鎌倉市:「GWは観光を控えて」、異例の海岸道路規制へ-コロナ拡大防止で訴え

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新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、まもなくゴールデンウイーク(GW)を迎える。緊急事態宣言を受けて、外出自粛が続く中、このGWの人出いかんが感染爆発(オーバーシュート)を回避できるかの鍵を握っている。例年、多くの観光客でにぎわう古都・鎌倉(神奈川県)も「今年だけは観光を控えてください」とのキャンペーンを開始。最終手段として海岸道路(国道134号線)の通行規制に乗り出す。大都会からの人の流入を極力抑えたいのは全国の観光地に共通した願いだろう。

メインストリートは閑散

GWを控えて、鎌倉市の松尾崇市長はこのほど、地元の商工会議所会頭や観光協会会長との連名で、「今は鎌倉への観光を控えるようお願いいたします。皆様の行動は、ご自身と大切な人の命を守る取り組みにつながります」とのアピールを対外発信。市を挙げて、観光制限に取り組んでいる。屈指の観光地だけに苦渋の決断だ。

GWの人出を占う試金石が4月19日の日曜日だった。この日は快晴に恵まれ、最高気温22度。例年ならば、この季節の鎌倉はメインストリートの小町通りが人波であふれ返るほか、鶴岡八幡宮や大仏、古刹(こさつ)巡りをしたり、海や山へ繰り出したりする観光客でにぎわうが、今年は様子が違う。

鎌倉へ向かう江ノ島電鉄線は通常4両編成のところ、この日は2両編成。それでも先頭車両は14人しか乗っていなかった。JR横須賀線もガラガラだ。駅からほど近く、約250の飲食店や雑貨・土産物店が軒を連ねる小町通りはところどころ休業している店もあり、人通りはぐっと少ない。

小町通りの人影は少なかった=4月19日、筆者撮影
小町通りの人影は少なかった=4月19日、筆者撮影

川端康成ら文士が通ったことでも知られる老舗喫茶「イワタコーヒー店」は閉じ、「お客様と従業員の安全確保のため、5月6日まで休業とさせていただきます」とのお知らせが貼られていた。鳩サブレで知られる豊島屋は、かき入れ時の土日に休業し続けている。

しかし、休業できるのは「オーナー系など体力のある店に限られる」(鎌倉商工会議所の廣瀬信事務局長)。少しでも開けないとやっていけない店も多く、時間短縮やテークアウトへの転換など、新型コロナウイルスの感染防止に努力しながら細々と営業。飲食店に対し、県は独自の支援策として「感染症拡大防止協力金」を給付するほか、市は家賃2カ月分の補助などを検討しており、「一刻も早く実施を」と廣瀬氏は訴えている。

「車で海なら安全」の思い込み

19日の街の様子を見る限り、GWの人出も抑えられそうに思えたが、市は「決して楽観視していない」(観光課)と警戒を解いていない。最大の理由が、鵠沼から由比ガ浜、材木座など相模湾の海岸沿いを走る国道134号線の混雑ぶりだ。外出自粛で家にこもっていた近県の人々は、陽光と青い海を求め、湘南海岸に押し寄せてくる。

NTTドコモのモバイル空間統計によれば、晴天だった19日午後3時時点の人出は感染被害発生以前の1、2月の休日平均と比べ、鎌倉駅周辺で51.1%減少したのに対し、134号線沿いの鵠沼海岸周辺(藤沢市)は59.2%も増加。内陸部と海岸で人の動きが極めて対照的なことが鮮明になった。

「不特定多数の客と電車に乗るのは危険」という考え方は人々に浸透しているようだが、「自動車の車内にいる限りは安心とか、車外に出ても海辺なら開放空間なので大丈夫とか思われているようだ。しかし、決してそうではない」と同課の担当者は強調する。

(左)江ノ電はガラガラ、(右)国道134号線はいつもと変わらず混んでいる=4月19日、筆者撮影
(左)江ノ電はガラガラ、(右)国道134号線はいつもと変わらず混んでいる=4月19日、筆者撮影

車から降りて、駐車場や公衆トイレ、コンビニ、飲食店に立ち寄れば、人が密集するポイントがいくつもできる。海辺でも、いわゆる「3密」(密閉・密集・密接)の条件が備わり、感染源になる可能性が十分あるというのだ。聖マリアンナ医科大学病院感染症センター長の國島広之教授は、「密閉と言えなくても、鎌倉の海岸は混み合う。ビーチバレーをしている人もいるが、ハーハー息を吐き出している。もはや人を見たらコロナ患者だと考えて行動すべき時だ」と警鐘を鳴らす。

住民の間でも、不安の声が聞かれる。海岸沿いの長谷に住む80代の女性は、「散歩していると突然、マスクをしていない若い人と出くわしたりして、危険を感じる」と話す。鎌倉市は感染リスクのある高齢者が多く、地元の飲食店の中には「見知らぬ来客は『常連さんに迷惑が掛かる』と心配しているところもある」という。

車の流入を避けるため、市は駐車場の閉鎖を呼び掛けているが、実施しているのは6カ所に過ぎない。対策の決め手に欠ける中、鎌倉市は4月22日、湘南エリアの他の10市町とともに共同で、黒岩祐治県知事に対して要望書を提出。国道134号を含めた海岸周辺の主要道の通行止めや通行制限のほか、海岸エリアの封鎖や利用制限を求めている。GW前の実施を要望しているが、具体的な実施時間帯などは今後、詰める。

要望書を渡す松尾崇・鎌倉市長(手前真ん中)、奥は黒岩祐治県知事
要望書を渡す松尾崇・鎌倉市長(手前真ん中)、奥は黒岩祐治県知事

GW中も移動は禁物

鎌倉市で確認された新型コロナ感染者数は4月20日時点で38人。人口約17万人の小都市の割には多く、人口比の感染者率は横浜市の3.2倍もある。県も市も主な感染原因までは把握しきれていないが、一つ言えるのが東京圏との行き来という点で、横浜市は通勤・通学者が中心なのに対して、鎌倉市は観光客の流入が多いということだ。感染者比率の高さは観光客と因果関係があるのか解明が待たれる。

他県に目を転じても、千葉県の森田健作知事が、房総を訪れるサーファー急増を念頭に「県外の方は県内への移動を自粛してもらいたい」と訴えているほか、当初は感染者の比較的少なかった沖縄県や島根県などでも、都会からの「コロナ疎開」に警戒感を示している。

聖マリアンナ医科大の國島教授は、最近になって新型コロナウイルス感染による死亡者数が毎日2桁台で増えていることに懸念を示し、大型連休中の移動について、くぎを刺す。「この期間中も犠牲者が増え続ける可能性があり、外出する気分になれないのが普通ではないか。緊急事態宣言は5月6日の期限を迎えても、解除するのは難しいだろう」

バナー写真:国道134号線は鎌倉方面も江の島方面も渋滞=4月19日筆者撮影

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