中ロの軍事的連携の強化と日本の安全保障

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ロシアのウクライナ侵攻後の今年5月、中国軍とロシア軍の爆撃機などが日本周辺を共同で飛行し、大きな注目を浴びた。筆者は、米国と協力して対抗する戦略的利益から中ロは軍事協力を深化させており、日本はそれに対抗した抑止力強化が必要だと指摘する。

2022年2月にロシア軍が大挙してウクライナに侵攻したことは、国際法に反し国際秩序を破壊する行為であるとして国際社会から強い批判を浴びているが、中国軍はそのロシア軍との連携を強めつつある。同年5月には、中国軍とロシア軍の爆撃機が日本海、東シナ海、太平洋の上空を共同で飛行するなど、日本周辺における両国軍の連携した行動も増加しつつある。中ロはなぜ軍事的な連携を強めているのだろうか。また、それは日本の安全保障にいかなる影響をもたらすのだろうか。

深化する中ロの軍事協力

かつて中国とソ連は陸上国境をめぐって軍事衝突を引き起こすなど、厳しい対立関係にあった。ソ連の後継国家であるロシアと中国の間にも根深い不信感が存在するともいわれていたが、中ロは2004年に陸上国境問題を話し合いで解決し、関係発展の最大の障害が取り除かれた。翌年8月には、両国間で初めてとなる共同軍事演習である「平和使命2005」が、対テロを目的として中国の山東半島で行われた。その後「平和使命」は上海協力機構(SCO)の対テロ共同演習としてほぼ毎年実施されている。

他方で、中国海軍とロシア海軍は12年4月に、初めての共同演習を「海上連合2012」として山東半島沖の黄海で実施した。双方合わせて20隻を超える艦船が参加し、共同で対空戦、対潜戦、捜索救難などの訓練を行った。その後、両海軍は訓練内容を高度化させたり、実施海域を多様化させながら「海上連合」演習を毎年実施している(20年は未実施)。実施海域は日本海(13年)、東シナ海(14年)、地中海・日本海(15年)、南シナ海(16年)、バルト海・日本海(17年)、南シナ海(18年)、黄海(19年)、日本海(21年)であり、中国周辺海域だけでなく、欧州方面でも実施されている点が注目に値する。

また近年では、大規模な軍事衝突を念頭に置いた戦略的演習に、中ロ両軍が相互に参加する動きがみられている。18年9月には、ロシアの東部軍管区を中心に行われた「ヴォストーク2018」に、中国軍が初めて参加した。中国軍は兵士約3200人、車両約1000両、航空機約30機を鉄道や航空機で輸送し、中国軍史上最も大規模な海外演習への派兵であるとされた。

中国軍は、19年9月にロシアの中央軍管区で行われた「ツェントル2019」、20年9月にロシアの南部軍管区で行われた「コーカサス2020」にそれぞれ参加した。21年8月には、中国の西部戦区で行われた戦略的演習である「西部・連合2021」に、ロシア軍が初めて参加した。このような戦略的演習への相互参加は、中ロの軍事的連携が着実に深化していることを示しているといえるだろう。

さらに中国軍とロシア軍は、日本周辺の海空域において連携した行動をとり始めている。19年7月には、中国軍のH-6爆撃機2機と、ロシア軍のTu-95爆撃機2機が、日本海から東シナ海にかけて共同で飛行した。中国国防部は、これを初めての「中ロ共同空中戦略パトロール(聯合空中戦略巡航)」であると説明した。その後、20年12月に2回目の共同飛行が行われ、21年11月には3回目の共同飛行が太平洋へと飛行区域が拡大されて行われた。そして22年5月に4回目となる共同飛行が行われたのである。

さらに両国の海軍も、日本周辺での共同行動をとり始めた。21年10月に日本海で「海上連合2021」を実施したのち、両国海軍の艦船それぞれ5隻が共同で津軽海峡を東進して太平洋へ進出し、日本の太平洋沿岸を航行したのち、大隅海峡を西進する日本を周回するような共同航行を行った。この航行について中国側は「中ロ海上共同パトロール(海上聯合巡航)」を行ったと発表した。同年11月23日に、オンラインで会談した中国の魏鳳和国防部長とロシアのショイグ国防相は、中ロの海上と空中における共同パトロールについて総括するとともに、両軍間の戦略的な協力を推進することで一致したのである。

米国に協力して対抗する狙い

このように中国とロシアが共同演習や共同パトロールの実施などを通じて軍事的連携を深化させる最大の狙いは、両国との関係が悪化している米国に対して、協力して対抗することであろう。軍事力を急速に増強してきた中国は、東シナ海や南シナ海などで力による現状変更を推進しており、自由で開かれた国際秩序の維持を重視する米国との対立を深めてきた。2022年8月には、弾道ミサイルの発射を含む大規模な軍事演習を行うことで台湾に対する軍事的威嚇を行い、米国のさらなる警戒と反発を呼んでいる。14年にウクライナのクリミアを併合したロシアも、米国を中心としたNATO諸国との対立を深めてきたが、ロシア軍によるウクライナ侵攻により、米国との軍事的な対立関係が一挙に高まった。

台湾海峡や東シナ海、南シナ海をめぐって米軍との対峙を強める中国と、ウクライナなど欧州正面でNATOとの対立を深めるロシアにとって、軍事的な連携を強化することにより、米軍による圧力を分散することが可能となる。22年2月に習近平国家主席とプーチン大統領の会談後に発表された中ロ共同声明は、両国が「NATOの継続的な拡大に反対」するとともに、「アジア太平洋地域における閉鎖的な同盟システムの構築に反対」する立場を宣言した。すなわち、中国は欧州でNATOと対立するロシアを支持し、ロシアはアジアで米国と対立する中国を支持する姿勢を明確にしたのである。中国とロシアは、米国およびその同盟諸国との軍事的な対立に対処する上で協力することに戦略的利益を見出しているのである。

中国にとってロシアとの軍事的連携の強化は、習近平主席の下で行ってきた軍の改革を推進する上でも重要であろう。人民解放軍は米軍と並ぶ「世界一流の軍隊」となるべく改革を進めており、統合作戦能力を強化することによって実戦で勝利できる軍事能力の構築を目指している。ロシア軍は中国軍に比較して多くの実戦経験を有しており、また中国軍に先駆けて統合作戦能力の強化に向けた改革を行ってきた。中国軍にとってロシア軍との連携を強化することで、軍改革に有用なロシア軍の経験を共有することも期待されているだろう。また、ロシア軍は航空・宇宙分野で優れた技術を保有しており、中国はロシアとの軍事的連携の強化を通じてこうした技術の導入も目指しているものと思われる。

ロシアにとって中国との軍事的連携の強化は、長大な陸上国境を接する強大な大国である中国との関係を安定化させつつ、対等な二国間関係を維持するうえでも重要であろう。国力が衰退しつつあるロシアにとって、米国との対立に加えて、中国との関係を悪化させる余裕はない。中国との軍事的な相互信頼関係を強化することで、中国からの潜在的な脅威を極小化しつつ、軍事面でのロシアの有用性を中国に認識させることによって、中国にロシアの立場を尊重させることも期待されよう。日本周辺における共同パトロールの実施には、ロシアが中国と対等な大国であることを国内外にアピールする狙いもあるだろう。

日本は独自の抑止力強化が必要

日本の領土である北方領土を不法に占拠しているロシアと、日本の領土である尖閣諸島に関して力による現状変更を試みている中国が軍事的連携を強化することは、日本の領土・主権を守り、安全保障を全うするうえで強く懸念される事態といえる。とりわけ日本周辺において両国軍が共同行動を増加させる傾向がみられており、2022年7月には中ロの海軍艦船が相次いで尖閣諸島の接続水域に入域するなど、日本に対する示威行動を強めつつある。日本としては中ロの軍事的連携の強化も見据えて、独自の抑止力を抜本的に強化する必要があるだろう。

また、核兵器を保有し、強大な軍事力を擁する中国とロシアは、共に軍事力の行使や軍事力による威嚇を通じた権益の拡大を図っており、その連携の強化はルールに基づいた既存の国際秩序に対する極めて重大な挑戦となっている。今後の世界は、既存秩序の打破を目指す中ロを中心とした現状変更勢力と、既存秩序の維持と強化を目指す米国やその同盟国を中心とした現状維持勢力との間で、長期にわたる角逐が展開されるものになると思われる。

日本としてはこの長期的対立において、現状維持勢力としての大きな役割を果たすべきである。そのためには、日米同盟の強化はもとより、オーストラリアやインド、韓国、台湾、シンガポール、ベトナムなど力による威圧に反対するインド太平洋地域の現状維持勢力との安全保障協力を強化しなくてはならない。さらに、NATOとの連携を一層強化することによって、既存の国際秩序の維持に向けたグローバルな協力体制の構築を図るべきであろう。

バナー写真:日本周辺でロシアの爆撃機と共同飛行した中国のH6爆撃機=2022年5月24日[防衛省統合幕僚監部提供](時事)

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