コロナ禍でまん延する偽情報 ファクトチェック(真偽検証)活動で国際連帯:楊井氏に聞く

社会 医療・健康

新型コロナウイルス感染の爆発的な拡大で、世界中でこれに関連した大量の真偽不明情報が飛び交っている。デマによる差別・人権侵害の動きや買い占めなども一部報告されている。ファクトチェックの国際協力プロジェクトを立ち上げ、諸外国の団体と協力して「真偽検証」の活動を推進するNPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の楊井人文事務局長に話を聞いた。

楊井 人文 YANAI Hitofumi

NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)理事・事務局長。1980年生まれ。慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者。退職後、法科大学院を経て、2008年より弁護士登録(第一東京弁護士会、ベリーベスト法律事務所所属)。12年、日本報道検証機構を設立。17年、FIJを設立し、理事兼事務局長に。19年10月よりNPOメディア「インファクト(INFACT)」ファクトチェック部門編集長。著書に『ファクトチェックとは何か』(岩波ブックレット・共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。

――今回の新型コロナ禍をめぐっては、日本では例えば「お湯を飲めばウイルスは死ぬ」という偽情報が広がったり、一時トイレットペーパーの買い占め騒ぎが起こったりした。世界ではどうか。

楊井 インターネット、特にSNSを媒介に、空前の規模で「偽情報」「真偽不明情報」が飛び交い、感染症のパンデミック(世界的大流行)ならぬ「インフォデミック」の状況にある。社会に不安感、恐怖感が急速に広まると、どうしてもデマ情報が独り歩きする。

とりわけ多いのが「ウイルス予防・治療に効果がある」とか、「新薬が発明された」とかの医療情報。SNSやチェーンメールで急速に拡散するが、その大半は根拠のない「偽情報」だ。日本ではあまり問題になっていないが、海外では「ウイルスは人工的につくられたもの」などと主張する真偽不明の”陰謀論”がまん延している。これは感染初期から根強く、ノーベル賞を受賞した世界的な科学者、医学者までが実際にこのような発言をしている。

(次世代通信規格の)5Gから出る電磁放射線が感染症の原因だとする、荒唐無稽な言説が英国で広がり、通信事業者に対する暴動が起きたケースもある。

日本では、保健当局が感染者数を操作するため、PCR検査の結果を破棄しているとの「偽情報」が一時拡散した。諸外国に比べた検査数の少なさがメディア報道で指摘され、テレビ番組では専門家やコメンテーターがさまざまな“疑問”を提起しているが、ネットの世界ではそれらに触発されてか、根拠のない「デマ」が発生してしまう。

――FIJが推進する「ファクトチェック」とはどのような活動なのか

楊井 ネット上で拡散する「真偽不明情報」は無数にあるが、その中で、このまま独り歩きしては社会的に影響の大きい情報を取り上げて客観的に検証し、その結果を広く公開する活動だ。検証する対象はその言説に含まれる「ファクト」のみが対象で、考え方や主張といった「オピニオン」部分は除外される。この活動は誤報・虚報を明らかにするとともに、ひいてはジャーナリズムの信頼性向上、言論の自由の基盤強化にもつながるものだと考えている。

FIJの場合、新聞やテレビ、ネットメディアなどの「メディアパートナー」がファクトチェックの作業を行い、広く公開する。FIJは、どのような言説がネット上で広がっているかを探ったり、一般の人々から情報提供を受けたりして、メディアパートナーの活動を支援する。今回の新型コロナ禍では外国のファクトチェック団体向けに、日本に関する調査に協力・支援する国際プロジェクトも行っている。

――その国際プロジェクトの狙いと、活動内容は?

楊井 新たな感染症は国境を越えて広がる世界的な問題になる。各国のファクトチェック団体が協力して、社会不安につながる「真偽不明情報」を検証し、人々が偽情報に振り回されないようにするのが狙いだ。

日本財団の助成を受け、FIJとして英語、中国語ができる要員を新たに配置。新型コロナウイルスをめぐり、日本に関する情報の真偽について外国のファクトチェック団体から検証要請があった場合に対応する。外国発の情報で日本でも拡散される懸念がある案件は、逆にこちらから検証要請をする場合もある。FIJとして、英語版の特設サイトも開設している。

外国からの要請ではこれまでに、河野太郎防衛相が台湾に向けて発信したとされるSNSの真偽(ねつ造されたものだと判明)や、日本の新聞記事を引用する形で専門家の発言を誤って伝えていた香港メディアによる報道の真偽について検証している。4月下旬にはノーベル賞医学・生理学賞受賞者の本庶佑氏(京都大学特別教授)の発言という偽情報がインドで拡散したが、これについても検証し、英語でも発信している。

https://infact.press/2020/04/post-5669/

https://fij.info/archives/english_post/nobel-laureate-dr

――新型コロナに関連した日本の状況、政府の対応については、世界はどのように見ていると感じるか。

楊井 2月にクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」の集団感染があり、その後は東京五輪・パラリンピックの行方が取りざたされて、日本の状況は注目を集めていたと思う。ただ、五輪延期が決まってからは欧州、米国の感染者数、死者数が爆発的に増加し、世界の目はそちらに向かった。

日本がPCR検査の実施件数を絞り込むなど、ある種独特のやり方で新型コロナ感染に対処していること、また相対的に感染者数、死者数が少ないことに医療関係者、専門家は注目しているのかもしれない。しかし、一般の人々は自分の国のことで精一杯だろう。外国では、ウイルスのもともとの出所に強い注目が集まり、“陰謀論”が渦巻いている。しかし、日本ではそれほどではない。

――ネットの世界、特にSNSでは匿名による情報、意見表明は日々大量に発信されており、その真偽を全て検証することはとてもできない。どのように考え、どう対処すべきなのか。

どの情報をファクトチェックすべきかというのは難しい問題だが、あえて一言でいうと「誤っていたら世の中に大きな影響を与えるであろう言説」ということになる。質の面で言うと、人々に憎悪や差別といったマイナスの感情を与える恐れが高いような言説は、そうでない言説に比べて検証の必要性が高いと考えている。

また、全く無名な人によるネット上のつぶやきは、その段階では社会的な影響はほとんどないが、それが政治家や作家など有名人にリツイートされるとその情報は「お墨付き」を与えられ、拡散の速度が増す。例えば「5Gがウイルスの原因」という偽情報は、同じように有名人が橋渡し役になって拡散したといわれている。こういった経路を経ている真偽不明情報も、検証する必要性は高くなる。

――nippon.comも今回、FIJのメディアパートナーにさせていただいた。日本の情報を多言語で発信するメディアとして、われわれができる役割をどう考えるか

新型コロナに関する真偽不明の情報は今後も次々と出てくるだろう。ファクトチェックをした情報を外国語で正確に発信することは、特に新型コロナに関しては極めて重要だ。また、発信のみならず、実際に情報の真偽を検証するファクトチェック自体にも、メディアとして参画いただければありがたい。

FIJの公式ウェブサイト

https://fij.info/

FIJの新型コロナウイルス特設ページ

https://fij.info/coronavirus-feature 

バナー写真:インドのファクトチェック団体BOOMによる、「本庶佑教授の発言をめぐる情報は虚偽」だと指摘する検証記事

報道 メディア NPO・NGO 新型コロナウイルス