新たなる「日英同盟」とシックスアイズ

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EU(欧州連合)からの離脱、中国の覇権主義に対する警戒感から英国の日本への接近・傾斜が加速している。2020年内に日英新通商協定が正式署名の見込みとなり、2021年には英国の最新鋭空母クイーン・エリザベスがインド太平洋での日米合同軍事演習に参加する計画もある。1902年から1923年まで締結されていた日英同盟以来の日英の急接近で、「シックスアイズ」の結成が俄かに現実味を帯びてきた。

英国から日本への正式な「招待」

「オフレコだけど、すでに我々は日本を6番目のメンバーに招待している。日本が決断すれば、正式に入ることができる」

新型コロナウイルスを世界に感染拡大させた中国が香港で国家安全維持法を導入する「暴挙」に出た2020年6月下旬、2019年4月まで産経新聞ロンドン支局長として駐在した英国で知遇を得た英秘密情報部(SIS、通称MI6)の関係者に電話をすると、こんな答えが返って来た。

米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドの英語圏5カ国の機密情報共有の枠組みである「ファイブアイズ」に日本の参加を促す発言だ。2015年からおよそ4年間ロンドンに赴任中、このMI6関係者と数カ月に一度、ファイブアイズについて議論を重ねた。英国赴任中は「条件整備すれば、日本は参加できる」との社交辞令に留まっていたため、「すでに(正式メンバーに)招待している」と一歩踏み込んだ発言に言葉を失った。

この電話から約1カ月後の7月21日、英下院外交特別委員会のトム・トゥーゲントハット委員長は主宰する保守党内の「中国研究グループ」のオンライン勉強会で、河野太郎防衛相が提案した、ファイブアイズに日本が6番目の加盟国となって加わる「シックスアイズ」構想を歓迎し、こう述べた。

「ファイブアイズは数十年にわたり、情報と国防分野で核心的役割を果たしてきた。連帯強化のため信頼できる新たなパートナーを探すべき。多くの理由から日本は重要な戦略的パートナー。あらゆる機会に、さらに親密に協力すべきだ」

トゥーゲントハット委員長は4月、保守党内で欧州連合(EU)離脱を成功させた強硬離脱派議員で組織する「欧州研究グループ」に倣って、対中政策を見直す「中国研究グループ」を設立し、中国の華為技術(ファーウェイ)機器の完全排除を実現させた。強硬離脱派が軒並み対中強硬派に転じており、トゥーゲントハット委員長の日本をファイブアイズに招く構想は、政権与党・保守党主流派の考えを代弁すると解釈してよいだろう。

超党派で「日本のシックスアイズ入り」を後押し

一方、野党労働党のトニー・ブレア元首相も、8月3日までに産経新聞の電話取材に、共産主義中国が、「ここ数年間で一層権威主義化した」と強い危機感を示し、自由主義諸国が連携して中国の脅威に対抗する必要があるとし、ファイブアイズへの日本の参加を「われわれは検討すべきだ」と述べた。

メディアも保守系「デイリー・テレグラフ紙」が7月29日付けで、「中国依存から脱却して国家に重要な通信や原発などのインフラを守るため、ファイブアイズは日本の正式参加を検討」と伝え、リベラル系「ガーディアン紙」も同日付けで、複数の下院議員の話として、「対中国の観点から日本がファイブアイズに参加し、6番目となる可能性がある」と報じた。EU離脱した現在も残留派と離脱派の分断が続く英国で、日本を「ファイブアイズ」に参加させる構想は超党派の支持を集め、メディアも党派性を超えて肯定的な論調となるなど、シックスアイズは国論のようになっている。

2016年6月、国民投票でEU離脱を選んだ英国は、「グローバル・ブリテン」として成長著しいアジア太平洋回帰を掲げ、日本をアジアで「最も重要なパートナー」と位置づけた。英語を共有する太い紐帯で結びつく戦勝国のアングロサクソン同盟に、英国が太平洋戦争の敗戦国である日本を招く背景には、日英関係の急進展がある。

20年10月11日にはEU離脱後、初めて日英が新たな通商協定で大筋合意、年内に正式署名と議会承認を経て、21年1月1日の発効を目指すほか、中国の海洋進出をけん制すべく、21年早々、太平洋で新型空母「クイーン・エリザベス」と米海軍と海上自衛隊が合同訓練を計画するなど、かつての日英同盟に匹敵する緊密な関係を築きつつある。サイバー・セキュリティや感染症対策など、あらゆる分野で包括的に協力する「同盟の新しい形態」だ。安倍首相の辞意表明を受けてジョンソン首相は「日英関係は貿易、防衛、文化で一段と強まった」と称賛した。

日独の暗号解読協力がファイブアイズの原点

ファイブアイズは真珠湾攻撃の10カ月前の1941年2月、米国の情報士官がロンドン郊外のブレッチリーパーク(英政府暗号学校)を訪れ、暗号解読協力という「特別な関係」を始めたのが原点だ。ナチスドイツの使用していた暗号エニグマと日本の外務、陸海軍のあらゆる暗号を解読し、英連邦の中核ドミニオン(英自治領)のカナダ、豪州、ニュージーランドと機密情報を共有した。ソ連が対日参戦する約1カ月前の45年7月、ヤルタ密約もドミニオンで共有している。

ファイブアイズの原点となったブレッチリーパーク(岡部氏提供)
ファイブアイズの原点となったブレッチリーパーク(岡部氏提供)

米国の情報士官が訪問して米英の特別な関係を構築し、暗号解読協力を始めたブレッチリーパーク内の一室(岡部氏提供)
米国の情報士官が訪問して米英の特別な関係を構築し、暗号解読協力を始めたブレッチリーパーク内の一室(岡部氏提供)

戦後、5カ国は情報保護を担保する「UKUSA協定」を結び、旧ソ連を対象に、世界に展開する通信傍受網エシュロンで得たテロや軍事情報を分析・共有した。冷戦後、国際テロの監視対象を2009年ごろから中露に変え、近年、日本との連携協力が進んでいる。

相互にリエゾンと呼ばれる連絡要員を派遣して情報交換を重ね、2018年初めから、日本は独仏と中国のサイバー攻撃を念頭に情報共有する枠組みに加わった。宇宙防衛でも18年10月、米空軍宇宙コマンドが主催した多国間机上演習に初参加。19年に仏韓と対北朝鮮の枠組みに参加し、日米英で北朝鮮籍船舶の海上で積み荷を移し替える「瀬取り」を摘発している。

中国の戦狼外交が導くシックスアイズ

コロナと香港問題を受けて5カ国は中国と対決姿勢を強め、レアアース(希土類)や医薬品などを相互供給し、香港問題で共通の対抗策を打ち出すなど、経済的、政治的な連携にまで広がった。

しかし、米国と独仏の間では北大西洋条約機構(NATO)の応分負担問題などで溝が広がり、英国では「日本を6番目の有志連合として中国に対抗すべきだ」との意見が主流となり、オーストラリアも「(日本参加の)シックスアイズ」 構想に前向きで、6カ国で太平洋に自由貿易圏新設を提案する。米下院の2019年報告書では、情報共有の相手として日本とファイブアイズを同列に並べ、米国も日本加入に賛成する。好戦的な中国の「戦狼外交」が日本をシックスアイズに導いているといえるだろう。

第一次大戦までは英国と、第二次大戦後は米国と同盟を結んだ日本が自由と民主主義の価値観を共有する海洋国家のファイブアイズに参加することは自然なことだ。

ただし、諜報は当方が与えた質・量に応じて先方から得られる「ギブ・アンド・テーク」が原則で、省庁の壁を越えた対外情報機関設置と情報保護整備が急務となる。

既存の体制で今すぐ参加の準備を

しかし、佐藤優元外務省主任分析官は、現行の特定秘密保護法下で、日本語の新聞や雑誌などから得られる公開情報を収集、分析する「オシント(オープンソース・インテリジェンスの略)」の情報を国家安全保障局(日本版NSS)が「コレクティブ・インテリジェンス」(協力諜報)で集約して英訳すれば、5カ国に提供できると説く。防衛庁が傍受する北朝鮮と中露の軍事情報や公安が扱うテロ情報も米英に重宝されている。

佐藤氏は「既存の情報コミュニティを強化する方向で対応するほうが、はるかに低コストで現実的」(「Voice」10月号)と主張する。

河野防衛相は「日本経済新聞」の取材に、すでに5カ国と情報交換し、参加打診が「いろいろなところである」と認めたうえで、正式加盟の手続きを取る必要はなく、「恒常的になれば、シックスアイズと言うかもしれない」と述べ、参加への意欲を示す。

老情報大国の招請を断る理由はどこにもない。既存の体制で今すぐ準備をはじめ、アングロサクソン同盟に入るべきだ。自由主義陣営の一員であることを明確にして、安倍首相が進めた「積極的平和」のアプローチで暴走する中国を封じ込めたい。

バナー写真:共同記者発表を終え、英国のラーブ外相(左)と握手する茂木外相=2020年2月8日、東京都港区の飯倉公館 共同

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