日米同盟の現代化:安保協力の重層化と反撃能力の確立を急げ

政治・外交

「日米関係の現代化」がキーワードとなった、ワシントンでの日米首脳会談。会談の意義と、今後の安全保障連携の課題について解説する。

岸田文雄首相は2023年初めの欧米歴訪と日米首脳会談を通じて、国際秩序の改変をもくろむ中国、ロシアの行動に対抗する岸田外交の好スタートを切った。昨年12月に「反撃能力」の保有を含む「安保3文書」の改定を閣議決定してから1カ月足らず。日米同盟の飛躍的な強化を象徴する「日米関係の現代化」(日米首脳共同声明)(※1)へとこぎ着けたのは優れた段取りの成果といえる。だが、日米が今後詰めるべき課題も多く、これに肉付けをするために、米国以外の国々との安保協力の重層化と反撃能力の早急な確保が重要なカギとなる。

4年後に迫る「中国リスク」

岸田政権が同盟強化を急ぐ最大の理由は、中国が台湾侵攻に踏み切るリスクが「2027年ごろに最も高くなる」とされ、その年まで既に5年を切っているからだ。22年10月、「中華民族の偉大な復興」を掲げて異例の3期目に入った習近平政権の任期は27年に満了し、しかも同年は中国人民解放軍の「建軍100年」にあたる。習近平氏が27年を超えてさらなる4期目入りを狙うなら、台湾統一の野望を懸けて武力侵攻に打って出るリスクは極めて高い。

昨年2月、ロシアがウクライナ侵略に着手した際、岸田首相は力による一方的な領土変更を非難するとともに、「ウクライナは明日の東アジア」と受け止め、先進国首脳会議(G7)で対ロ制裁とウクライナ支援に率先してかじを切った。岸田氏の念頭には、欧州の危機を日本の尖閣諸島や台湾に対する中国の覇権主義的行動に投影したグローバルな認識があり、約3カ月後の同5月、訪日したバイデン大統領との首脳会談で「防衛力の抜本的強化」と「防衛費の相当な増額」を約束した(※2)いきさつがある。改定された「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書を受けて、岸田政権が防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比2%へ増額するほか、反撃能力を早急に担保するために米国製巡航ミサイルの購入に動いているのも、中国リスクの対応に間に合わせるためだ。

現代化の意義

今回の首脳会談で単なる同盟の「強化」ではなく、あえて「現代化」(modernize)という表現が用いられたのには意味がある。従来の日米同盟関係では、日本が専守防衛の「盾」の役割りに徹し、敵に対する反撃・攻撃は一切が「矛」にあたる米軍に委ねられてきた。だが、日本が「反撃能力」の保有を宣言することによって、防衛活動の枠内で敵基地等に対する「矛」(攻撃能力)の役割も担うことになる。中国がすさまじい勢いで軍備を増強し、北朝鮮も核・ミサイル活動を活発化する中で、反撃・攻撃を米国だけに依存する時代ではなくなった――との認識が日米双方にあり、同盟の役割分担を現代に即した次元に引き上げるという意味で「現代化」が用いられたといえる。

限定的とはいえ、日本が反撃・攻撃能力を確保すれば、日本の安保政策の重要な転換の一つと位置付けられ、岸田首相自身が首脳会談の際にワシントンで行った講演で「吉田茂元総理による日米安保条約の締結、岸信介元総理による安保条約改定、安倍晋三元総理による平和安全法制の策定に続き、歴史上最も重要な決定の一つと確信している」(※3)と述べている通りだ。また、バイデン政権も昨年10月に公表した「国家安全保障戦略」と「国家防衛戦略」の戦略文書で同盟国の役割と貢献の拡大を重視する「統合抑止」の概念を打ち出しており、日本の安保政策の転換を心から歓迎している。

安保協力の重層化

一方、日本が5月に広島市で開くG7サミットの議長国を務めることや、国連安全保障理事会の非常任理事国(任期2年)に就任し、1月は議長国にあたっていることも、岸田外交を支える追い風になっている。岸田首相が訪米に先がけて欧州・カナダ4カ国を歴訪したのは、G7議長国の役割を最大限に活用したといってよい。

イタリアでは、日・英・イタリア3カ国による次期戦闘機共同開発計画を踏まえ、両国の関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げし、2023年前半に日伊両国の外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を開く方向で調整することになった。フランスとの間でも2プラス2を開催するほか、日仏両国が「特別なパートナー」として共同訓練などを通じて安全保障協力を強化することを申し合わせた。さらに、スナク英首相との会談では、自衛隊と英軍が共同訓練を行いやすくするための「円滑化協定」(RAA)に署名し、「準同盟国」ともいえる日英間の安保協力をさらに深めることで一致した。

とりわけ、日英関係は既に故安倍首相時代から緊密な連携を重ねてきた実績があり、21年9月には英海軍の最新鋭空母が横須賀に来航し、海上自衛隊と中国を念頭に置いた共同訓練が実施されたのは記憶に新しい。RAA協定の締結はオーストラリア(22年2月)に次いで2カ国目である。

欧州ではロシアのウクライナ侵略をきっかけに、中ロが連携して国際秩序を揺るがす行動に出る危険性に対する警戒が高まっており、アジア唯一のG7メンバー国である日本が「ウクライナは明日の東アジア」を訴える意義は大きい。中国の冒険主義的行動を抑止する上で日米同盟は中軸となるが、これに加え、欧州、カナダ、オーストラリアなどの価値を共有する「同志国」や「準同盟国」との安保協力を重層化し、連携と協調のネットワークをさらに拡大・深化させていくことが極めて重要である。

時間との競争 肉付けを急げ

岸田政権が掲げた反撃能力の確保や対GDP比2%の防衛費などは、5年前には夢想もされなかった「安保政策の大転換」といってよい。だが、現時点では何も実現されていないことも忘れてはならない。国会では防衛支出の財源をめぐる紛糾も予想され、広く国民の理解を得ることも大切だ。

中でも反撃能力の担保については、国産ミサイルでは2027年までに間に合わないために、米国製巡航ミサイルを購入することになった。だが、購入について米国のOKが得られたにしても、どこにどのように配備するのかを急いで詰める必要がある。また、抑止力を高めるには、地上発射型だけでなく、海洋発射型(潜水艦や護衛艦に搭載)、空中発射型(戦闘機などに搭載)などの多様なプラットフォーム(運用形態)が必要となる。さらに、相手国のどこをどうたたけば効果的かといった「攻撃目標の選定や設定(ターゲティング)」にあたっては米軍との統合支援も不可欠となり、自衛隊と米軍の新たな連携作業を立ち上げなければならない。

台湾有事を想定した邦人の退避や安全確保、尖閣諸島を含む離島防衛などについても、日米間、日台間の安保協議と連携を進めなければならず、中国リスクはいわば時間との競争である。これらの作業を実務レベルで円滑かつ早急に展開することが求められている。

バナー写真:ホワイトハウスでの日米首脳会談で握手する岸田文雄首相(左)とバイデン大統領=2023年1月17日(AFP=時事)

(※1) ^ 「(防衛力の抜本的強化など)日本によるこれらの取り組みはインド太平洋と国際社会全体の安全保障を強化し、21世紀に向けて日米関係を現代化するものとなる」。Joint Statement of the United States and Japan, White House, January 13, 2023.

(※2) ^ 日米首脳共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化」、2022年5月23日

(※3) ^ ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院での岸田首相講演、首相官邸HP、2023年1月13日

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