コロナ感染者数が減っても、なぜ医療逼迫が続くのか

医療・健康

新型コロナウイルスの新規感染者が減りつつあるのに、医療現場の厳しい状態が改善されない。死者や重症者の数は最多、あるいは高止まりの傾向が続き、入院待ちの自宅療養者が亡くなっている。日本は欧米と比べると感染者数が桁違いに少なく、また人口当たりの病床数は世界トップ級なのに、なぜ医療の逼迫(ひっぱく)が続くのか。

重症者が減らず、続く満床状態

緊急事態宣言が1カ月延長された2月8日以降も続く「医療の逼迫」の要因について、聖マリアンナ医科大学感染症学講座の教授で、同大学病院感染症センター長の國島広之氏は2点を挙げた。

まずは、「重症者はすぐには良くならない」こと。國島氏はこう説明する。

「コロナの患者はそれぞれ症状が千差万別で、軽症者と重症者では医療が全く異なる。重症者は入院すると1カ月以上にわたり治療・療養が必要なこともあり、中にはお亡くなりになる方もいる。長期の入院となるケースが多く、ICU(集中治療室)などでかなりの医療スタッフが必要となる。昨秋からの『第3波』で大量の新規感染者が出たが、入院中の重症者が減らないと病床の空きがなかなか出ないので、自宅療養や、病院ではない『宿泊療養』となり、入院待機者が多数となってしまった。このため、新規発症者が減少に転じても、当分の間、コロナ患者の病床は満床状態が解消されず、逼迫した状態が改善されない」

國島広之・聖マリアンナ医科大学感染症学教授
聖マリアンナ医科大学大学院卒。東北大学大学院感染症診療地域連携講座准教授などを経て、聖マリアンナ医大感染症学講座教授。日本感染症学会評議員。感染症専門医・指導医。
國島広之・聖マリアンナ医科大学感染症学教授:
聖マリアンナ医科大学大学院卒。東北大学大学院感染症診療地域連携講座准教授などを経て、聖マリアンナ医大教授。日本感染症学会評議員。感染症専門医・指導医。

入院待ちの間に自宅などで急に体調がおかしくなり、救急車を頼んでも、ほとんどの病院に余裕がないため搬送先が見つからず、たらい回しとなるケースが続発。入院できずに亡くなることが続いた。

第3波で患者は高齢化した。東京都内では2月に入り、コロナの入院患者の3割超は80歳代以上のお年寄りが占めた。こうした背景について、國島教授は次のように指摘する。

「超高齢化社会を迎えた地域医療では、高齢者の誤嚥性肺炎や老衰は、施設や訪問診療で診ることが多い。しかし、現在のコロナ診療では、家庭内感染や介護施設のクラスター(集団感染)の発生などで、コロナ対応の病床に入院する高齢者が大変多くなった。お年寄りは重症化しやすく、入院が長期化しやすいので、病床が埋まってしまった」

「また、コロナになった際にどのような医療を受けたいのか決まっていないことも多く、老老介護の介護者が感染者となり、濃厚接触者の被介護者の行き場がなくなるなど、様々な問題も発生している」

さらに医療現場で問題になっているのが、患者がようやく人に感染させる恐れがないまでに回復しても、他の病院に転院しにくく、また元の施設に戻れないこと。受け入れ先が院内感染を恐れるためだ。長期入院していた患者はリハビリが必要なケースが多いが、元患者を受け入れる病院・施設は多くない。こうして回復した患者が入院先に留まっていることもあり、入退院の流れが停滞してしまう。

容易ではないコロナ病床の増設

続いて、國島氏は医療逼迫の2番目の要因として、「コロナ病床の増設が難しいこと」を指摘する。

OECD(経済協力開発機構)の2018年のデータでは、人口千人当たりの病床数は13で、OECD加盟国の平均4.7よりかなり多い。それでは、現在の逼迫状態緩和のため、コロナ病床を増やせばいいと思われるが、簡単な話ではない。國島氏はこう解説する。

「コロナ対応病床は看護・介護度が高いため、通常病棟よりも多くの看護師を要する。従って、コロナ病床を増床すると、より多くの非コロナ病床が減少となる。しかし、急患に対応する急性期病院ではコロナ以外で搬送されてくる患者も多く、診療中のがん、心不全などの治療は主治医が継続して行うので、現状をあまり動かせない」

さらに、病院にとってはコロナ病床の負担も大きい。

「コロナ病床を設けるには病院の感染防止上、病床の区分け(ゾーニング)を行い、飛沫対策などのため空調工事も必要になってくる。また、通常の病院では、ほとんどの医師やスタッフが感染対策のN95マスクなどの個人防護具を日ごろ着用することはないので、トレーニングが必要となる。新型コロナウイルス感染症の集中治療を行える医師、看護師、技師などの人材は少なく、育成するにも感染症専門医には3年間の研修が必要であるなど、時間がかかる」

「現在、多くの病院で職員や患者の感染事例、クラスターが発生し、病床単位での閉鎖が起きている。非コロナ病床・コロナ病床ともに、もし院内感染などが起きれば、さらに地域の病床が減ることになってしまう」

日本の病院は8割が民間病院で、東京では約9割を占める。大半の病院は規模があまり大きくない。このため、コロナ病床数を緊急に増やす必要性があっても、経営上のリスクを考え、資金、人材、設備などの点からも応じられない民間病院がほとんどだ。こうしてコロナ増床が可能な病院は、公的病院や一部の民間病院などに限られてきて、コロナ医療は逼迫している。

改正感染症法で対応拒否の病院名を公表

病院同士の連携が極めて弱いことも、医療逼迫度を増す一因となっている。前述したように、症状が回復した患者の転院が難航している。「コロナ患者を受け入れた」と、風評被害を恐れている病院もある。

重症度が改善した患者らの転院調整は、都道府県などの行政が行うべきだが、民間病院への指示・命令は難しく、これまでは協力要請に留まっていた。病院の役割分担が明確になっていない現状が、医療逼迫の改善を遅らせてきた。

その対策として、2月13日に施行された改正感染症法では、知事が医療機関などに感染患者の受け入れ協力を要請し、従わなければ勧告できるようになり、正当な理由なく拒否した場合は、病院名や施設名を公表できるようになった。「これで、一定の力のある病院に要請がしやすくなった」と語る知事もいる。

國島氏は最後に、医療逼迫を改善するため、こう訴える。

「限りある医療資源の中、コロナ感染患者が増加することで医療逼迫が継続すれば、通常の医療もコロナ診療も、いずれも受療できない方がさらに増えることが懸念される。根本的には感染者を減らすことが必要不可欠です」

バナー写真:沖縄・宮古島での医療逼迫を受けて支援に駆け付け、介護施設内で対応に当たる陸上自衛隊の隊員たち=1月31日、沖縄県宮古島市【防衛省統合幕僚監部提供】 時事

コロナウイルス コロナワクチン 医療ひっ迫 聖マリアンナ医科大学