新型コロナ:第2波は「収束できる」、検査拡大し自分アラートを-宮坂昌之・阪大名誉教授

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いったん収まったかに見えた新型コロナウイルスの感染が再び、広がっている。感染の実態や見通し、処方箋について、免疫学の第一人者である宮坂昌之氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、阪大名誉教授)に話を聞いた。

宮坂 昌之 MIYASAKA Masayuki

大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授。1947年長野県生まれ。京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。金沢医科大学血液免疫内科、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所等を経て、大阪大学医学部教授、大学院医学系研究科教授などを歴任。2007~08年日本免疫学会会長。医学博士・PhD。主な著書に『免疫力を強くする 最新科学が語るワクチンと免疫のしくみ』、共著に『免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か』『新型コロナ 7つの謎』など。

感染拡大の現状

-東京、大阪で過去最高の感染者数を記録しました。現状をどう判断していますか。

「感染者数が増えているのは間違いない。ウイルスの種類が分からないので、今の拡大は第1波の続きとも呼べるし、2回目の波とも言える。増えたのは新宿、池袋や大阪のミナミとか特定地域の『夜の街』とその周辺。われわれが知らないところに非常に多数の感染者が集まっていた。そうとは気付かずに行った人たちが家や職場に持ち帰り、社会の中に少しずつ広がっている。今や決して狭いところだけで増えているのではなくて、周りに染み出し始めている。感染は若年層以外にも、もうすぐに広がる。時間の問題だ。第1波で学習効果はかなり出ていると思ったが、その効果がない人たちが夜の街へ行ってしまう。そこが問題だ」

-第2波は秋・冬に来ると言われていたので、だいぶ早いようです。

「いつ来るかは各人が勝手に予想しているだけのこと。なぜ秋と言うかというと、紫外線や暑さに弱いから夏は起きないとのことだった。みんな信じてしまったが、米国では夏にフロリダなどで感染が拡大している」

-第1波とどこが違いますか。

「第1波とは違う状況がある。免疫を持たない集団の中に、新しいウイルスが入って来ると、今までの集団免疫のような考え方だと、必ず何割かの人が感染してしまうと言われる。北海道大学の西浦博先生は、『6割の人が日本では免疫を持っていないので、6割ぐらいの人が感染してしまうかもしれない』と言ったが、私は違うと思う」

「われわれの中には免疫学的に大きな能力の差があり、新型コロナの場合、弱い人から感染が起こり、強い人は残っていく。一定量のウイルスが入ってきたときに、同じ確率で人々が感染するということはない。どんどん感染しにくい人が残るので、ある時点から感染は簡単に進まなくなる」

「もう一つは、知恵があるので、感染が広がると対人距離を保つようになる。1人が2.5人にうつすというのは、何も対策を取らなかったときの話であって、対人距離を取れば感染しなくなる。Rゼロ(基本再生産数)が大阪だと1.25ぐらいであり、社会集団は2割免疫を獲得したら、これ以上感染は広がらなくなる。東京でも1.25に近くなりつつある。つまり、感染が広がりにくい状況が徐々に生まれつつある」

抗体が全てではない

-免疫の仕組みを簡単に説明してください。

「抗体だけが免疫の主体であるかのように言われている。新型コロナでは6割の人が免疫を獲得しないと流行が収まらないという仮説があるが、あくまでも抗体だけで免疫が成立しているという前提に過ぎない。一定量のウイルスが入ってきても決して6割が感染するなんてことは起こらない。中国・武漢でも最大2割しか感染していない」

「私たちの免疫は2段構え。最初は自然免疫が働いて、城門で待っている兵隊のような役割。なんでもいいから敵を追いやる。そこだけで食い止められないと、獲得免疫というリンパ球が働く免疫が起きる。まず司令塔のヘルパーTリンパ球(以下『ヘルパー』)が働き、Bリンパ球を刺激して抗体を作らせ、ウイルスをやっつける。もう一つはヘルパーがキラーT細胞(以下『キラー』)を作らせ、感染した細胞を丸ごと殺す。抗体は細胞の外にいるウイルスしか殺せないが、キラーは細胞の中にいるウイルスごと殺せる。抗体とキラーの両方ができてこないとウイルスは簡単にはなくならない」

-抗体だけでなく、「城門の兵隊」自然免疫も大事なのですね。

「抗体ができなくても自然免疫だけでウイルスを排除できる人もいるが、その点が無視されている。抗体保持率が感染者の割合ではない。逆に言えば、自然免疫をしっかり持っていれば、そんなに心配しなくてもいい」

「新型コロナの場合は感染反応が起きて抗体ができても、抗体は半年程度しか持たない可能性が高く、そうであればいつまでたっても集団免疫はできない。ただし、免疫には2段構えで自然免疫だけでも撃退できる場合がある。抗体保持率だけを見て、一喜一憂しなくてもいい」

感染拡大は収束か、爆発か?

-現在の感染拡大局面は収束しますか。それとも感染爆発の恐れがありますか。

「PCR検査数以上に感染者が増えているのは確かだが、収まっていくと思う。つまり、感染爆発は起こらない。第1波でも実質65%程度の行動制限で、感染拡大は収まってきた。対人距離を保ち、3密(密接・密集・密閉)を避けて、それなりの行動規制を取れば、必ず感染率は下がってくる。ところが検査が足りなくて、知らない所に感染者集団があったり、社会の中に感染がどんどん広がって行ったりすると、欧米のようにとどまるところを知らなくなる。幸いなことに日本はウイルス浸透度が欧米に比べてずっと低い」

-そうは言っても感染者数は第1波のピークを超えました。

「感染者の数だけ見ると心配に見えるが、日本は欧米に比べて感染率や重症化率はずっと低い。ただ、第2波は小さいと予想していたが、間違っていた。感染がいったん収まったように見えたが、表面だけ。新宿とか池袋とかミナミには、われわれの知らない感染者の集団があった。そこと社会との交流があったために第2波が起きてしまった。そういう所を集中的に検査して、感染者数を減らしていけば、感染が起きる要因は減る」

どう対応すべきか

-財政の制約もあり事業者への休業要請はほぼ不可能になっています。感染防止は大丈夫でしょうか。

「地方公共団体にアラートを出されるのではなくて、自分で自分にきちんとアラートを出せることができれば、そんなに慌てなくていい。自分にアラートを掛け忘れて飲み屋で大声でしゃべったりするから良くない。そこさえ守っていれば、まず感染しない」

-緊急事態宣言は必要ですか。

「やらなくていい。緊急事態宣言をすれば、それなりの行動制限が掛かるので意味はあるが、今やったら経済が大変なことになる。今は宣言を出す時期ではない。出さなくても個人が自分にきちんとアラートを掛けられたら、感染はそんな簡単には広がらない」

-こういう時期に政府が「Go Toキャンペーン」を始めました。東京は除外されたが、大丈夫でしょうか。

「人の動きを増やせば、また感染は始まるのは初めから予想されたこと。キャンペーンで人を動かせば、感染が広がっていく可能性もあるが、そうでない可能性もある。旅行者がきちんと守るべき行動変容を実行してくれれば、そう簡単にこのウイルスは広がらない。きちんと個人がアラートを掛けることができるなら、特殊な業種を除いて休業要請も出したり、学校閉鎖したりする必要はない」

-テレワークが相当浸透してきたが、有効な手段ですか。

「テレワークは感染拡大防止にも当然、意味がある。もちろん少々通勤したから感染するわけではない。しゃべったときに口から出る飛沫は2メートルぐらい飛ぶが、マスクをすると9割防げる。一方、鼻や口の横から漏れ出て来るマイクロ飛沫は空中を10~15分も漂うが、送風・換気で飛んでしまう。満員電車はまずいが、少々人数が多くても、そう心配しなくてもいい。時差通勤も有効だ。どんどん委縮して動かないのは一番まずい」

PCR検査、「薄く広く」は駄目

-問題は主に「夜の街」であり、対策を取れば、普通の生活を続けられるということですか。

「結局はそうだ。決して感染が起きているのは夜の街だけだと思ってないし、実際に周りに染み出ている。でも、染み出ている社会でもお互い対人距離を取って、マスクをして然るべき行動をすれば、もうそれ以上に広がらない。あとはやるべきは濃度の濃いところへ集中的に検査をすることだ」

-濃度の高いところをキャッチして検査という点で、PCR検査の拡充は必要でしょうね。

「PCR検査数は全く少なく、10倍も20倍もキャパシティを広げる必要があると思う。ただし、薄く広く検査しても意味がない。新宿、池袋やその周辺を重点的にやる。感染経路を追うのにPCRをどんどん使うべきだ。決して住民全体をやるのではなく、必要な所に集中的に実施する。その手段として、PCRは最も大事だ」

「PCRはスナップショット(瞬間像)みたいなものだから、今日陰性でも明日陰性でなくなるかもしれない。感染してから5日間は感染を確認できず、陰性証明にはならない。検査しないといけない集団に頻繁に集中的にやることが必要だ。新宿では『検査で陰性だったから動いたら、(結果的には)陽性でした』という人が大勢いる。頻繁にやることが大事で、住民全体になんてできない」

「以前から言っていることだが、PCRだけに依存せずに、より安価で迅速にできる抗原検査をもっと活用すべきだ。唾液でも出来るので、サンプル採取での感染の恐れがない。PCRより若干感度が低いが、その分、ウイルス排出量の多い人を優先的に検出できる利点がある。抗原検査を頻繁にやる方が、PCRを1回だけやるよりもはるかに感染拡大防止に役立つ」

ワクチンや特効薬に代わる「思わぬ恵み」

-ワクチンも特効薬もない中で、免疫を何らかの形で鍛えられませんか。

「もともと備わっている自然免疫をうまく使えれば、ウイルスは排除できる可能性がある。その自然免疫は訓練したら強くなることが最近の研究で分かっている。よく言われるのがBCG。牛の結核菌だが、ヒトの結核菌に対する免疫ができる。BCGは自然免疫を鍛えて強くしてくれるので、獲得免疫も働きやすくなる。何10カ国を調べると、BCGを広範に投与している国は重症化・死亡率が低く、その傾向はきれいに出ているが、もちろん例外もある。ただし、BCGは子どものためのワクチンとして一定量しか生産されておらず、大人用には作られていない」

「50~60歳の人は子どものとき以来、30年以上ワクチンを受けていない。逆に学童はワクチンを10本近く受けていて、重症化率はとても低い。そのたびに自然免疫と獲得免疫が刺激されて、毎年繰り返している。そこから、なぜ子供や若い人がなりにくいか説明できる可能性はある。お年寄りはワクチン打ってから、30~40年も免疫学的なチャレンジを受けていないので、訓練免疫が効かなくなっている。お年寄りに肺炎球菌ワクチンもインフルエンザワクチンも面倒くさがらずに受けてもらえれば、思わぬ恵みがあるかもしれない」

アジアと欧米の違い

-日本などアジアは欧米に比べて感染者、死亡者数が著しく低いのはなぜですか。

「さまざまなファクターが重なっている。遺伝子も関わっているだろうし、キスやハグをしない、握手しないといったマナーの違いや土足で家に入らない生活習慣の違いがあるが、さらにアジアには感染しにくい何かがある。BCGも一つのファクターだが、全てではない」

「もう一つは地域固有の感染症というのがある。鼻風邪コロナには4種類あって、しょっちゅう学校で感染が起きている。普通の風邪の15%ぐらいが鼻風邪コロナウイルス。これにかかっていると何らかの理由で、新型にはかかりにくくなる可能性がある。地域特有の病気になっておくと、自然免疫が鍛えられ、獲得免疫もある程度刺激される。アジア固有のものがあれば、都合がいいが、今のところ分かっていない」

バナー写真:歌舞伎町のホストクラブなどに新型コロナウイルス対策を呼び掛ける新宿区の吉住健一区長(左から2番目)=時事通信

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