厳し過ぎる入国規制がようやく緩和: なぜ岸田政権は批判されたのか

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オミクロン株の広まりを受け、2021年12月から続いた政府の「外国人入国停止措置」が、3月1日にようやく緩和された。3カ月にわたる「鎖国」継続には、留学生を多く抱える大学、そしてビジネス界から大きな批判の声が上がった。

昼夜逆転のオンライン研修

私が代表を務める広島平和構築人材育成センターは、外務省委託「平和構築・開発のためのグローバル人材育成事業」の一環として、例年1月に「ミッドキャリア・コース」を、1月末から2月にかけて「プライマリー・コース」という研修を実施している。前者が現役の国際機関職員の方々、後者がこれから国際機関職員になる方々のためのコースだ。両者ともに、約半分が日本人、約半分が様々な国籍の外国人を迎え入れて実施している。

今回は昨年度よりも、外国人の入国禁止がいっそう厳しく、また早い時期に導入された。そのため今回は外国人が全く対面式の研修に参加することができなくなった。やむを得ず、対面式とオンラインを組み合わせた「ハイブリッド方式」で研修を実施した。アフリカにいる研修員などは、時差9時間を克服しながら参加してくれた。ただし数週間にわたる研修となると、その様子では全てのセッションに参加するのは体力的にも厳しい。また対面式の最大の魅力は、講師層や他の参加者層との交流にあるのだが、それを外国人の方々に提供できなかったのは、本当に辛かった。

入国規制をしている政府関係者にとっては、時限的な措置だという気持ちがあるのだと思う。しかし、その間日本に渡航する計画を立てていた人にとっては、もう人生において再び日本に来る機会がめぐってくるかどうかは分からない、というくらいに深刻な意味を持つ。

留学生の境遇に不当な格差も

大学に入学を許可された「留学生」が抱えている問題は、さらに複雑である。入国禁止は、断続的に継続して実施されているので、長期にわたり入国できない留学生が多数いる。その数は15万人にのぼるという報道もある。私が指導している大学院生の中にも、数カ月にわたって入国できず、オンラインでの授業に出席して単位を取得し続けている者が複数いる。

非常に辛いのは、時差や通信環境の限界や費用などを考えると、日本にいて授業に出るよりも圧倒的に負担の大きい環境に置かれていることだ。それにもかかわらず、まだ日本に来ていないからという理由で、奨学金も支給されない。このことは、学生の間に不当な境遇の格差ももたらしている。

昨年秋に、国費留学生には優先的に入国が許可されたことがある。ところがその入国許可の措置が12月には打ち切りになったため、現地大使館のビザ発給のタイミングなど本人の関知しない事情で、日本に入れた者と入れなかった者で明暗が分かれてしまった。同じ国費留学生の間でも、大きな格差が生まれた。

間一髪入国できれば、奨学金を受給しながら安定した学生生活を過ごせる。ところがあと少しというところでまた振り出しに戻されてしまったような者は、時差や経費などと戦い続けながら、オンライン授業への出席を余儀なくされる。このいびつな構造は入国規制措置が緩和された後も、しばらくは残存し続ける。影響を過小評価することは決してできない。

3カ月継続の合理性に疑問

2021年末のオミクロン株の発見を受けた入国停止措置に関して最も議論を呼んだのは、導入の可否というよりも、その継続期間だろう。仮に未知のオミクロン株の出現に際して入国規制で対応することに合理性があったと考える場合でも、果たしてこの強い措置を約3カ月にわたって続けることに合理性があったかについては、疑問の余地がある。

2月末までの入国停止措置の継続は、1月の早い段階で決められた。1カ月以上先のことを予測して強い措置を取り続けながら、合理性のある政策を取っていくのは著しく困難だ。新型コロナの展開は、非常に早く、変化が激しいからだ。1月初めには入国規制でオミクロン株の広がりを抑え込めていると自負していた政府の関係者も、その後急速に新規陽性者数が拡大した現実の前では、水際対策の妥当性について語りたくないような状態に陥った。そして2月半ばには、3月1日からの緩和措置について早めに告知をしなければならないことになったのである。

オミクロン株をめぐる日本政府の水際対策の推移

2021年11月27日 世界保健機関(WHO)がオミクロン株を「懸念される変異株」に指定
30日 外国人の新規入国を原則停止
12月1日 外国人の入国者数上限を1日3500人に引き下げ
2022年1月9日 沖縄・山口・広島の3県に「まん延防止措置」適用
11日 政府が新たなコロナ対策発表。外国人の新規入国停止は2月末まで継続表明
22日 東京都の新規感染者、初の1万人越え
27日 「まん延防止」を34都道府県に拡大
2月9日 在日米国商工会議所などが入国制限の緩和求める
2月16日 経済同友会の桜田謙悟代表幹事が記者会見で「効果のない水際対策を続けてしまったのでは」と批判
2月17日 岸田首相が水際対策の緩和を表明。3月から外国人の入国者数上限を1日5000人に引き上げ

その間に、当初は厳しい入国規制をしていた他の諸国は、次々と規制を撤廃していった。そのため、「鎖国」を続ける日本の政府の姿勢が、国際的にも際立ったものとして映るようになった。

残念ながら、この日本の姿勢は、決して科学的な見解に基づいたものだとは言えなかった。少なくともオミクロン株が国内に入ったことが明らかになった後では、入国停止措置の合理性は著しく低かった。

しかし、オミクロン株の到来を恐れていた日本国民は、12月の段階では岸田政権の素早い入国停止措置を歓迎した。内閣支持率は大幅に上昇した。その「成功体験」があったため、政府が対策緩和に転じるタイミングは、どうしても遅くなりがちになった。

留学生の苦難を現場で感じ取っていた大学関係者のみならず、経済活動への深刻な影響を被っていた経済界からも、機械的な入国禁停止の緩和を求める声は日増しに強まった。政府も2月半ばには、3月からの緩和を先取りして告知しなければならないところにまで追い詰められた。しかし、それでも約3カ月にわたって外国人入国禁止措置が続いた背景には、当初の世論の支持があった。

高齢者層の意向を優先

内閣支持率に大きな影響を与える有権者層の中間値は、大学や経済界を動かしている現役層の中間値とは異なる世代に見出される。少子高齢化の進展によって、有権者の多くは現役を退いた高齢者層によって構成されている。彼らは、現役世代とは異なる利益を持つ。

なんといっても新型コロナの被害を受けやすいのが、高齢者層である。若年層は、むしろ過剰な社会的規制による不利益を被りやすい。世代によって利益が異なること自体は、世界の諸国の全てに見出される事情だろう。しかし、日本ではより高齢者層の意向が政策に反映されやすい傾向にある。

長期にわたる外国人の入国停止措置は、そうした高齢者寄りの政策の典型例であり、社会的な活動の維持という目標は後回しにされた。今回の水際対策にまつわる状況は、少子高齢化が進んだ日本の国力の停滞を暗示するものに感じられる。

入国管理の能力拡充に大胆投資を

欧米諸国はより明白に新型コロナとの共生を模索し始めている。オミクロン株の弱毒性が判明してくるにつれて、そしてブースター接種を普及させるにつれて、次々と新型コロナ対策の社会的規制を取り外していっている。だが欧米流の共生策は、日本ではなかなか定着していかないのだろう。

しかし、いたずらに「強め強めの政策」を追い求めるだけでは過剰に社会を疲弊させ、かえって長期にわたる新型コロナとの戦いを不利にしていくだけだ。社会的機能を維持しながら、新型コロナへの対策を効果的にとり続けていくための合理性のある政策が常に追い求められなければならない。

日本がよりいっそう力を入れなければならないのは、入国規制を継続させる期間の長さではなく、検査能力の向上を中心にした入国管理体制の充実ではないか。

外国人の入国停止措置が続いていた間、一日当たりの入国者の数は3500人に制限されていた。3月以降は5000人に拡大される。だが残念ながら、社会的機能を高い水準で維持していくために望ましい入国者数だとは言えない。日本の大学への留学生の全員が入国を果たすためには、相当に長い時間がかかるだろう。

この入国者の上限数は、空港における入国審査の能力の限界によって決まってくる。デジタル化の度合いや施設の貧弱さなどから、大規模な外注による人海戦術で、現在の入国管理体制は維持されている。逆に言えば、能力拡充が果たされれば、新型コロナの感染拡大を防ぐための対策を十分に施しながら、入国者数を大幅に増やしていくことができる。抜本的な改善を果たすための大胆な政策的な投資が望まれている。

バナー写真:スーツケースを手に到着ロビーを歩く旅行客=2022年2月18日、羽田空港(AFP=時事)

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