バイデン氏勝利で転換する米外交:不安の解消には時間も

政治・外交

バイデン氏の大統領選勝利で、米国の外交姿勢は今後大きく様変わりする。欧州諸国などに根強くある「米国への不信感」をいかに払拭し、国際社会に関与していくかが新政権に問われる。

簡単に「元通り」とはいかない国際関係

2020年の米大統領選は民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利し、トランプ氏は1期のみで政界を退くことになった。トランプ流の「アメリカ・ファースト」主義を批判していたバイデン氏は今後、「この4年間を清算し、米国が国際社会に復帰する」とのメッセージを世界に向けて発していくのだろう。しかし、「トランプの4年間」を経た米国が、何もなかったかのように元の立ち位置に戻れるかどうかは疑問だ。

何より国際社会にとっての米国に対するイメージがこの4年間で変わってしまった。不信感や、わだかまりが出来たのは確かだ。米国内でも、雇用の流出などによる自由貿易に対する不信感とか、国際的なコミットメントに対する「疲れ」とか、これらが国際政治を語る際に影響する状況が出てきている。バイデン氏の言説にも、「バイ・アメリカン」などトランプ主義に似た要素が盛り込まれている。

もちろんパリ協定への復帰とか、世界保健機関(WHO)からは脱退しないとか、イラン核合意への復帰検討など、個々の政策テーマで現政権の方針を否定していくのは間違いない。ただ、全体的な雰囲気で言うと楽観はできない。例えば日本で関心の高いTPP(環太平洋経済連携)などは、党内左派の力が強くなっている民主党の現状を見ると、すぐにこの問題に取り組める状況にはないだろう。

「トランプ現象」に根強い不信

そうはいっても、欧州連合(EU)諸国、特にドイツ、フランスなどがバイデン勝利を歓迎し、選挙結果に胸をなでおろしていることは間違いない。それぞれの国におけるポピュリスト、ナショナリズム勢力と米国の「トランプ現象」というものは、これまで共鳴している関係にあった。国内の”負の勢力”との親和性が、「トランプの米国」を強く警戒する根幹にあったと思う。ただ、この4年間で染みついた不信感を米国が払拭するには。相当の時間がかかると考えるべきだ・

一方で、そもそも多文化社会とはいえない日本では、社会の建て前を否定するようなトランプ現象の「危険性」を身近に感じる現象は起こらなかった。また、安倍晋三首相が大領領をうまくハンドリングし、「トランプ・ショック」を吸収してしまったことも大きい。この点で、日本と他の先進諸国との米大統領選挙の結果に対する受け止めは。かなり様相が異なると理解したほうがいい。

難しい「中国との距離感」

トランプ氏の前の民主党の大統領、バラク・オバマ氏とバイデン氏の違いについて考えてみよう。オバマ氏は、それがうまくいったかどうかというのは別にして、ある種の大きな世界観を持っていた。核廃絶のメッセージを打ち出すなど、世界をつなぐことでしか人類が直面する課題を解決できないのではという、米大統領というよりも国連事務総長のような思考を持っていた。

バイデン氏は明らかにそういうタイプではない。上院外交委員長をやり、副大統領を務めて「外交通だ」という自己認識はあるだろう。しかし、目の前にある個々の問題に取り組んでいくスタイルの人だと思う。実務では専門家を重視し、「振れ幅が少ない、予測できる外交」を進めると予想する。

新政権の対中国政策だが、民主党の中でも認識が変わってきて、現在の時点で外交・安全保障問題に取り組む当事者の中で、基本的に「中国に甘い」スタンスの人は政権内に入れない状況にある。このため、米中関係が大きく変わることはないと考える。

ただし、注意して見ておかなければいけない点として、気候変動や新型コロナのパンデミック対策など「グローバル案件」がある。これらの問題は民主党内の関心が高い分野だが、どうしても中国を巻き込んでいく必要があり、「対話」まではいかなくとも何らかのコンタクトを取っていくことになる。バイデン政権は、中国の覇権なり野望がうかがえる分野にはタフに対応し、それ以外の部分とは明確に区分しようとするだろう。しかし、その境界があいまいになることも考えられる。

対中政策については、トランプ政権に固有なものなのか、既に米国の政府なり議会なりに「制度化」されているものかを区別する必要がある。例えば、トランプ氏が「中国ウイルス」と繰り返し発言するような感情的な姿勢、ポンペオ国務長官らが中国の共産党一党支配の「体制変革」の必要性をにおわせるような言動などは、バイデン政権には引き継がれないだろう。一方で、輸出管理や高度技術をめぐる覇権競争は、今後も続いていくだろう。

「民主党だから」の意識捨てよ

日本が練り上げ、米国、オーストラリア、インドと連携する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想は、この地域が直面している構造的な問題を言語化、概念化して政策化したものだ。現状が大きく変わっていない以上、この枠組みはバイデン政権になっても続いていくだろう。もちろん名前が変わったり、微調整があったりするかもしれない。しかし、米国は既に「太平洋軍」を「インド太平洋軍」に改称しており、そういう意味でも“Indo Pacific”という概念は政府内で制度化されたといえる。

日本が今後、日米関係で考えていかなければならないことは、トランプだから、またバイデンだからという視点でなく、党派を超えて米国で起きている変化が何かを見極めることかもしれない。例えば、トランプ氏は中国に強硬姿勢で臨む一方、「米国の利害を伴わない」と感じる部分には冷淡だった。それは従来の国際主義からの離脱である。

しかし、トランプ氏に限らず民主党のバイデン氏にもサンダース氏にも、米国が無条件で国際主義を受け入れることに対し、「もう一度考えてみよう」という発想がある。米国全体を覆う大きな意識の変化をきちんと把握しないと、両国関係の今後の対処も見誤ることにもなる。中国に対するタフな姿勢も、当然の如くずっと続くと考えるのも危険だ。

クリントン政権の後半(1990年代末)から、日本側には「(日米関係で)民主党政権は苦手」という意識が出来ている。今回バイデン政権が誕生しても、日本にとって中国の問題は非常に大きいので、「その対中政策に対する不安」からバイデン政権の評価がマイナス方向に引きずられる可能性もある。現にそういう評価を多々見かける。

だが、米国での政権交代は必ずあり、日本外交が「共和党の方がやりやすい」との意識をにじませている場合ではない。中長期的にみると、若者層、非白人の支持が多い民主党は、現在より力を伸ばす確率が高いし、よりリベラルな政党になっていくはずだ。

日米関係の難しさというのは今後、それぞれの国が中国の存在、脅威をどのように共有していけるのかどうかという点だ。その際に、双方の認識のずれはもちろん出てくる。相手が共和党政権でも民主党政権でも、そのずれを的確に調整していくことが、最も重要な課題と言えるだろう。

バナー写真:2020年11月7日、米デラウェア州ウィルミントンで勝利宣言した民主党のバイデン前副大統領(ロイター=共同)

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