岸田首相、参院選が試金石 :カギ握るコロナ・経済―2022年政局展望

政治・外交

参院選に勝利して政権安定に向かうのか、それとも失速して難しいかじ取りを迫られるのか――。2022年は岸田文雄首相にとって「勝負の年」となる。

4人が争った自民党総裁選を勝ち抜き、初陣となった衆院選でも同党単独で絶対安定多数(261議席)を獲得する成果を挙げた岸田文雄首相。2022年最大の政治イベントである夏の参院選で勝利すれば、本格・安定政権への道が開ける。懸念材料は、新型コロナウイルスの感染「第6波」に襲われた場合の対応だ。世界的にインフレ圧力が高まる中、経済政策のかじ取りも簡単ではない。失政により国民の失望を招き、参院選に大敗すれば政権運営は行き詰まる。衆参の「ねじれ」が生じるような事態となれば、退陣に追い込まれる展開さえ否定できない。首相にとっては勝負の年だ。

「自公57議席」で過半数

参院選は、7月10日投開票となる日程が有力。法改正により総定数が248に増え、半数の124が改選される。神奈川選挙区で欠員1を補充する選挙も実施されることから、与野党は計125の議席を争う。1月1日時点の参院勢力では、自民、公明両党の非改選議席が68あるため、自公で57の議席を獲得すれば過半数(125)を確保できる計算だ。改選議席は自民54、公明14の計68で、与党が11議席減らしても、過半数の維持が可能。首相にとってハードルは高くないようにも見える。

ただ、参院選は与党にとり、過去に「鬼門」となったケースが多い。政権選択が懸かる衆院選とは違い、中間試験的な位置付けの参院選では「与党におきゅうを据える」投票行動をとる有権者が多いとされ、近年の政治の激変は、参院選に端を発して生じている。2009年と12年の2度の政権交代は、いずれもその前の参院選での与党敗北が起点となった。

第1次安倍政権下の07年の参院選では、当時の民主党が大勝。参院で野党が多数を占める「ねじれ」現象が発生し、自公政権は国会運営に苦しんだ末、09年の衆院選で野党に転落した。逆に、民主党政権の菅直人首相の下で行われた10年の参院選では民主党が惨敗。参院で少数与党に陥り、12年の衆院選で自公に政権を奪い返された。

2022年の主な日程

1月 17日(見通し) 通常国会召集
23日 沖縄県名護市長選投開票
2月 4日 北京冬季五輪開会式
3月 9日 韓国大統領選
下旬(見通し) 22年度予算成立
5月 15日 沖縄本土復帰50年
6月 15日 通常国会会期末
7月 10日(見通し) 参院選投開票

経済対策で布石

岸田首相もこうした過去は十分承知だ。参院選への布石は2021年のうちから打ってきた。財政支出が過去最大の55.7兆円、民間支出などを含む事業規模は78.9兆円という経済対策を11月に決定、首相は「経済を一日も早く成長軌道に乗せていく」と力を込めた。この経済対策に基づいて、12月の臨時国会では35.9兆円の21年度補正予算を成立させ、参院選へ実績を積んでみせた。

今のところ、首相には追い風が吹いているように映る。安倍晋三氏、菅義偉氏の二人の前任者を苦しめた新型コロナ感染は沈静化。21年10月の衆院選を乗り切ったことで、内閣支持率は一段と上がった。逆に、勢力を減らした野党第1党の立憲民主党は創設者の枝野幸男氏が辞任に追い込まれた。新代表の泉健太氏が党を率いるが、党勢立て直しへの展望はまだ見えない。

そして迎えた22年、首相は1月召集の通常国会で、まずは来年度予算の早期成立に全力を挙げる。首相が重視する経済安全保障推進法案と、こども家庭庁設置法案も確実に仕上げ、参院選に向けて弾みを付ける考えだ。昨年12月の臨時国会の所信表明演説では、敵基地攻撃能力保有の検討を明言した首相だが、公明党内の「国民の理解を得ながら確立することが大切」(山口那津男代表)とする慎重論に配慮、本格的な協議は参院選以降に先送りし、まずは自公の選挙協力の構築を優先する。そんな首相に死角はないのか。

賃上げ税制、効果未知数

最大の脅威はやはり新型コロナだろう。特に南アフリカで昨年確認され、世界に広まった変異株「オミクロン株」は感染力がより強いとされる。医療体制が再び逼迫(ひっぱく)するような事態になれば、政権への逆風は計り知れない。首相が全ての外国人の入国禁止という厳格な水際対策に踏み切ったのも、感染「第6波」への警戒感の裏返しと言える。

原油価格の高止まりが続いていることも気掛かりだ。実質賃金が伸びない中、原材料の価格が上がって家計や企業業績を圧迫すれば、有権者の不満は与党に向かう。自公は首相の意向もくんで昨年12月の税制改正大綱に、従業員の給与を上げた企業に対して法人税の控除率を大幅拡大する賃上げ税制を盛り込んだ。ただ、約6割の企業は赤字で法人税を納めておらず、税率控除の恩恵は及ばない。「雇用慣行の改革なしに賃金は上がらない」という指摘もあり、賃上げ効果がどこまで現れるかは未知数だ。コロナや経済への対応で首相が国民の不信を招けば、参院選で思わぬしっぺ返しを受ける可能性もある。

どうなる? 野党共闘

参院選をどう戦うかは、野党陣営にとっても今年最大のテーマだ。参院選の帰趨(きすう)は32ある改選数1の「1人区」の行方で、野党がバラバラに戦えば自公を利することになる。立民を中心に候補者一本化を模索するとみられるが、先行きには不透明感が漂う。衆院選で交わした共産党との「限定的な閣外協力」という合意について、立民の泉代表は見直す意向だが、共産は順守を求めているためだ。共産との共闘に冷ややかな国民民主党をどう巻き込むかも課題となる。

衆院選で躍進した日本維新の会は、「身を切る改革」を掲げて党勢拡大を目指しており、参院選でも候補者を積極的に擁立する見通しだ。

バナー写真:首相公邸で取材に応じる岸田首相=2021年12月11日(共同)

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