統一地方選へ試練続く岸田首相 :求心力回復見通せず―2023年政局展望

政治・外交

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係などを世論に厳しく問われ、内閣支持率が30%前後まで低下した岸田政権。2023年の政局を展望する。

岸田文雄首相は昨年後半、わずか2カ月の間に「政治とカネ」の問題などが原因で閣僚4人の更迭に追い込まれ、防衛財源確保のため唐突に打ち出した所得税などの増税方針には自民党内から反発が噴出した。辛くも乗り切ったが、野党の攻勢に譲歩を重ねたばかりか、重要政策を巡る首相の方針に足元から公然と異論が出たことは、政権の迷走を強く印象付けた。年明けはまず1月23日召集予定の通常国会で長丁場の予算審議が行われ、4月には世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で自民党の苦戦も予想される統一地方選が待ち構える。求心力回復への道筋は見いだせておらず、首相は2023年も守りの政権運営を強いられそうだ。

広島サミットで「核なき世界」訴え

首相は今月13日に、バイデン米大統領とワシントンのホワイトハウスで会談する。昨年12月に改定した、相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」保有を明記した国家安全保障戦略など安保関連3文書の内容をバイデン氏に直接説明し、東シナ海などで軍事的活動を強める中国や、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮を念頭に、日米同盟の一層の強化を確認したい考え。首相にとっては2021年10月の就任以来初めてホワイトハウスを訪れる機会となる。5月に議長として地元の広島市で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)への協力を取り付けるため、首相は9日からG7メンバーのフランス、イタリア、英国、カナダも歴訪し、各国首脳と会談する。

通常国会の会期は6月21日までの150日間。冒頭の首相施政方針演説など政府4演説と衆参両院での各党代表質問に続き、衆院予算委員会で23年度予算案の審議が始まる。首相は予算案を3月下旬までに成立させて実績を積み、統一地方選に臨む構え。その後、広島でのG7サミットでは、ロシアのウクライナ侵攻により国際社会の分断が深刻化する中、ライフワークとする「核兵器のない世界」実現へ向けたメッセージを内外に発信する方針だ。首相には、外交を足掛かりに政権浮揚を目指す狙いもあるとみられる。

当面の政治日程

1月13日 ワシントンで日米首脳会談
1月23日 通常国会召集
3月下旬? 2023年度予算成立
4月8日 黒田東彦日銀総裁の任期満了
4月9日 統一地方選前半戦
4月23日 統一地方選後半戦(衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区補欠選挙の見通し)
5月19日 G7広島サミット(21日まで)

旧統一教会問題なお重荷

だが、思惑通りに運ぶかは不透明だ。昨年の臨時国会では、旧統一教会との関係が次々と明らかになった山際大志郎前経済再生担当相を首相はぎりぎりまで擁護しながら、10月下旬、一転して更迭に踏み切った。それから1カ月足らずの間に、死刑執行を軽視する失言をした葉梨康弘前法相、「政治とカネ」の問題を抱える寺田稔前総務相も相次ぎ辞任。12月10日に国会が閉幕し、23年度予算編成も終わると、首相は政治資金問題などが指摘された秋葉賢也前復興相も事実上、更迭した。いずれのケースも首相は更迭判断が遅れたという「後手」批判にさらされ、反発する野党が求めた本会議での閣僚交代を巡る説明に応じるなど、譲歩を重ねた。

臨時国会で成立した旧統一教会問題を受けた被害者救済新法についても、首相は国会閉幕後の記者会見で「成立に強い覚悟で臨んだ」と胸を張ったが、実際は異なる。創価学会を支持母体とする公明党への配慮もあり、もともとは通常国会に提出を先送りする方向だったが、閣僚の辞任ドミノなどで守勢に回り、早期立法を求めて共闘した立憲民主党と日本維新の会に押し切られたのが実態だ。

昨年末には薗浦健太郎前衆院議員が政治資金パーティーの収入を過少に記載していた疑惑を巡り議員辞職し、所属していた自民党も離党。東京地検特捜部は薗浦氏を政治資金規正法違反罪で略式起訴し、岸田政権にはさらなる打撃となった。通常国会が始まれば、野党側が政治とカネの問題や首相の任命責任を厳しく攻め立てるのは確実だ。防衛費増額のための増税方針や、原発の建て替え、運転期間の延長など首相が短期間で打ち出した重要政策の是非も論戦の焦点となる見通しで、首相は臨時国会と同様、防戦に追われる展開となりそうだ。

4月に実施される4年に一度の統一地方選は、旧統一教会と接点がある議員が集中する自民党に逆風となりかねない。首相は救済新法の成立によってこの問題に一区切りを付け、政権の立て直しを急ぎたい考えだが、教団票を差配していたとされる故安倍晋三元首相について、首相は自民党としての調査実施に否定的だ。同党出身の細田博之衆院議長は文書で教団との関係を認めたが、記者会見など公の場での説明はしておらず、野党から批判されている。そもそも教団との結び付きは国会議員以上に地方議員の方が深いと指摘されている。4月は衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区で補欠選挙も実施される見通しだ。自民党からは、旧統一教会問題が一連の選挙戦でクローズアップされることを懸念する声が漏れる。

首相、政策調整で矢面に

首相は就任直後に臨んだ2021年10月の衆院選に続いて昨年7月の参院選でも大勝し、長期政権も視野に足場を強化したはずだった。だが、時事通信の世論調査で7月に50%近くあった内閣支持率は、12月には29.2%にまで下落。旧統一教会問題や安倍氏の国葬に対する世論の批判、閣僚の辞任ドミノが響いたとみられ、こうした問題への対応で政権の体力は大きくそがれた。

安倍氏の突然の死去により政権の権力構造が一変したことは、首相には誤算だったに違いない。参院選までは、首相は防衛費や原発、社会保障といった国論を二分するような重要課題について判断を先送りし、政権の安定を最優先に臨んできた。保守派を代表する安倍氏は安全保障や経済財政政策で「高めの直球」を投げて首相に圧力をかけつつも、最後は落としどころを探り、自身が率いる自民党内最大勢力の安倍派を抑えてくれる実力者だった。

最大の「後ろ盾」を失ったことで、首相は重要テーマを巡る調整で自ら前面に出て仕切らざるを得なくなり、それが今日の迷走につながったとも言える。防衛財源確保のための1兆円強の増税を首相が唐突に打ち出し、安倍氏に近かった閣僚や議員から反対論が噴き出した昨年暮れの光景は、首相の党内掌握力低下を露呈し、政権運営に禍根を残した。「安倍政権の菅義偉官房長官のように、盾となって首相を守り前さばきをする『悪役』が今の首相官邸にはいない」(自民党中堅議員)。首相の意向を受けて与党と調整に当たるのは、本来は松野博一官房長官や首相側近の木原誠二官房副長官の役回りだが、党側からはこうした冷ややかな指摘が尽きない。

経済の動向も依然、政権の懸念材料だ。ウクライナ侵攻や円安を背景とした物価高、エネルギー価格の高騰は家計を直撃。政府・与党は昨年の臨時国会で、物価高対策の財源を裏付ける22年度第2次補正予算を成立させたが、内容は電気・都市ガス料金の負担軽減策など「小手先」の対症療法にとどまった。13年春から続ける異次元の金融緩和でアベノミクス路線を下支えしてきた日銀の黒田東彦総裁は、4月8日に任期満了を迎える。昨年12月20日に日銀が長期金利の許容変動幅を拡大すると、市場は事実上の利上げと受け止め、長期金利は急騰した。次期総裁は円安・物価高の要因である金融緩和策の本格修正に動くのか、それとも緩和路線を継続するのか、首相の人選を市場関係者は注視している。

サミット後は解散含み

「歴史の分岐点で先送りできない問題に正面から愚直に取り組み、答えを出すことに挑戦するのが自分の歴史的役割だ」。首相は昨年12月26日の講演でこう語り、政権運営への決意を強調した。支持率は低迷するものの、衆目の一致する「ポスト岸田」候補が自民党内に見当たらないことに加え、当面は国政選挙が予定されていないことが、首相の強気の背景にはある。領袖を失った最大勢力の安倍派が後継会長を決められず、漂流状態にあることも、首相にはデメリットばかりではないとの見方がある。岸田派は総裁派閥ながら党内第5勢力に過ぎず、首相は第2勢力の茂木派、第3勢力の麻生派をそれぞれ率いる茂木敏充幹事長、麻生太郎副総裁と引き続き連携し、失地回復を図る構えだ。

自民党内の一部で取り沙汰された年末年始の内閣改造を首相は見送ったが、広島サミットを経てなお浮揚が見通せない場合、局面打開に向けて内閣改造・党役員人事を求める声が再び高まりそうだ。自民、公明両党の連立に国民民主党を加える構想もくすぶり続けている。一方で、首相は昨年暮れ、防衛費増額のための増税実施前に衆院解散・総選挙に踏み切ると言及し、波紋を広げた。増税開始時期について、23年度税制改正大綱では「24年以降の適切な時期」と記すにとどめ、結論を先送りした。政府・与党は今年中に決める方針だが、安倍派などには異論が強く、党内対立の再燃も予想される。広島サミットが終われば、首相の自民党総裁任期満了まで残り1年余り。衆院議員の任期は25年10月までだ。首相が総裁再選を目指すのであれば、サミット後の政局は衆院解散含みで推移する可能性が大きく、判断が注目される。

バナー写真:臨時国会閉会後に記者会見する岸田文雄首相=2022年12月10日、首相官邸(時事)

自民党 岸田文雄