飽和時代のコンビニ・サバイバル

経済・ビジネス 社会

全国津々浦々まで普及しているコンビニエンスストアは、少子高齢化もあって、飽和状態となっている。市場のパイが今後、縮小傾向にあるなかで、コンビニ業界は熾烈(しれつ)なサバイバル戦争に突入する。セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3社は、いかにしてシェアと売り上げを確保、伸長させていこうとしているのか、各社の戦略を探る。

大手3社対前年比マイナスの衝撃

予想された数字とはいえ、いささか衝撃的だった。コンビニ各社が発表した2020年上半期の決算結果だ。各社のチェーン全店の売上高を前年と比較すると、セブンイレブンがマイナス3.4%、ファミリーマートがマイナス10.5%、ローソンはマイナス9.2%だった。さらに、3社合計の営業利益は1532億円と前年同期比で25%も減った。

全店売上高の絶対値は、セブンが2.45兆円、ファミマ1.36兆円、ローソン1.09兆円と大企業であるのには間違いない。しかし、大きな曲がり角を迎えている。

各社ともに、新型コロナウイルスでの巣ごもり需要から客単価は上昇している。ただし、来店者数が減っている状態だ。特にコンビニ各社は、オフィス需要を取り込んで、生活圏以外にも販路を広げてきたから、ダメージは大きい。

ただ新型コロナウイルスもあるが、これまで各社が抱えてきた問題が表出しているとも見受けられる。

今後の課題は人手不足と収入減

このところのコンビニの課題は、3つある。(1)人手不足、それに伴い、(2)24時間営業が難しくなり、さらに公正取引委員会や世論からNOを突きつけられている点と、 (3)少子高齢化による市場の飽和だ。

もっとも(1)人手不足は、コロナ禍において職を求める人たちが殺到し、緩和した感はある。大学生や高齢者の応募も増えているほどだ。しかし、(2)公正取引委員会は、コンビニ本部がフランチャイジーに24時間営業を事実上の強制とすれば、独占禁止法違反になると見解を示した。改善を強く求める方向だ。さらに、(2)の問題は単なる労働不足ではなく、(3)とも連関する。つまり、オーナーからすれば、コンビニがもうからなくなってきているのだ。

日本では2011年の東日本大震災後、社会的なインフラとしてコンビニが再評価されるに至った。ただし、現在では日本にコンビニが6万店弱もある。コンビニが飽和を迎えた、この5年間で倒産件数も倍増し、さらに1店あたりの収入も年間200万円ほど下がっている。

しかも、このフランチャイズは個人オーナーに支えられている。これまでコンビニ本部は個人オーナーと一蓮托生(いちれんたくしょう)で商いを続けてきた。コンビニも誕生して半世紀が過ぎようとしている。酒屋がコンビニに転換することを通じて、コンビニの躍進を創り上げるきっかけになったのは間違いがない。

ただ、日本のコンビニにおける経営問題としては、個人オーナーに起因する2つの点を指摘できる。

1つ目は、後継者が不在になることだ。多くのコンビニでは個人経営のオーナーと契約を締結することになっており、なかなか新陳代謝が進まなかった。ただ、たとえばファミリーマートでは、それまで配偶者や子供に限っていた後継対象を、法人経営の場合、見直せるとした。このように、既存店舗の契約内容の見直しは必然だろう。

そして2つ目の問題は、再投資が難しい点だ。個人で経営している場合、多くの内部留保は難しい。そうなると、どうしても本部頼みになってしまう。たとえば米国ではアマゾンが無人コンビニを多く展開しようとしている。今後、対抗策として多額の投資を必要とするものに対して、日本のコンビニを経営しているフランチャイズのオーナーたちが勝負できるかというと難しい。

このような構造的な問題を有する日本のコンビニだが、とはいえ、コンビニ各社も続々と将来への施策を打ち出してきている。

値引き情報の発信を始めたローソン

例えば注目に値するのはローソンだろう。ローソンは三菱商事の傘下に入ってから、商品企画力を高めてきたと言われる。同社は一部の店舗限定で、値引き情報の発信を始めた。コンビニでは商品の廃棄量が多く、食品ロスが問題になっていた。そこで、午後5時以降に、店舗に立ち寄れる可能性がある潜在顧客に値引き情報を発信するようにした。かつてアマゾンも米国でトラックを走らせ、お買い得なアイテムを近くのアマゾン会員に伝えるアイデアを持っていた。ローソンは店舗と潜在顧客の位置情報を組み合わせて提供する。

また、ローソンはいち早くウーバーと組んでコンビニ商品の配送を実施した。いまでは、日本のウーバーの中でローソンの「からあげクン」がもっとも配送する商品になったほどだ。

ところでセブンの第一号店が日本に誕生した際、最初に売れた商品は何かご存知だろうか。サングラスだった。思わぬものが売れる。そこでコンビニでは多種類の商品を常に陳列することに注力してきた。フォーマットを作り、そして大量発注、大量生産によって全国への展開を試みた。

そこからある意味、金太郎あめ的な商品ラインナップを志向してきた。しかしここにきて地域色を出すように変革を求められている。考えてみれば当たり前で、オフィス街と生活圏、北海道と九州では売れるものが同じはずがない。

ローソンは近くの農家で採れた野菜を販売してもよいとするなど、「マイクロローカライズ」を打ち出した。地元密着型のコンビニになることで訴求性をあげようとしている。

セブンイレブンはスマホで発注から最短30分で配送計画

商品軸ではどうか。セブンは、コロナ禍における巣ごもり需要に真っ先に反応した。生活圏内にあるコンビニには酒類を一気に揃え、かつ冷凍食品にも力を入れた。外食需要が消えていくなかで、中食・内食を取り込む考えだ。これは他社も同様で、シューマイや餃子などの冷凍食品が外食代替のツマミとして売れていった。

また同社が注力しているのはラストワンマイルだ。これはスマホからコンビニの商品を注文できるものだ。店側は受注した後に商品を配送車に渡す。ネット通販の速さも相当なものだが、コンビニの強みは消費者の近くに実店舗を持つ点にある。最短30分での配送を予定している。

同社はどうも日本で完成モデルを作り上げ、それを全世界展開していこうとするように映る。そもそも米国から輸入したコンビニを洗練させた実績がある。広い国土の米国と違い、狭い日本ではPOS(販売時点情報管理)システムを活用し、効率を極限まで追求せざるをえなかった。ついに2020年には2兆円超をかけて米コンビニ3位「スピードウェイ」を買収するに至った。国内の市場が飽和状態にあるなか、海外事業の拡大を推進している。

伊藤忠の完全傘下でテコ入れを図るファミリーマート

ファミリーマートは伊藤忠によるTOB(株式公開買付け)を受け入れ、2020年8月に成立している。事業規模が大きな企業の完全傘下に入ることで、グループ総力戦で闘おうとしている。その後、関連会社と共に、矢継ぎ早にAI活用を打ち出している。これはファミマから入手できる購買履歴を分析し、個々人にあった広告を流すことなどを予定している。

さらに同社は明確に数を追わないと述べ、質の上昇を目指す。自宅近くにファミマとセブンがあり、どちらも利用しているが、私の感覚では、特に食品領域はファミマはセブンに大きく差をつけられている感がある。同社は同領域での商品力強化を打ち出しているとおり、この改善は急務だろう。

また、ファミマはローソンと同様に地元密着を進めている。商品の品揃えなど、地元に密着していないと分からないことが多い。大胆な権限の移譲を進めながら、地元に愛される店舗づくりに邁進(まいしん)していく。

今後、コンビニが歩むべき道

コンビニの利益の多くを占めるタバコや酒は、日本では店員がいないと売れない。年齢確認を実施する縛りがあるからだ。ただ、これもIDとひも付いた管理や、顔認証などの技術は使えるようになるかもしれない。

ただすべての機械化はできないだろう。日本でも無人コンビニの議論がなされている。しかし、無人コンビニ化できるのは、単純な商品の売買のみを目的とした店舗であり、既存の日本のコンビニが行っているオペレーションの範囲すべてを機械化できるとは思えない。

海外に行くたびに、日本のコンビニのすごさを実感する。おそらく、公共料金の支払いや、さまざまなサービスを数えると、店員がこなすべき仕事数は100か200はあるのではないか。

実は私は日本のコンビニは、もはや「不便業務代行業」としての役割を果たしていると考えている。そこで、最後にあえて抽象的に書くものの、私はコンビニの生き残り策は「面倒くさいことをやる店舗」になることだと考えている。

揺りかごから墓場まで、ではなく、電池から生命保険の加入までできる場において、その強みを活かさないのはもったいない。

バナー写真:ファミリーマート、セブンイレブン、ローソンの看板(上から)

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