ネット社会で成長の「ギグエコノミー」、欧米から日本へ浸透も

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インターネットやスマートフォンのアプリなどを通じて、企業に雇用されることなく、一時的、単発の仕事を請け負うアドホックな働き方や経済形態を「ギグエコノミー」と呼び、欧米を中心に普及している。高齢化社会に突入した日本でも浸透していく可能性がある。

世界で広がるギグエコノミー

ギグエコノミーの定義は定まっておらず、さまざまある。米国の人材業界専門メディアStaffing Industry Analysts(SIA)による2018年の米国でのギグエコノミーの経済規模予測 は1.3兆円。SIAの定義は広義で、「直用の臨時労働者」「ヒューマンクラウド」「SOW(専門)コンサルタント」「個人事業主」「派遣労働者」の5つの形態が含まれている。

英オックスフォード大学インターネット研究所によると、ギグエコノミーの市場は1年で3割拡大すると試算し、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、7年後には世界で37兆円の市場になると予測している。

また、ギグエコノミーの人材規模は約5300万人と、米国の労働力人口の約35%相当になる。内訳はヒューマンクラウド790万人、SOWコンサルタント130万人、個人事業主2700万人である。個人事業主の規模が大きいが、ヒューマンクラウドが非常に速いスピードで成長している。

ギグエコノミーは重要な人的資源

興味深いのは、「ヒューマンクラウド」の一形態であるとされる「オンラインスタッフィング」の仕事の4割は米国が発注したもので、その受注先の7割はアジア圏であるという。ギグエコノミーは、テクノロジーの活用によってボーダーレス化されており、よりグローバルな領域でビジネスを展開している。

欧米では、社会全体で人的資源を共有する「トータル・タレント・マネジメント」というコンセプトに基づき人的資源を活用する企業が多い。従業員と、従業員以外の社外人材(フリーランサー、ギグワーカー、専門コンサルタント、副業が可能な他社で雇用されている従業員)、人間以外のAIなど、労働市場にいるあらゆる資源から最適なものを獲得し、独自の人材ポートフォリオを組むというものである。

つまり、従来の企業の枠を超えて、世界中の労働市場から必要とされるタレントを調達しようということで、特に英語圏では、新興国や東欧からのIT人材の活用、時差を利用した働き方など、人材のボーダーレス化が進んでいる。

欧米の場合は、企業規模にかかわらず外部の専門的な労働力を積極的に活用している。ギグワーカーは、求められる要件に応えることができる技術があれば、働く時間や場所を問わず、柔軟で自由な働き方をすることが可能だ。営業職、ソフトウェア開発、クリエイティブ職といった専門職への需要は変わらず高く、ギグワーカーは人手不足の解消に寄与している。

ギグエコノミーを牽引するのは仲介事業者

ギグエコノミーは、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)などドライバーや宅配デリバリーのイメージを持つ人も多いようだが、ほかにも料理や掃除などの家事サービス、プログラミングやアプリの開発、ウェブサイトのデザインといった高度な専門スキルを提供するものまで、その領域は幅広い。

欧米でギグエコノミーが発展した背景には、ネット上でプラットフォームを提供するオンライン仲介事業者の成長があると考えられる。専門のサイトやアプリ上でテクノロジーを活用して消費者側(企業や個人)の需要と、ギグワーカーをマッチングし、供給を最適化する仕組みである。ギグワーカー側はサイトに登録し、働くことが可能な仕事内容、日時、場所を登録する。消費者側は利用したいサービスを選択する。

仲介事業者は、営業先の開拓や仕事のマッチング以外にも、バックグラウンドチェック、過去の仕事の実績の紹介、コミュニケーション面のサポート、報酬の支払いに至るまで各プロセスにおける業務の代行やサポートをする。ギグワーカー向けには、身元保証、発注者との連絡、請求書の発行や売掛金の回収の代行といったギグワーカーがより仕事がしやすい環境を整える。

個人との取引少ない日本企業

一方、日本ではいわゆるBtoB企業が主流。経団連によると、大手企業は主に法人取引が中心で、個人との取引は、デザイナーやソフトウェアの開発などの専門業務に限られるという。専門性の高い人材に仕事を依頼したいと思っても、人材発掘のノウハウがなく、「適切な人材が見つけにくい」という。

こうしたマッチング面での課題は非常に大きな阻害要因となっている。ほかにも、品質の見極めがしにくいとか、違約や損賠賠償が生じたときに個人には高額の発注がしにくいとか、躊躇(ちゅうちょ)する理由がいくつかあるようだ。

一方、受託側(個人)からすると、仕事の受注は「前の勤務先の紹介」や「職業訓練先からの紹介」などが多い。まだ全体のシェアは多くないが、新規取引に関しては仲介事業者やシェアリングエコノミーサービス、プロダクションなどを通じての取引も増えつつある。

副業解禁でギグワーカーは増加するか

欧米主要国ではウーバーやリフトといったライドシェアがサービスの多くを占めるが、日本では、道路運送法に基づく一般乗用旅客自動車運送事業許可が必要とされ、誰もが空いた時間に気軽にドライバーになることはできない。オンラインを利用したギグエコノミーは広がりつつあるものの、従来のフリーランサーの働き方はあまり変わってはいない。しかし、ギグエコノミーが広がる可能性は2つある。

第一は、企業による副業の解禁である。政府による副業の推進によって、就業規則から副業禁止の条項を外す企業が増えつつある。人材育成を目的とした内容であること、他業種であること、本業に支障がないこと、ある程度の勤続年数を経ていることなど、一定の条件を満たすことで副業と認める企業もある。2016年以降に副業を容認した企業をみると、アサヒビール、HIS、カゴメ、コニカミノルタ、サイボウズ、新生銀行、ソフトバンク、DeNA、パーソルHD、ヤフー、ユニ・チャーム、ライオン、リコー、ロート製薬といったリーディングカンパニーが名を連ねている。

第二には、高齢者によるギグワークである。70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法などの改正案が2月4日に閣議決定された。定年延長や再雇用のほかに、フリーランスや起業した場合に業務委託で報酬を払う選択肢も認めるという。今国会で成立すれば2021年4月にも適用する見通しである。

人生100年時代、就業規則に合わせた固定的な働き方よりも、健康状態に合わせて、働く場所や時間などを自分で選択できるフリーランスやギグワーカーが活躍する余地は大きい。

このように、日本では副業や高齢者による業務委託など、パートタイムのギグワーカーが増加する可能性が出てきた。あとはこの二つの新しい人材の市場をどのように創り、育てていくことができるか。人材のマッチングや、職域の開発、サポート機能の充実などが課題となるだろう。

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