新型コロナでどうなる店舗の家賃問題、弁護士がQ&A解説

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新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、飲食店などは営業時間短縮や休業を強いられ、壊滅的な売り上げ減少に苦しめられている。そうした中、生き延びていくためには、固定費の多くを占める家賃をどうするかが大きな焦点になっている。家賃減額にまつわる、さまざまな問題を不動産問題に詳しい木野綾子弁護士が解説する。

宣言解除後でも減額交渉できる

-都内でネットカフェを営んでいます。緊急事態宣言で休業を余儀なくされ、店舗の賃料が払えません。貸し主に賃料の値下げや支払い猶予を求めることはできますか?

「都内のネットカフェは休止要請の対象施設です。ですから、借り主は民法611条1項により賃料を減額請求することができると考えられます。民法は4月1日に改正されましたが、締結または更新による賃貸借契約が改正前であっても、後であっても考え方は同じです。なぜならば、『新型コロナウイルス感染防止のための公的な措置』という、借り主のせいではない外部要因によって休業を余儀なくされ、その店舗をネットカフェの店舗としては使用することができなくなったからです」

「今後、緊急事態宣言が解除されて営業を再開した後であっても、営業自粛期間中の未払い賃料の減額請求ができます(民法611条1項)。また、近隣の家賃相場が下がれば、借地借家法32条により賃料減額請求をすることができます(ただし、賃貸借契約の種類によってはできない場合もあります)。まずは貸し主に事情を話して、上記のような法的根拠を前提に、どの程度の減額ならば応じてもらえるか、相談を持ち掛けてみるとよいでしょう。減額してもらった後の金額でも支払いが難しい場合、法的根拠はないものの、営業再開後に分割払いすることなどを提案してみてはいかがでしょうか」

-賃料の減額請求ができるとのことですが、借り主にとって満足な結果が得られる保証はありますか?貸し主が話し合いの席についても、値下げに応じなかった場合は、違法になるのでしょうか?

「民法や借地借家法には、『減額を請求することができる』などと規定されていますが、賃料が減額される金額や割合が明確に決められているわけではないので、結局は話い合いをすることになります。当事者同士ではまとまらなければ、民事調停で調停委員に間に入ってもらい話し合いを続けます。それでもまとまらなければ、裁判官に妥当な金額を命じられることになります」

気が重くても大家と相談

-雑居ビルの一角で学習塾を営んでいます。小規模なので特措法による休止要請の対象施設ではないのに、貸し主であるビル側の判断により休業を余儀なくされました。賃料の支払は免除すると言われましたが、売り上げがないので困っています。貸し主に売上相当額の休業補償を求めることはできますか?

「貸し主であるビル側の判断が新型コロナウイルスの感染拡大防止のための一般的な外出自粛要請を考慮したものだとすると、貸し主のせいで『部屋を使用させる義務』が不履行になったとはいえないので、売上相当額の休業補償を求めることはできないと考えられます。当面は公的な給付金を受給するなどして乗り切るしかありません。ただ、この場合でも、営業再開後の賃料をしばらく減額してもらうなど、貸し主に窮状を伝えて何らかの協力をお願いしてみるのもよいでしょう」

-テナントの飲食店の中には、貸し主との間で賃料の減額交渉をするのは気が重いとして、思いとどまっているところもあるようですが。

「確かに、日本では昔から『大家と店子』の関係に家族的なイメージがあるのか、貸し主と借り主がドライに賃料の増減を交渉するということは少ないように思われます。顔の見える場所に貸し主が住んでいるような場合にはその傾向が強いでしょう。そうは言っても、賃料の減額請求は借り主の権利ですから、不動産会社や法律家に相談するなどして後悔のないよう有効に使いましょう」

店舗オーナーから見ると…

-貸店舗のオーナーです。緊急事態宣言以降、休業中のテナントから賃料の支払いが止まっています。これから先どうしたらよいものでしょうか?

「選択肢としては、①借り主と協議をして一時的な賃料減額や支払猶予をする②担保として預かっている敷金や保証金から差し引く③賃貸借契約を解除して退去してもらう-の3つが考えられます。まずは①を申し入れてみて、全く賃料が払えないなど、現実的に無理そうであれば②を行い、賃料未払いがその後も続きそうなら③を検討する、という順番がよいでしょう」

「こういう優先順位を付けた理由を説明すると、新型コロナウイルスの影響がどこまで続くかわからない中、同等の賃料を払ってくれる借り主を新たに見つけるのは難しいでしょうし、だからといって安易に敷金などから未払賃料を差し引くと、退去時の原状回復に要する費用に充てる担保がなくなってしまうからです。いずれにせよ、借り主が夜逃げ状態になり連絡がつかなくなると困りますので、定期的に連絡を入れ、連帯保証人も含めて協議の場を持つことをお勧めします」

国の支援待たずに交渉を

-4月1日に民法改正が施行されたと聞きました。不動産の賃貸借に何か影響はありますか?

「4月1日以降に締結または更新した賃貸借契約には改正後の民法が適用されますが、もっとも、通常は実務的にそれほど大きな影響はないでしょう。ただし、保証人一般に関しては民法が大きく変わりました。前もって保証の限度額を定めておかないと保証契約が無効になったり、保証人が借り主の財政・収支状況を知らされずにした保証契約は取り消されたりするなど、全体的に『新たに保証人になってくれる人が見つかりにくい時代になった』ともいえます。その意味では、貸し主・借り主とも安易に賃貸借契約を解除せず、できるだけ維持していくことが得策かもしれません。

-国会では家賃補助策が審議されており、6月の第2次補正予算に盛り込まれる方向です。この支援策はどの程度評価できますか?

「支援策には大きな意義があります。ただ、補正予算が成立して、支援策が実際に動き出すまで時間が掛かることを想定すると、貸し主との減額交渉は早く始めるに越したことはないでしょう」

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