北朝鮮のミサイル開発:2021年から5ヵ年計画として推進

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異常な頻度でミサイル発射を繰り返す北朝鮮。その理由と、多種多様なミサイル開発の実態を専門家が解説する。

2022年の北朝鮮の弾道ミサイルや巡航ミサイルの年間発射数は、過去最多を記録している。11月末の時点で、すでに80発以上のミサイルを発射している。北朝鮮のミサイル開発と生産体制は年々質と量を高めてきたので、これは驚くに値しない。しかも、北朝鮮では新型コロナ対策として2020年初から自ら国境を封鎖し、ほとんど貿易をしなくなったので、新型ミサイルはほぼ国内の資源と、蓄積してきた技術で開発・生産されていると考えられる。北朝鮮は鉱物資源が豊富であるので、それを最大限に利用しているのだろう。

ミサイル発射の理由と報道の有無

北朝鮮がミサイルを発射する理由は、大きく分ければ、(A)軍事演習と(B)新型ミサイルの実験がある。軍事演習は軍隊によって実施されているので、北朝鮮でも報道されることは少ない。しかし、新型ミサイルの実験は、兵器開発を担う国防科学院によって実施されているので、国防科学院の開発チームの功績を称えるために北朝鮮でも報道されることが多々ある。

反対に、北朝鮮では報道しているのに、米韓で問題にしなかったミサイル実験もある。それは、2018年11月16日に報道された「先端戦術兵器」の実験(日付不明)、19年4月17日の「新型戦術誘導兵器」の射撃実験である。2回の実験が報道された後、この「戦術誘導兵器」が5月4日に射撃訓練に使われると、韓国軍にも探知された。また北朝鮮も弾道ミサイルの姿をした「戦術誘導兵器」の写真を報道した。しかし、米韓ではこれを国連安保理制裁決議に違反する弾道ミサイル発射とは見なさなかった。米朝首脳会談を破綻させたくなかったからであろう。

22年に発射されたミサイルは大半が軍事演習と考えられる。そのために、北朝鮮の報道はそれほど多くない。発射したものが新型ミサイルであっても、軍事演習であれば報道しないこともある。しかし、10月10日の報道のように、軍事演習を過去にさかのぼって報道することもあった。(※1)今までも軍事演習を報道するのは米韓が合同軍事演習をしている時期が多く、米韓に対する抑止のための報道と考えられる。

「射程距離」と「型」、「型番」で兵器を分類

現在の北朝鮮の新型ミサイルは、すでに開発に着手されたものも含めて、2021年1月に開催された朝鮮労働党第8回党大会で策定された「国家経済発展5カ年計画」の「国防科学発展および武器体系開発5カ年計画」に基づいて開発されている。その内容は一部が明らかにされている。「1万5000キロ射程圏内を正確に打撃できる」ミサイル、「極超音速滑空ミサイル弾頭」、「水中・地上発射型の固体燃料による大陸間弾道ミサイル(ICBM)」、「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)」などである。

巡航ミサイルの開発については明確な目標が記されていない。しかも、これらは一部であって、他にもミサイル開発計画があることが実際の発射実験で分かる。ただ、北朝鮮の計画経済に兵器開発が含まれることが公表されたのは史上初めてであって、それだけ兵器開発には力を入れていることが分かる。それは、彼らが帝国主義と呼ぶ米国や韓国、日本などの西側諸国との戦争に備えるためである。

北朝鮮が22年に発射したミサイルは、弾道ミサイルと巡航ミサイルに分けられるが、多くが弾道ミサイルである。巡航ミサイルは型も型番も報道されていない。10月12日に発射実験されたものは長距離戦略巡航ミサイルとされている。巡航ミサイルは中長距離、長距離、長距離戦略というように射程距離を頭文字に付けて区別している。弾道ミサイルも、射程距離によって短距離(戦術)、中長距離、大陸間で分けられる。

射程距離の分類は、北朝鮮独自のものであって、具体的な基準は分かっていない。約20年前の北朝鮮の事典では、射程1000キロ以下を短距離、射程1000-5000キロを中距離、射程5000キロ以上を長距離、射程6400キロ以上を大陸間としていたが、この頃には中長距離という区分がなかったため、現在でもこの基準が使われているのかは分からない。

北朝鮮が開発している弾道ミサイルには、射程距離以外に型の違いがある。第8回党大会までは『火星』型と『北極星』型の2つしかなかった。『火星』型は液体燃料を使ってホットローンチで打ち上げ、型番は偶数である。『火星-8』型と『火星-10』型、『火星-12』型、『火星-14』型の発射実験が北朝鮮で報道されてきた。『北極星』型は固体燃料を使ってコールドローンチで打ち上げて、型番はSLBMが奇数であり、地上のサイロ発射型が偶数であった。『北極星-1』型と『北極星-2』型、『北極星-3』型の発射実験が北朝鮮で報道されてきた。

20年10月10日に実施された軍事パレードで『北極星-4S』型(Sはハングル)が披露されたが、SはSujung(水中)の頭文字を取ったものと考えられ、地上ではなく、水中のサイロ発射型であると想定された。ちなみにハングルのSをアルファベットのAと見間違えた論説が存在するが、北朝鮮で敵の文字であるアルファベットを兵器の型番に使うことはあり得ない。ただし、22年9月25日に西北部貯水池水中発射場から訓練で発射されたミサイルの型や型番は発表されていないが、『北極星-4S』型ではない。「水中・地上発射型の固体燃料による大陸間弾道ミサイル」は、『北極星』型または新しい型で開発されるであろうが、完成にはまだ遠いと考えられる。

『火星砲』型の開発

第8回党大会では弾道ミサイルの型に『火星砲』型が加えられた。第8回党大会で最高指導者である金正恩が『火星-15』型を『火星砲-15』型と呼んだことが確認できる限りの初出である(「火星砲」という言葉自体は以前からある)。『火星-15』型は2017年11月29日に初めて発射されたが、奇数型番であったことから従来の『火星』型とは異なることは当時から分かっていた。何よりも、発射当時に「大陸間弾道ロケット『火星-15』型兵器システムは、米国本土全域を打撃できる超大型重量級核弾頭装着が可能な大陸間弾道ロケットで、7月に試験発射した『火星-14』型より戦術技術的諸元と技術的特性がはるかに優れた兵器システム」と報道されていた。もともと新しい型の弾道ミサイルだったのである。

『火星砲』型は、『火星』型と同じく液体燃料を使ってホットローンチで打ち上げているので外観上は区別がつかないが、北朝鮮での説明では『火星』型に比べて、「戦術技術的諸元と技術的特性がはるかに優れた兵器システム」なのである。

その後、21年10月11日に開催された国防発展展覧会『自衛-2021』の映像や写真から『火星砲-11NA』型(NAはハングル)と『火星砲-17』型の存在が確認された。『火星砲-11NA』型は写真を見る限り、19年8月10日と16日に実施された「新しい兵器(システム)」の射撃実験と同一のものと考えられる。20年3月21日の「戦術誘導兵器」の示範射撃と22 年 1 月 17 日の「戦術誘導弾」検収試験も『火星砲-11NA』型と推定されており、短距離ミサイルとしてすでに実戦配備されたことが分かる。ちなみにNAは、ハングルの語順であるGA、NA、DA、RA…のNAと思われるので、意味としては「2番目」であり、『火星砲-11NA』型は『火星砲-11B』型と読み替えられる。

『火星砲-17』型は20年10月10日の軍事パレードで初めて対外的に姿を見せたが、発射実験と型・型番が公式に報道されたのは22年3月24日である。11月18日には最終発射実験を実施したので、『火星砲-17』型はこれで完成したとされる。「1万5000キロ射程圏内を正確に打撃できる」ミサイルは『火星砲』型で開発されていると考えられよう。『火星砲』型の発射台については、従来の移動式発射台だけでなく、地下サイロも計画されている。地下サイロはこれから建設されると考えられる。

2022年11月18日に実施された『火星砲-17』型の試射(発射実験)。朝鮮中央通信が11月19日に報じた。(朝鮮通信/共同通信イメージズ)
2022年11月18日に実施された『火星砲-17』型の試射(発射実験)。朝鮮中央通信が11月19日に報じた。(朝鮮通信/共同通信イメージズ)

今後も続く多様なミサイル開発

『火星』型も引き続き開発・運用されている。極超音速ミサイル『火星-8』型は2021年9月28日に発射実験され、『火星-12』型の検収射撃試験が22年1月30日に実施された。『火星-8』型から考えると「極超音速滑空ミサイル弾頭」は『火星』型に取り付けられたのではないかと考えられたが、22年1月5日と11日に発射実験された「極超音速滑空ミサイル」の型と型番は発表されなかった。そのため「極超音速滑空ミサイル弾頭」が取り付けられるのが、『火星』型とは限らない。

SLBMは21年10月19日に新型ミサイルが発射実験されて以来、報道がない。しかもその実験では型と型番は発表されなかった。ただし日米韓では、22年にも北朝鮮はSLBMを発射したと推定している。おそらく、軍事演習であるために、北朝鮮では報道していないと考えられる。

21年9月15日と22年1月14日には鉄道機動ミサイル連隊の弾道ミサイルの発射が実施されたが、これは第8回党大会では発表していない計画のものであり、しかも弾道ミサイルの型と型番は報道されなかった。

北朝鮮がこのような多様なミサイルを開発しているのは、核兵器などの大量破壊兵器の運搬手段を増やして、確実に相手を攻撃できるようにすることで抑止力を高めるためである。また抑止が破れて、戦争が勃発すれば、相手を屈服させるための手段としても核兵器は使われることもあり得る。その際に相手による迎撃を突破するためにも、運搬手段であるミサイルは多様であることが望ましい。

北朝鮮は、本格的に核兵器の使用の可能性を検討しており、少なくとも5カ年計画が終わる2025年末までに、多様なミサイルの開発を続けるだろうし、小型化・軽量化された核兵器の実験も実施するだろう。日本は、北朝鮮の多様なミサイル開発に対応できていないのが現状である。

バナー写真:2022年9月25日から10月9日までの期間に行われた朝鮮人民軍戦術核運用部隊の弾道ミサイル発射訓練。朝鮮中央通信が10日配信した。(朝鮮通信/共同通信イメージズ)

(※1) ^ 編集部注:10月10日は朝鮮労働党の創建記念日。北朝鮮メディアはこの日、同国が9月25日から10月9日に行った計7回の弾道ミサイルなどの発射は戦術核運用部隊の発射訓練だったと報じた。

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