外相のG20欠席:岸田・日本外交の重大な失点

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林芳正外相がニューデリーで開かれた20カ国・地域(G20)外相会合に欠席したことは、地元インドの大きな失望を招いただけでなく、日本の国会でも与野党から判断の誤りを問う声が上がっている

岸田政権は、先進国首脳会議(G7サミット)議長国として、ロシアのウクライナ侵略を許さないため、国際世論の結集に力を注いできた。G20外相会合は「グローバル・サウス」(南半球を中心とする途上国)を説得する絶好の舞台だっただけに、自ら機を逸したことは日本外交の重大な失点と言わざるを得ない。

議長国インドが失望「信じられない」

3月1、2の両日開かれた外相会合には、米ロ中3カ国からブリンケン国務長官、ラブロフ外相、秦剛外相がそろい踏みした。中ロにインド、ブラジル、南アフリカを加えた新興5カ国(BRICS)はもちろん、G20メンバー以外のバングラデシュ、エジプトなど9カ国が議長国インドから招待されており、ざっと40カ国が参加した。ウクライナ侵略が2年目に入ったこともあって、「新興国やグロ-バル・サウスの盟主」を自任するインドの意気込みは大きく、モディ首相は討議の冒頭に「世界の分断は深いが、解決できない問題が解決可能な問題を妨げてはならない」と、協調を呼びかけた。

今年はインドがG20の議長国、日本はG7の議長国をそれぞれ務めるなど、日印両国の関係がきわめて重要な鍵を握る。そもそも安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」のきっかけとなったのも2007年8月、安倍首相(当時)がインドを訪問した際に、同国国会で行った「二つの海の交わり」という演説だ。さらに、安倍氏は米、オーストラリアにも呼びかけて、インド洋と太平洋にまたがる戦略的な対話枠組み「クアッド」(Quad)を構築し、日米豪印4カ国の首脳会議も定期開催されるようになった。

このような日印の親密な協力関係は菅、岸田政権にも受け継がれてきた。それにもかかわらず、日本の外相は初めてG20会合を欠席した。しかも議長国がインドであったことから地元メディアの衝撃は大きく、「信じられない決定」、「日印関係に影を落とすかもしれない」(※1)などの批判的な報道が相次いだ。

ウクライナ情勢に関して、岸田首相は侵略開始1年にあたる2月24日、G7首脳によるTV会議を開き、ウクライナ支援の継続と対ロシア制裁強化を確認する首脳声明を発表した。新興国や途上国への働きかけが重要であることもアピールしていた。これを受けて、インド南部ベンガルールで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議も翌25日、「ほとんどのメンバーがウクライナにおける戦争を強く非難した」「ロシアと中国を除く全てのメンバーが合意した」とする議長総括を公表している。

こうした流れの中で開かれたG20外相会合では、米欧も中ロも新興国や途上国の取り込みに全力を傾ける外交が激しく展開された。国際世論の趨勢を定める「グローバル・サウス」諸国の同調を一国でも多く取り付けるための草刈り場と化したといってもよい。そうした情勢を十分に予想できたのに、日本の外相は欠席し、議長国インドと協力して二国間、多国間の直接外交に汗を流す姿も見られなかった。そこに地元メディアの批判が向けられたのである。林外相自身が日本のメディアで「ロシアの暴挙に対処していく上で国際社会の幅広い関与と支持が不可欠。経済的発展を遂げて影響力が増している新興国・途上国との関係を強化していくことが重要だ」(※2)と語っているが、行動と言葉の乖離は否めない。

詰め甘い欠席の検証

これほど重要な会合に、なぜ外相は欠席することになったのか。政府・与党、国会を通じて、その検証はいまだに十分とはいえない。林外相の出席見送りが確定したのはG20外相会合前日の2月28日。参院予算委員会の理事懇談会で、2023年度予算案審議に首相と全閣僚の出席を求めることを決めた。参院自民党幹部は同日の会見で「首相と全閣僚出席の基本的質疑は重要度が高い」と、やむを得ない決定であるとの認識を示しており、与党自らの決定であったことが分かっている。

確かに、日本国憲法では首相や閣僚が「(国会に)出席しなければならない」(63条)と定めており、予算委員会の基本的質疑には首相と全閣僚が出席するのが慣例となっている。1999年には国会審議活性化法が成立し、副大臣などが閣僚に代わって答弁できるようになっているにもかかわらず、議場では思慮に欠けた慣例踏襲主義がいまだに幅を利かせていることがうかがえる。

ところが、実際に行われた同委員会の審議で林外相が答弁に立ったのは3月1日がわずか53秒、2日も1分54秒と2日間で計3分足らずだったため、与野党双方から「林外務大臣の無駄遣いだった」、「外務省の調整不足」といった批判が噴出した(※3)。国際情勢に鈍感な参院自民党が慣例に埋没した結果ともいえる。岸田首相も「国会日程などを総合的に勘案して決めた」(2日の参院予算委答弁)としか答えておらず、首相官邸も外務当局も事前に身をていしてでも外相のG20出席実現に努力した節は見当たらない。今回のような失態を繰り返さないために、誰も異を唱えない中で国益を損なう決定がなされていったプロセスについて、国会、政府・与党、外務当局は改めて真剣に検証し、猛省する必要がある。

「ガラパゴス」といわれないように

今回のG20外相会合では、盟友ともいえるインドの信頼を損なったばかりか、グローバル・サウスとの関係を深めて日本外交の幅を広げる機会をみすみす失った。国内事情やしゃくし定規な慣例に目を奪われて、国益に関わる問題で柔軟な対応ができない国会運営に対して「ガラパゴス」という批判(※4)もある。5月に開かれるG7広島サミットに向けて、外相だけでなく、首相自身の外交行動にも臨機応変の対応と決断が求められている。国会においても、慣例に縛られずにそうした判断を尊重し、支持する姿勢が大切だ。

バナー写真:ニューデリーで開かれたG20外相会合。スクリーンの画面はスピーチするモディ首相=2023年3月2日(AFP=時事)

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