米国の対中強硬策は問題だらけ、ハイテク冷戦はIT産業を弱めるだけ

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新型コロナウイルスによる肺炎禍の拡散とともに、世界経済の先行きを左右するのは2020年の米中経済関係の行方だ。2018年後半以来、米中の経済対立は「2つの独立した劇」が同時進行していると考えている。トランプ大統領のホワイトハウスが主導する貿易戦争と、超党派の対中タカ派が主導する、いわゆる「ハイテク冷戦」だ。後者は決して大統領が仕切っているわけではない。

矛を収めた貿易紛争

「予測不能」と評されるトランプ大統領だが、米中貿易戦争に関しては、分かりやすかった。派手なブラフを繰り返したが、結局は輸入拡大や市場アクセス、知財権制度改善など早期に成果の見込める論点を追求し、産業政策や補助金など根の深い争点を先送りする選別策をとった。米中双方が制裁関税をフルに課し合うような全面貿易戦争はしたくないという本音が見え見えだった。それは経済、特に株価が打撃を受けて再選に響くからだろう。

中国側も「次善の策」を追求する姿勢が明らかだった。輸入拡大や市場アクセスで大幅な譲歩をしたのに、米側が課した制裁関税の過半が残存してしまった結果は不本意だろうが、だからと言って全面貿易戦争を選択する意図や余裕は中国にもなかった。

それ故、米中双方にとって、フェーズ1ディールは悪く言えば、オチが見え見えの田舎芝居のようになった。ただ、昨今の新型肺炎禍のせいで中国経済が減速すると輸入数値目標が未達に終わり、秋の米大統領選前にも紛争が再燃するリスクはあるので注意は必要だ。

気懸かりなハイテク冷戦

一方、過去1年余りハイテク面で米国がとってきた政策は、対米外国投資委員会(CFIUS)強化に見られる中国からの投資制限のほか、米国政府・企業による中国製IT機器利用禁止、いわゆる「エンティティ・リスト」に掲載された中国企業に対するIT機器等の輸出禁止(第三国による米国製技術の再輸出を含む)などエスカレート。各国が5G通信網を整備するに当たって中国の通信機器メーカー、ファーウェイ社製5G通信機器を使用しないように同盟国に迫るなど、あれよあれよという間に政策が強化された。

安全保障懸念は言い出せばきりがない。これでもまだ不十分とばかり、規制がさらに強化される見通しもあるようだ。米国が懸念する中国の安全保障リスクとこれに基づく米国の政策について、日本はどのように対応すべきか。筆者は次のように考える。

第一に尖閣列島の実効支配をなし崩しにしようとする試みや、日本の防衛関連企業に対する組織的なサイバーアタックの例を引くまでもなく、中国が日本の安全保障に及ぼすリスクは否定のしようがない。

第二に良し悪しを別に、米国との同盟によって安全保障を担保している日本にとって、米国が安全保障を名目として要請してくる中身を拒絶することは非常に困難だ。米国の要請に従うことは、後述するように日本の産業経済に大きなマイナスをもたらす恐れが高いが、それは同盟維持のためのコストとして認識されるだろう。

しかし、そうだとしても、米国の対中ハイテク冷戦は極端な政策であり、以下のように米陣営の孤立を招く恐れがある。

西側のIT産業を傷め、中国を利するだけ

IT産業は、世界貿易機関(WTO)が1996年にIT協定で関税ゼロをうたって以来、自由貿易とグローバリゼーションで発展してきた産業だが、近時の米国の強硬策は「IT産業は自由貿易の適用除外業種とする」と出し抜けに宣言したも同然だ。

特に重い罰則で担保された取引禁止・ボイコット型規制はビジネス活動を萎縮させるマイナス効果が極めて大きい。グローバルに発展してきたITサプライチェーンも寸断されてしまう。

西側IT産業が中国との取引を捨てさせられれば、打撃は大きい。エレクトロニクス産業が衰退した日本にあって、電子部品産業だけは元気さを保ってきたが、今後米国の政策がさらに強化されていくと、この業界も衰退を余儀なくされる。韓国、台湾、ひいては米国のIT産業とて同じ運命だ。

かたや米国が打ち出した取引禁止措置によって半導体供給途絶のリスクに直面した中国側は、倍旧の勢いで自国の半導体産業を育成し始めた。ファーウェイのスマホに使われてきた米国製部品もどんどん国産に置き換わっていると聞く。米国の強硬策は、まさに狙いとは正反対の結果を招くと懸念される。

また米国は世界中で整備が始まった5G通信ネットワーク整備からファーウェイなど中国製機器を締め出すことを求めてきたが、いまのところ、米国陣営に加わったのは日、豪、ベトナムの3カ国くらい、G7でも英や独が「条件付きファーウェイ導入」方針だし、G7以外のG20主要国に至っては、ほとんど「ファーウェイ歓迎」方針を明らかにしている。

そうなるのは、あまりに極端な「排除」方針は、コスト高、整備遅延、通信品質の悪化などデメリットが大きすぎるためだ。

データ経済めぐる制度間競争に負ける

21世紀は取得データ量の多寡が経済競争力を左右する「データ経済競争」の時代になると言われ、そのデータ経済の仕組みやルールを巡って米中が競い合う結果、21世紀はデータやデジタル経済を舞台に世界経済が米中両陣営にデカップル(分裂)し、ブロック経済化するという言説がある。

中国は自国データを障壁を立てて保護する一方、他国では、好き放題にデータを取得する「非対称・不公平な競争」を進めており、プライバシーやセキュリティに対する配慮も足りないと米陣営は主張して、対抗するブロックを構築しようとする。

しかし、目を東南アジア諸国連合(ASEAN)や中東、インド、アフリカなどに転ずると、先進国を上回るスピードで経済のデジタル化・スマホ化が進行している。そこでは、ファーウェイやZTEのハードウェアが大きなシェアを持ち、ソフト・アプリでは、アリババやテンセントなど中国プラットフォーム企業が現地有望企業に活発な合併買収(M&A)を展開して民間ベースのアライアンスを拡大している。つまりブロックの構築では、中国の方が先行しているのだ。

それは、中国のこれまでの動きが民間・ビジネス主導だったからだ。かたや米国は、政府主導、しかも排除措置などデメリットだらけの仕組みへの参加を求めて、相手国政府にどう喝まがいの働きかけをしている。加盟国獲得の競争では、メリット、魅力を競い合うべきなのに、こんなやり方で中国に勝てるとは思えない。

このままでは、米国と追随国が残る世界から孤立し、21世紀の技術競争でも劣後する結果を招きかねないのではないか。

米の軌道修正に期待

二つの希望を持ち続けたい。

一つは技術開発の行方だ。いまは中国の一党支配と覇権拡大を後押ししそうに見えるが、潮目が変わって、技術が共産党の一党支配に引導を渡す可能性に期待したい。

もう一つは、米国の変化の可能性だ。米国はよく過ちを犯すが、修正力も高い国だ。覇権を巡る米中の争いは今後も続くだろうが、いまの極端な政策は将来修正される可能性があると思う。日本は安全保障で米国に追随せざるを得ない国ではあるが、米国に過激な政策のデメリットを注意喚起し、従うにしても「やがて修正されることあり得べし」の心積もりで従う、したたかさを持ちたい。

バナー写真:トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(右)、真ん中は安倍晋三首相、G20サミットで=2019年06月28日、大阪市[代表撮影](時事)

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