し合いが功を奏して、展望が開けてきた。

前述したように、今後の首都圏航空需要に対応するためには、最低でも80万回程度の容量が必要だが、それには羽田だけでは十分ではなく、成田に現行を大きく上回る量を分担してもらうことが必要である。したがって、成田の重要度が低下することは決してありえない。

また、時間にセンシティブでない低運賃旅客にとっては、羽田と成田のアクセス時間差はあまり影響しない。低運賃客の集合は2時間前だから、近い羽田の強みはあまり生かせない。さらに、成田のほうが距離的にも便利な人たちが首都圏東部には相当数存在し、その航空需要は成田の空港容量を満たして余りある。

すなわち、成田の競争条件は世間で言われるほど悪いものではない。そして、羽田との、さらには格安航空会社(LCC)専用空港の可能性を秘める茨城空港も加えた空港間競争が一層活発化すれば、首都圏航空需要はさらに増大することになるだろう。

カギは空港間競争

今や、世界のおおむね人口100万人以上の大都市では、複数の空港間競争が十分成り立っている。基幹空港とLCC主体の二次空港、ビジネスジェット専用空港との間でし烈な競争が戦われており、これが航空輸送の多様化と低廉化をもたらしている。

成田と羽田も、切磋琢磨して競争してこそ、よりよいサービスとより安い使用料が提供され、首都圏全体としての空港の競争力も向上する。逆に、関西のように、3空港を統合して同じ経営体のまま民営化することは独占の弊害をもたらす。

そして、この空港間競争をより実りあるものにするには、羽田空港の民営化があわせて必要だ。民営化されなければ、競争しようという意識は生まれず、効率改善は望めない。民営化と競争は車の両輪である。

バナー写真:羽田空港(PIXTA)

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