地震列島ニッポンー観測網整備で発生予測はできるか

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2011年の東日本大震災以降、日本では震度7を超える地震が4回発生した。そのたびに甚大な被害に見舞われ、われわれは発生予測と防災の重要性を思い知らされてきた。9月1日は「防災の日」。東京大学地震研究所の小原一成教授が、日本列島の地震像と発生予測の可能性を説く。

人類を脅かす地震への備えとは

地震は、人類社会の安全・安心を脅かす大きな脅威である。地震に対する備えとして、地震予知、つまり地震の発生時期、場所、および規模を前もって知ることが期待されていたが、地震研究の発展とともに、地震予知は不可能であるとの認識が強くなった。一方、地震に対する理解が深まり、地震発生の予測精度は向上している。本稿では観測網などの発達に伴う地震研究の発展と地震発生予測の可能性について述べる。

プレートの動きが地震の原因

地震とは、地下で発生する断層運動である。断層面を挟む両側がずれ動くことで生じる振動が地表に伝わり、地震動としてわれわれの居住空間を揺らす。断層運動が海底下で起きると海底面に変位が生じ、津波を引き起こすこともある。地震を起こす断層面は普段は摩擦でくっついており、周りから加わった力が摩擦力を上回ったときに断層面が破壊する。その力の大本はプレートと呼ばれる地球表面を覆う岩盤の動きである。日本列島の直下には、太平洋プレートやフィリピン海プレートが沈み込んでおり、これらの海洋プレートの動きが日本列島周辺で発生する地震の主な原因だ。=図1参照

なぜ日本は大地震が多く発生するのか

これらの地震は大きく3種類に分けられる。沈み込む海洋プレートとその上盤側のプレートがこすれ合って生じる地震をプレート境界地震と呼び、2011年の東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)や、近い将来発生が懸念される南海トラフ地震はこのタイプだ。また、沈み込む海洋プレート内部で生じる地震をスラブ内地震、内陸の活断層で生じる地震を内陸地震と呼ぶ。

プレート境界地震の最大規模はマグニチュード(M)8~9で、東北沖地震はM9、断層破壊域が南北500キロ東西300キロにも及んだ。内陸地震はプレート境界地震に比べると小さいが、深さ約15キロより浅い場所で起きるため、1995年の阪神・淡路大震災のように甚大な地震災害を引き起こすこともある。内陸地震は、過去に形成された断層が再活動して生じる場合が多い。

日本列島はもともとユーラシア大陸の一部であったが、約2000万年前に日本海の誕生と同時に大陸から引き剥がされて形成された。その大変動の過程で多数の断層が生じ、それが現在の主な内陸地震の発生源となっている。地震はそれぞれの場所で繰り返し発生し、その間隔はプレート境界地震で数十~数百年、内陸地震で数千~数万年程度だ。しかし、これらの地震の発生源は多数存在するため、日本列島は頻繁に大地震に見舞われるのである。

地震観測網整備とその効果

日本の地震観測は世界的にも歴史が古く、1880年の横浜地震を機に当時のお雇い外国人教師らが世界最初の地震学会を創立し、地震計の開発を始めたのが端緒である。1960年代に地震予知計画の下で観測網整備が進められ、70年代に提唱された東海地震説を契機として、大地震の先行滑りの検出を前提とした地震予知体制が構築された。

95年の阪神・淡路大震災により、それまでの体制が大きく見直され、地震活動や地殻変動の現状把握が重要であるとし、防災科学技術研究所高感度地震観測網Hi-net(約800点)などの地震観測網(図2参照)や、国土地理院GNSS連続観測システムGEONET(約1300点)などの基盤的観測網が全国規模で整備された。

その結果、微小地震の検知能力が格段に向上し、検知可能な地震の規模の下限がM0.5〜1程度小さくなり、地震の検知数は数倍~10倍程度増えた。また、浅い地震の線上配列が多数浮かび上がり、過去の大地震の余震や今後地震を起こすかもしれない活断層の可能性が示された。さらに、大地震後の余震活動を正確かつ迅速に把握可能となった。例えば2004年の中越地震では4〜5枚の面から構成される震源分布が得られた。

これらは本震や大規模余震の断層面であり、日本海拡大時に形成された複雑な断層系が再活動したことが分かった。以前の観測網ではぼんやりした地震群が得られただけであり、詳細な震源分布は地震現象の理解に大きく貢献している。

東北沖地震の影響

2011年の東北沖地震は、この地域で起きる地震の規模をM8程度と考えていた地震学の未熟さを露呈させた。それまで、地震は場所ごとに固有の特徴を有し、ほぼ同じ大きさの地震が繰り返し発生すると考えられていたが、地震は多様で、破壊域もその都度変わるという認識に変わった。

また、地震は破壊開始時点ではどこまで大きくなるのか分からない、という性質が明らかにされ、地震予知の難しさがさらに示された。そのような背景の下、国は東海地震予知を前提とした防災体制から、南海トラフ地震を対象に不確実性を含む臨時情報を発出して注意喚起する体制に転換した。

観測網から創出された世界的研究成果

ところで、Hi-netやGEONETなどによって創出された世界的成果の1つがスロー地震の発見である。スロー地震とは、通常の地震に比べゆっくり断層が滑る現象の総称であり、ゆっくりの程度によって複数のタイプに分かれる。1999年および2002年にそれぞれ別のタイプのスロー地震が世界で初めて西南日本で発見された後、世界各地で発見が相次いだ。これらのスロー地震の発生源は巨大地震震源域に隣接することから、巨大地震と何らかの関わりがあると考えられる。実際に、東北沖地震発生直前に近傍でスロー地震が起きていたことが分かり、スロー地震が巨大地震の契機となった可能性が示された。

また、東日本大震災以降に整備された防災科学技術研究所日本海溝海底地震津波観測網S-net(150点)などの海底ケーブル式観測網(図2参照)により、日本海溝や南海トラフ付近でも多様なスロー地震が起きていることが分かった。このように、スロー地震と巨大地震が関連する可能性から、スロー地震は、南海トラフ地震に関する臨時情報の発出基準の1つに挙げられている。

データの蓄積が発生予測に大きく貢献

断層破壊の時期や場所を事前に知ることはできないが、断層面の形状や摩擦の程度、力の加わり方を推定できれば、地震発生の切迫性を確率的に評価することは可能である。現在の陸域および海域の地殻変動観測によって、プレート境界の固着の様子はだいぶ分かってきた。海洋プレートの沈み込みの仕方や、日々の地殻変動データ、小規模地震およびスロー地震によって再配分される力も考慮し、プレート境界のどこにどれだけの力が働くか、スパコンを用いて推定が可能だ。

今後、予測精度向上のためには、精密な地下構造探査によりプレート境界面の形状や周辺物質の物理量を正確に求めること、過去にいつどこでどの程度の規模の大地震が発生したかという履歴を知ることも重要である。つまり、古文書などを用いた人文科学的研究や津波堆積物の地質学的研究も、地震発生の将来予測に貢献している。

命を守るリアルタイム情報

以上の地震発生予測はあくまでも確率的なものであり、本当に地震が起きるかどうかは分からない。それに対して、地震発生直後、あと何秒で大きな揺れに見舞われるかという情報は、そのわずかな時間で命を守ることに役立つ可能性がある。これをリアルタイム情報と呼び、研究開発が進められている。日本では、気象庁が緊急地震速報として2007年より運用を開始した。=図3参照

11年の東北沖地震の際は東北地方では有効に機能したが、関東地方の揺れの予想が過小評価だった。これは、当時の手法が地震の破壊開始点と規模を先に推定し、そこからの距離で揺れの強さを推定していたが、東北沖地震のように破壊域が大きく拡大することまで考慮していなかったからだ。現在では、他の地点での揺れから対象地点の揺れを推定する手法も併用し、より信頼性の高いシステムに更新されるとともに、さらに新たな手法も開発中である。一方、GEONETのリアルタイムデータを用いて巨大地震の断層モデルを時々刻々と推定し、津波即時予測に活用する研究開発も進められている。

観測網の安定運用・整備と日頃の備えが必要

近年整備されてきた陸域および海域の観測網により、地震研究が発展し、地震活動の現状評価、地震発生予測、リアルタイム情報の高度化が進められてきた。人類社会の安全・安心を確保するため、これらの知見や情報は必要不可欠である。それを支える観測網は、今後も安定的に運用されなければならない。特に大きな脅威となる巨大地震は海域で発生するため、海域のケーブル式地震・津波観測システムは、さらなる整備が望まれる。

どんなに研究開発が進んでも、これらの情報には限界があるため、われわれはそのことも踏まえて有効活用するための知識を得ておくとともに、いつどこで地震が起きても大丈夫なように日ごろから備えておくことが必要だろう。

バナー写真:北海道胆振東部地震で広範囲にわたり崩落した山肌と、押しつぶされた民家(時事通信チャーター機より)=2018年9月6日、北海道厚真町(時事)

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