「ウィズ・コロナ」の時代に求められるプロスポーツ経営、バーチャル集客と感染防止が課題

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新型コロナウイルスの影響で活動を休止していたプロスポーツが、国内でもいよいよ動き出した。密集での感染リスクが懸念されるため、大勢の観客でスタンドを埋められる状況ではない。「ウィズ・コロナ」の時代にプロスポーツはどのような経営で存続を図るのか――。

オンライン会議システムやバーチャル始球式も

約3カ月遅れで6月19日に開幕したプロ野球。東京ドームでの開幕カードは、巨人対阪神だったが、スタンドの歓声もなく、鳴り物応援もない。無観客の静寂の中に、選手の声と「球音」だけが響く。果たして過去に、このような「伝統の一戦」があっただろうか。

バックネット裏には、ファンの写真を映し出す大型LEDパネルが置かれ、テレビ中継用に観客が座っているかのような装飾が施された。観客がいなくてもチアリーディングがあったり、チャンスになれば、過去に収録された応援の音声が流されたりした。

プロスポーツとしては経営的に困難な状況だ。その中で、各球団は工夫を凝らして無味乾燥な開幕戦に「味付け」を加えようとした。

横浜スタジアムでのDeNA・広島戦では、ホームのDeNAが5000人分のファンのパネル写真で内野席を彩った。他にも「おうちで交流!OB解説つき! オンラインハマスタ」と銘打ち、試合をインターネットで観戦しながら、球団OBの解説者らとのトークショーを行った。オンライン会議システム「Zoom」を使い、球場の大型ビジョンには、応援画像も表示され、選手とファンの一体感を醸し出した。

京セラドーム大阪でのオリックス・楽天戦ではバーチャルでの始球式が行われ、ビジターの楽天は地元仙台の本拠地にファンを入れ、距離を空けてパブリック・ビューイングを実施した。

また、ソフトバンクは福岡PayPayドーム内で販売されているグルメ「スタ飯」を自宅で楽しみながら観戦できるよう、ドライブスルーで提供した。

台湾・韓国球界は海外市場を開拓

こうしたアイデアは、日本のプロ野球ばかりではない。台湾や韓国でも、観客数を制限しつつ、チアリーディングやファンのパネル写真などで球場の雰囲気を盛り上げている。さらに驚くべきは、海外市場の開拓にもつなげていることだ。

台湾と韓国は日米より先に開幕したこともあり、海外でも試合中継に注目が集まった。台湾のプロ野球は、英語の実況を入れて各試合をネットで有料配信し、アクセス数を増やした。ちなみに、米国では時差のため、朝食をとりながら観戦する「ブレックファスト・ベースボール」と呼ばれて人気という。

韓国のプロ野球も米国のスポーツ専門チャンネル「ESPN」と放映権契約を結び、ネットワークを通じて世界130カ国・地域で放送されるようになった。いずれもコロナ禍を逆手にとって、グローバル化を図ろうという意欲が感じられる。

ヤマハが開発した「リモート応援システム」

一方、欧州のサッカー界でもさまざまな趣向を凝らしている。スペインのリーガ・エスパニョーラでは、テレビ局がサッカーのビデオゲームを展開する会社と協力し、無人のスタンドに観客が入っているようなバーチャル映像と音声を重ねて放送した。「リアルとバーチャル」の合成という発想は斬新だ。

2月下旬から中断していた日本のJリーグも7月4日にJ1(1部)が再開、新たな取り組みが検討されている。ジュビロ磐田のスポンサーであるヤマハが開発したのは「リモート応援システム」。スマホ上の専用アプリで視聴者が「歓声」や「拍手」のボタンを押すと、自分の声や拍手音が競技場のスピーカーから出る仕組みだ。今後はスポーツ以外にも多くのイベントが無観客で開催されるのを想定し、楽器メーカーらしく、ヤマハは音楽ライブなどで活用することも見込んでいるという。

ただし、試合の演出には節度も求められる。過剰になれば、逆にプレーの素晴らしさを削ぐこともある。過去には、バレーボール日本代表の試合前のコートで、アイドルがコンサートさながらに歌や踊りを披露して批判されたり、プロ野球オールスター戦で女性アナウンサーが浴衣姿でインタビューしたことに選手会が苦言を呈したりした例もある。

ファンを引きつけるには、単に盛り上げればいいのではなく、スポーツの本質や魅力を正しく伝える必要がある。

ファンを忘れた米大リーグを反面教師に

政府の段階的緩和の目安によると、7月10日以降、プロスポーツなどのイベントの観客数の上限は、5000人または収容人員50%の少ない方と基準が示されている。8月からは収容人員の50%以内となる予定だ。

すでにシーズンは短縮され、試合数も少ないため、大幅な減収は避けられない。感染の再拡大が起きれば無観客に戻る可能性もある。

近年はスポーツでも音楽でも、ライブにおカネを払って現場でエンターテインメントを楽しむファンが増えた。テレビ中継による「空中戦」よりも、スタジアムの「地上戦」が重視される風潮にあった。

ところが、コロナ禍で情勢は一変した。感染対策のため、今後は入場料収入に頼った経営が難しくなる。グッズ販売や飲食による収入も期待しにくい。かといって、テレビ中継だけでは観客の反応はつかみにくい。手を抜いていれば、ファン離れが進む危険がある。

そう考えると、今季の米大リーグはファンへの視点が欠落していると言わざるを得ない。本来なら162試合を行うはずだったが、開幕が大きく遅れたため、米大リーグ機構(MLB)と選手会は、試合数に比例した年俸とすることで大筋合意していた。しかし、減俸幅をめぐって話がこじれ、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーが、シーズン中止の可能性さえ言及する事態となった。

両者の交渉はもつれ、MLB側が強行開催することを決断した。MLBは独自に開幕日や試合数を定められる権利を行使することを全オーナーの合意を得て決定し、今季は60試合を実施することで最後は選手会も了承した。米メディアの報道によると、開幕は7月24日頃になる見通しという。

巨額のビジネスがうごめく米大リーグの世界だ。MLBも選手会も利益ばかりに気を取られ、ファンの存在を忘れているようにしか見えない。日本のプロスポーツも、米国の状況を反面教師として、プロとしての役割を改めて考え直す時だろう。

徹底した感染対策でファンの信頼を

日本野球機構(NPB)とJリーグは合同で「新型コロナウイルス対策連絡会議」を設置し、専門家からの提言を受けて、それぞれが対策を検討してきた。

プロ野球は開幕後、月1回の割合で選手や審判、関係者がPCR検査を受ける。Jリーグは独自にPCR検査センターを設け、再開後は2週間に1回は検査を継続して行うという。

ただ、ファンの信頼を得るには、念入りなマニュアルやルールが必要だ。特にチームに集団で感染者が出た場合の試合の取り扱いや、シーズン中断の判断基準などについても方針を決めておくべきである。

他のプロスポーツに目を向ければ、大相撲は7月の名古屋場所を東京・両国国技館に場所を移して実施する。相撲部屋は力士の共同生活場所であり、ちゃんこを一緒に食べる習慣の中で、感染のリスクはより高い。体をぶつけ、組み合う格闘技なのだ。死亡した力士も出ただけに、感染防止策を最重要課題として取り組んで欲しい。

バスケットボールのBリーグも2019-20年シーズンは途中で打ち切りとなったが、20-21年シーズンは10月から始まる想定だ。アリーナに大勢のファンを集める新しいプロスポーツであり、観客の感染予防には十分配慮してファンをつなぎとめたい。

感染の収束はいまだ見通せず、しばらくは「ウィズ・コロナ」の生活が続く。プロスポーツだけではない。多くのエンターテインメントが、無観客や観客減の時代を生き抜くために知恵を絞り続けるほかない。

バナー写真:無観客の試合で喜ぶ巨人ナイン(時事通信)

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