農林業にも影響を及ぼす放置竹林──解決策を探る

社会 環境・自然・生物

西日本を中心に放置された竹林が広がり、農林業にも影響を及ぼしている。農林水産省によると、全国の森林面積のうち、竹林は16万7000ヘクタール(2017年)で5年の間に5300ヘクタール増えた。東京ドーム1134個分に相当する。昔から松や梅などと共に縁起物の竹に、何が起きているのか。

竹と聞いて連想するもの

竹と聞いて何を思い浮かべるだろうか? 門松、タケノコ、七夕、かぐや姫、竹馬、竹工芸、竹炭、エジソンフィラメント、日本庭園で植栽されている竹、京都・嵐山で見られるような竹林景観だろうか? 今話題のアニメ「鬼滅の刃」のヒロイン竈門禰豆子(かまど・ねずこ)がくわえているものを思い浮かべる方もいるかもしれない。このように人それぞれ思い描くものがあるかと思う。以下では、日本の竹が置かれている状況の変化と課題解決に向けた取り組みを紹介する。その前提知識として、植物としての竹について知っていただきたい。

イネ科の植物

竹はイネ科タケ亜科に属し、熱帯から温帯地域に1600種類ほど分布している。日本には100種程度が知られており、世界の分布の中で日本の分布は北端に位置する。日本で竹(大型のもの)を見ていると、背が高く、茎が木化するため木と思われがちだが、分類学上で近い仲間として稲や麦が挙げられ、竹は巨大な草であると説明する方がいる。木でも草でもなく竹は竹である、と説明する方もいる。このようにどっちつかずの存在だが、花を見るとイネ科植物であることが分かっていただけるのではないか。

ハチクの花。矢印の部分が雄しべの葯(やく)(京都市内)
ハチクの花。矢印の部分が雄しべの葯(やく)(京都市内)

モウソウチクの開花。矢印の部分が雄しべの葯(京都市内)
モウソウチクの花。矢印の部分が雄しべの葯(京都市内)

竹は成長が早く、春の食材としてはもちろん、傘の持ち手などに利用される地下茎から、ほうきなどに加工される地上部の枝先まで余すことなく使え、素材としての魅力がある。

そのため、自生していない地域にも持ち込まれ、有用な資源として世界各地で多岐にわたり利活用されている。

伸長中のタケノコ(京都府京田辺市のハチク林)
伸長中のタケノコ(京都府京田辺市のハチク林)

一世紀を超えて一斉開花

日本の大型の竹には、巨大な林を作り、それを長い間維持する特徴がある。しかし、同じ林でも森林と竹林とでは、その維持機構が大きく異なる。森林では一般に、構成する個々の木が年々肥大・伸長成長して次第に大きくなり、小さな木が枯れ、また次世代の芽生えが加入することを通して維持される。一方で、竹林を構成する竹(竹稈=ちくかん)は、タケノコからたった数カ月のうちに肥大・伸長成長を終えてしまう。それぞれの竹はおよそ5~20年ほどで寿命を迎え、新しい竹に入れ替わることで、竹林が維持されているのだ。

そして、この竹林の地上部の成長を支えているのが、地下数十センチを横走する地下茎だ。竹林においていわば司令塔のような働きをしており、地上部の竹の成長点になっているほか(新芽を私たちはタケノコと呼んで食べている)、栄養分をためたり、運んだりする役割も担う。

モウソウチクの地下茎。地上部分と同じように節構造になっている(京都市洛西竹林公園)
モウソウチクの地下茎。地上部分と同じように節構造になっている(京都市洛西竹林公園)

このように、竹林では長い間地下茎からタケノコを出す成長が続けられるが、種類によっては百数十年に一度、一斉に開花・結実して生涯を終える珍しい性質を持つことも知られている。開花するまでの時間が長いため、一人の研究者が追跡することが困難で、実態もままならない種類もいまだ多く残っている。

しかし、日本に生育するハチク(淡竹)という種類では現在、明治時代の後期以来の一斉開花期を迎えている。この状態は10~20年ほど続くと予想され、研究するには千載一遇の機会で、興味深いことが分かり始めている。(※1)

一斉に開花したハチク林。茶色く変色している(滋賀県大津市)
一斉に開花したハチク林。茶色く変色している(滋賀県大津市)

放置竹林の拡大

日本では大型の竹として主にモウソウチク(孟宗竹)、マダケ(苦竹)、ハチクの3種類が知られるが、これらはいずれも伸びるタイプの地下茎を持ち、生育条件が悪くなければ、いったん定着した場所で長い間竹林を維持する。有用な植物として日本人に好まれ、各地で植栽・管理され、後述のように野生化して逸出したものも増えており、現在森林エリアの1%弱を占めているほか、農地や河岸にも生育している。

この中で、モウソウチクは背丈20メートルを超える大型種で、現在最も多く見られている。18世紀の江戸時代に中国から導入され、それ以降、各地へ急速に株分けされ、鹿児島から北海道の南部まで生育している。福岡や京都などを産地とする食用のタケノコや京都・嵐山の竹林として親しまれる竹は、この種類だ。

しかし高度経済成長期に、安価な輸入タケノコの増加、プラスチック製品の普及、燃料革命などによって地域資源の竹が利用されなくなり、さらに担い手の高齢化も進み、それまで手入れされていた竹林やそれを取り巻く里地里山が管理されないケースが増えた。野生化した竹林は、上に述べたような外へ広がる性質をいかんなく発揮し、周辺の空き地や草原、森林を素早く占拠する現象が目立つようになった。

これは、研究者らによって1990年代から「放置竹林の拡大現象」として取り上げられ、これまで各地で行われた研究成果から、年間当たりおよそ1~3メートルの速さで竹林が拡大することが分かっている。

丘陵地に広がるモウソウチク林(黄緑色の部分)の景観(京都府南部)
丘陵地に広がるモウソウチク林(黄緑色の部分)の景観(京都府南部)

河岸のマダケ林の中(京都府南部)
河岸のマダケ林の中(京都府南部)

竹が放置されたり、広がって周囲の生態系が竹林に置き換わったりするとどうなるかは研究途上で、負と正の両方の影響があるようだが、負の影響では以下のことが挙げられる。

  • タケノコからたった数カ月で高さ10メートル以上に伸びる竹は、竹よりも背の低い植物から光資源を先取りし枯らしてしまう。その結果、竹林化するに伴い、生態系内の植物種の多様性が減少する。
  • 人間目線でいえば、 管理放棄された竹林には枯れた竹や倒れた竹も混じるため、景観として美しくない。 さらに、人が立ち入らないために産業廃棄物など不法投棄の温床になるケースがある。
  • 人の入らない竹林はイノシシやシカなどにとってよい住み場となり、獣害の温床になる。

竹林に出現するイノシシ(京都府南部の竹林・森林の混合林)
竹林に出現するイノシシ(京都府南部の竹林・森林の混合林)

竹林に出現するシカ(京都府南部の竹林・森林の混合林)
竹林に出現するシカ(京都府南部の竹林・森林の混合林)

このような状況を踏まえ、国は「モウソウチクなどのタケ類」を産業管理外来種に指定している。産業管理外来種とは、産業または公益的役割において重要だが、利用上の留意事項が求められるものを指す。もっとも、個々人の日常生活の中で、隣の敷地から竹が侵入したり、枯れた竹が敷地の中に倒れたりして、近隣トラブルを経験された方がいるかもしれない。

問題解消に向けた新たな取り組み

放置竹林やその拡大は、西日本を中心に重要な地域課題として取り上げられることが多く、これまで数十年の間、問題意識をもつNPOや地方自治体、企業によって、竹に新たな価値を与えようとするさまざまな取り組みが行われている。

放置竹林の整備の基本は、枯れたり倒れたりした竹の整理から始まり、きれいな景観を取り戻し、維持することにある。当然ながら、タケノコ、細工の材料といった竹林からの恵みを得ることを活動の醍醐味(だいごみ)とするケースが多い。また、パウダーやチップなどに加工して農業や畜産業に役立てるなど、地域循環型の資源として利用されることもよくある。最近では、SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素社会といった世界的なキーワードに照らし合わせて意義をPRし、活動を継続・発展させるケースも目立つ。

多様な取り組みの中で、今、放置竹林の解消に向けて注目される動きの一つに、純国産メンマプロジェクトがある。高さ2メートルほどに伸び切ったタケノコを採取して湯がき、塩漬けして「メンマ」として食する取り組みだ。全国的なネットワークが組織され、定期的にメンマサミットが開かれている。

他にも、竹筒に小さな穴を数多く開け、空洞の中に明かりを灯し幻想的な雰囲気を作り出す「竹あかり」のイベントや芸術家による竹を使ったインスタレーションなども盛んに行われている。これらは放置竹林の解消や竹を通した地域コミュニティ創出に貢献するものと期待される。

竹に関わる人々をつなぐ全国規模の組織や施設も整いつつあり、例えば竹イノベーション研究会や竹林景観ネットワーク、竹の総合施設「竹LABO」がある。既存の全国組織である竹文化振興協会や全国竹産業連合会などとともに新旧の知恵を結集させ、現代の課題に取り組むような動きも出始めている。

厄介モノにも宝モノにもなる竹

先代の意志によって植えられ、身近に残存する竹林だが、これらを厄介な過去の遺産と捉えて排除するのか、それとも宝と捉え、知恵を働かせてうまく利活用するのか、各地で試行錯誤しながら向き合っている方がおられる。効果的な駆除のためにも、持続的な資源利用のためにも、竹という植物への理解や、利用可能な竹林資源量の把握、竹林の栽培や竹材の加工技術の開発および技術継承が重要だ。

2022年は寅の年。竹と虎は絵画でともに描かれることも多く、何かと関係性の深い生き物同士だ。そんな年だから、皆さんの周りにある未利用の竹林に光を当てる一年にしてはいかがだろうか。

写真は全て筆者提供

バナー写真=未整備の竹林(左)と整備された竹林(京都府向日市の同じモウソウチク林で)

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