日本の家族法が “ガラパゴス化” から脱却するために

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「選択的夫婦別姓」や「共同親権」導入など、家族法(民法の中で婚姻、親子、相続などを規定する法規)の見直しを巡る論議が紛糾している。いまだに、明治時代の家父長制と性別分業に基づく「イエ制度」の影を引きずっていることが一因だ。現行民法の進化を阻む問題を再考する。

自民党議員の介入

法制審議会の家族法制部会は、離婚後も父母の双方に親権を認める「共同親権」導入を盛り込んだ中間試案を8月末にまとめる予定だった。だが、自民党の一部から、党内の議論が反映されていないと厳しく指摘する声が上がるなどで紛糾し、意見集約が大幅に遅れた。今後、パブリックコメント(意見公募)を経て、民法改正案をまとめることになるが、順調に進むかどうかは不透明だ。

「夫婦別姓」に至っては、1996年、法制審の答申に基づき、夫婦が別姓を選べる制度導入の改正案がまとまっていたにもかかわらず、導入に向けて前進するどころが、政府の対応としては後退している。

2020年12月、第5次男女共同参画基本計画策定に際し、自民党内の内閣第一部会と女性活躍推進特別委員会の合同会議で激論の末、原案にあった「選択的夫婦別氏制度」導入の検討を進めるという文言が削除された。その一方で「戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、また家族の一体感、子供への影響や最善の利益を考える視点も十分に考慮し…」という表現が加えられた。

さらに、今年3月に公表された内閣府の世論調査では、旧姓の通称使用制度に誘導するような設問の変更や新設があった。自民党の一部勢力に、法務省が忖度(そんたく)したとみられる。

例えば、現行維持、通称使用、選択的別姓(正式には「別氏」)のいずれか1つを選択する設問の直前に、父母の別姓が子どもに与える好ましくない影響を具体的に選ばせる設問が新設された。「家族の一体感が失われて子の健全な育成が阻害される」などがその選択肢だ。

選択的別姓導入に賛成の割合は、過去最多だった17年調査(42.5%)から一転して、過去最低 (28.9%)となった。

一部の保守勢力は、自分たちの主張に都合の悪い中間試案、基本計画、世論調査などに恣意(しい)的に介入する。日本の家族法、ひいては社会を“ガラパゴス化”させている大きな要因の1つである。

子どもの平等を阻む法律婚尊重

国連や欧米諸国の人権保障の水準に近づいた民法の改正例を挙げる。「嫡出でない子」(婚外子)の相続に関する規定だ。

明治民法は、「嫡出でない子」の相続分は嫡出子の半分と定めていた。1947年12月の改正時も、この規定は継続された。相続分に差をつけることによって、正当な婚姻を尊重し、奨励する主旨だった。長年、国連から「子どもの権利条約」などの人権条約に違反しているとして、改善勧告を受けてきた規定だ。

2013年9月、最高裁大法廷は、婚外子の相続分差別を法の下の平等に反するとして違憲判断を下し、こう指摘した ―「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきである」。同年12月に差別規定が削除され、ようやく相続分の平等が実現した。

しかし、「正統」を含意する「嫡出」という概念は維持され、「嫡出子」「嫡出でない子」をチェックさせる出生届の様式も変わらない。法律婚尊重の象徴であり、親の婚姻関係の有無によって子どもを区別する発想である。

日本では、婚姻と出産・子育てが連結しており、婚外子出生率は2.3%(2019年)である。他方、欧州では40%から50%、フランスでは59.7%(同年)だ。その多くは事実婚や「PACS」(登録パートナーシップ)で生まれている。「嫡出」概念は廃止され、子どもの平等が実現し、子の保護と婚姻が切り離されたからだ。離婚後の「共同親権」もその1つである。

協議離婚の当事者支援を

日本では、婚姻中は父母の「共同親権」だが、離婚すると、どちらか一方の「単独親権」となる。今では世界でもまれな制度だ。

1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」は、離婚、非婚を問わず、子は父母に対して養育を求める権利があり、父母は子どもの養育および発達について共同の責任を有すると明記している。90年代、欧米各国は同条約にのっとり、離婚後の共同親権(親責任)を原則とし、児童虐待などの場合は例外として単独親権とする法制度に転換した。韓国、中国、台湾でも共同親権を選択することができる。

単独親権の問題は、子と非親権者の関係が断絶しやすいことだ。日本では、離婚の際、母親が「全児の親権者」となる場合が圧倒的に多い。 2016年の厚労省調査では、母子家庭で、子どもと父親の面会交流が続いている世帯が29.8 %、父から養育費を継続して受給している世帯は24.3%にすぎなかった。

法には、人々の行為の規範を示す役割がある。「共同親権」を法に明記することで、別居している親と子の交流、養育費の分担などを継続する法的根拠となる。進学・進路、学校関係でのトラブル、医療行為や健康に関わることなど、わが子に関する重要な決断の機会は多い。離婚後も、父母が子の意思を尊重しながら話し合い、決めることが共通認識として社会に定着する契機にもなる。

一方で、別居・離婚に至る過程で、父母の間に相互不信や関わりを拒否する心情が生まれた場合、またDV(家庭内暴力)や児童虐待がある場合には、共同親権の実効性は失われる。親同士の対等な合意形成が大前提だ。

だからこそ、日本の離婚の約9割を占める「協議離婚」の過程で、合意形成を担保する仕組みが必要となる。例えば、「親ガイダンス」(離婚が子に与える影響やその対応の仕方など)の受講を義務付けたり、精神的に不安定な場合にはカウンセリングにつなげたりなど、当事者支援の制度を設けるべきである。

さらに、夫婦間の葛藤が顕著な場合には、家庭裁判所の調停や審判でDVや虐待のスクリーニングをし、該当する場合には単独親権として、子の安全を確保する仕組みが必須だ。社会的支援によって共同親権を定着させ、家族、親子の在り方を子ども中心に転換することが望ましい。

婚姻の自由を侵害する夫婦同姓

家族法をガラパゴス化から脱却させるマイルストーンは、「選択的夫婦別姓」と同性婚である。

婚姻は、婚姻届を自治体の戸籍事務担当者に提出し、受理されて成立する。夫婦同姓制(民法750条)なので、婚姻届に夫婦が称する姓を記載しなければ、受理されない。二人とも生来の姓を維持することを希望している場合、どちらかが自分の姓を諦めるか、婚姻を諦めるかの二者択一を迫られる。夫婦同姓制は婚姻の自由を侵害するものであり、夫婦同等の権利も保障できない。最高裁は、氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」と判示している(1988年2月16日判決)。本人の意思に反して改姓を強制することは、人格権の侵害であり、個人の尊厳に反するのだ。

日本では、夫婦の95.3%が夫の姓を称している(2020年)。夫婦同姓の実質は、男系の姓の維持、承継であり、家父長制的な意識を温存するものなのだ。

氏名の重要な役割は個人の識別特定である。マイナンバーカード、パスポート、免許証などでは「戸籍上の氏(婚姻前の氏)」として、旧姓併記が可能になった。だが、括弧(かっこ)の意味は日本人にしか伝わらず、航空券やクレジットカードなどの記載と異なるので、海外では通用しない。

通称使用を広く認める法制ができても、税や社会保険、預貯金の口座やクレジットカード、携帯電話の契約、法人登記や成年後見人の登記などでは、戸籍姓を用いる。通称使用は個人に使い分けの負担を生み、社会的にはダブルネーム管理のコストや個人の識別の誤りのリスクを増大させる。旧姓併記も通称使用も限界がある。

第5次男女共同参画基本計画策定に際して実施されたパブリックコメントでは、若い世代から次のような意見が寄せられた。

「『これが自分の名前だ』と思える名前を、『旧姓としての併記』ではなく、自分の本当の名前として名乗りたいという願いがあります」(20代女性)

「現在、実際に結婚を考えていますが、姓が変わることが受け入れられず、悩んでいます。相手側も姓を変えたくない場合、どちらかが犠牲にならなくてはいけない現行制度には問題があると思います」(20代女性)

法律で夫婦同姓を強制する国は日本のみである。夫が稼ぎ手であり家族の代表者だった時代の産物である。共に稼ぎ、一緒に子育てをするのが当たり前の社会、ジェンダー平等を目指す社会にはそぐわない。

「少数派」を法的に認める意義

1992年、WHO(世界保健機関)は、同性愛を疾病分類から削除した。札幌地裁2021年3月17日判決は、同性間の婚姻を定めていない現行民法、戸籍法は、法の下の平等に反するとして違憲判断をした。判決では、性的指向は、性別、人種などと同様、自らの意思によって選択・変更し得るものではないとし、異性愛者であっても同性愛者であっても、同等の法的利益を「享有(きょうゆう)」するとした。

世界では、2001年4月のオランダから2022年9月のキューバまで33カ国・地域で同性婚が認められている。アジアでは19年に、台湾が初めて合法化した(ウェブサイト「EMA Japan」)。本来、婚姻制度の目的は出産・保育ではなく、夫婦の共同生活の法的保護にある。同性婚を認めることは、出産や性別役割分業を強制してきた社会からの解放につながる。

夫婦別姓を希望する人も、同性婚を希望する人も、人口比で見ると少数派だ。だからこそ、日本社会の矛盾や問題点を、身をもって認識している。少数派が生きやすい社会は、多様性と寛容、包摂を肯定する、誰にとっても生きやすい社会である。家族法改正はそうした社会の在り方を目指すものでなければならない。

バナー:夫婦別姓を求めた家事審判の特別抗告審で、最高裁へ向かう申立人ら=2021年6月23日、東京都千代田区(時事)

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