新たな少子化対策:財源含め「包括的」で「一元的」な制度構築を

政治・外交 社会

「異次元の少子化対策」を最重要政策に掲げた岸田文雄首相。2022年の出生数が80万人を割り込む中、今どのような具体的施策が求められているのか。

少子化の進行は「静かなる有事」(2011年「安心社会実現会議報告」)である。社会保障に止まらず、市場の縮小、労働力の減少、成長の鈍化、地域の衰退とコミュニティの弱体化など、少子化による人口減少が引き起こす影響は計り知れない。

他方で、子どもを持つこと・持たないことは個人の究極の選択であり、基本的人権にも関わる極めて私的な領域の事柄である。国(政府・自治体)がすべきことは、国民の希望がかなえられる「諸条件」を整備して、国民の希望の実現を妨げている隘路(あいろ)を取り除いていくことであり、経済成長率などのように、「出生率」や「出生数」の目標を掲げて、その実現に向けて人々を促す政策を打つことではない。

今取り組むべきことは、これまで「方面戦」のようにバラバラに行われてきた対策を体系化して「包括的」で「一元的」な制度にすることと、一貫した政策を中長期にわたって実行し続けることができる安定的な財源を用意することである。

給付設計と財源構成は表裏一体

政府の有識者会議である全世代型社会保障構築会議では、安心できる全世代型社会保障の構築が必要と位置づけた上で、「未来への投資」として子育て・若者世代への支援を重視する姿勢を打ち出し、「包括的・一元的子育て支援制度」の創設を提言している。制度創設に向けての具体的ポイントは大きく二点に集約される。

一つは給付設計である。誰に対して何を給付するのか。逆に言えば「いま必要な『「子育て支援施策』」とは何か」ということだ。二つめは、財源構成である。

この2つの論点はつながっている。安定的な財源であることや調達が容易といった視点もあるだろうが、基本はやはり、給付とのつながりで説明できる財源構成でなければならない。換言すれば、何のために何をするのか、という制度政策の基本哲学をきちんと議論してから、それにふさわしい財源のあり方を考えることが必要だ。

仕事と育児の「両立支援」を

給付設計については、大事なことが二つある。一つ目は、仕事と育児の「両立支援」という視点を持つことだ。単に「子育ての経済負担を軽減する」というのではなく、広く、「家族を持つこと・こどもを産み育てること」と「働くこと・働き続けること」の両方が、本人・家族の希望に応じて同時に実現できるように現役世代を支援する、ということでなければならない。

こどもが生まれた後、「一定期間仕事を休んで子育てに専念する」「こどもを預けて休まないで仕事を続ける」、どちらでも本人・家族がそれぞれの事情に応じて柔軟に選択でき、かつどちらを選択しても不利益がない、つまりイコールフィッテイングになっている社会でないと、「家族を持ちこどもを育てること」と「働くこと=社会に貢献すること」とを同時に実現することはできない。

つまり、仕事を続ける、仕事を中断する、どちらを選択しても、こどもを産み育てることが負担にも不利益にもならないことが大事なポイントである。

そう考えれば、現在、制度も財源も別々になっている育児休業と保育サービスは、実は同じコインの表と裏の関係だということがわかる。両者を一体的な制度として再構成し、利用者のニーズに応じ切れ目なく選択・利用できる仕組みにする必要がある。

育児休業は誰でも権利として取得できないといけないし、もちろん有給でないといけないし、水準は従前所得を実質的にカバーできる水準でないといけない。保育サービスも、それを必要とする人が、必要とする時に、これも「権利」として保障されていなければならない。

働くことに中立的でない制度は税制(配偶者控除)や社会保険(第3号被保険者)にも残存している。こういったものについても抜本的な見直しが必要だ。

基本はサービス給付

二つ目は、子育て支援の施策は現物給付サービスを基本に、保育サービスや地域子育て支援拠点など、できる限り多様で柔軟なサービスとして用意することだ。

経済支援としての手当(現金給付)の意義は否定しないが、所得保障という意味では「働いて収入を得る」ことができるよう雇用を保障すること、休業中の所得保障をきちんと行うことで対応するのがまずは王道、第一義であろう。

子育て支援は、さまざまな働き方をしている人がいて、それぞれの人のニーズに合わせた給付設計が求められるわけだから、施設保育(認可保育所など)だけではなく、在宅の保育や小規模保育、一時保育などさまざまな形態の保育サービスが同じように利用できることが必要になる。さらに言えば、子育て支援が必要なのは「働くお母さん・お父さん」だけではない。育児休業中の人や専業主婦、もちろん一人親家庭にもそれぞれに支援が必要だ。

「ワンオペ育児」という言葉がある。働く母親はもちろん、専業主婦であっても1人だけで子育てを行うことはできない。「全ての家族」「全ての家庭」「全てのこども」を対象に、それぞれの状況に応じて利用できる地域子育て支援拠点や一時預かり(一時保育)などの多様なサービスが用意されていることが重要だ。

財源は社会全体が連帯して拠出

第二の論点は、財源を誰がどのように負担するかだ。ここまで説明してきた支援制度の考え方は、

  • 現在は労使の負担で設計されている育児休業給付と公費(税金)で賄われている保育・ 子育て支援サービスを一体化する
  • 多様な形態の保育サービスを現物給付で用意し、全ての子育て家庭の親たちが必要に応じて組み合あわせて利用できるように全体を一元的な制度の下に組み込む 

というものだ。こう考えると、この制度を支える財源の在り方は、おのずからその方向が見えてくる。

制度によって受益するものが負担をするということで考えると、本人・家族はもちろんであるが、企業もまた明らかにこの制度の受益者だ。労働力と人材の確保(就労の継続)が保障されるのだから。もっと大きく言えば、日本経済全体がこの制度の受益者と言っていい。

保育所があるから親は働きに出られるのであり、その配偶者(多くは男性勤労者たち)もまた子育て負担から解放されている。保育所がなかったらどうなるか考えてみるとよい。コロナ禍で保育所が長期にわたって閉園したことで労働力が確保できなくなって営業に支障をきたしたスーパーマーケットが少なからずあったではないか。

育児休業給付が労使拠出なのだから、コインの表裏の関係にある保育サービスに企業負担があってもちっともおかしくない。そして、創設される制度は全てのこども、全ての家族を対象に子育て支援給付を保障する制度、つまり次世代を支えるこどもたちの支援を社会化するのだから、社会全体で費用を負担するのは当然だろう。

そう考えれば、財源は、全ての国民が薄く広く負担することになる消費税(そもそも、今や消費税は「少子化対策を含む社会保障4経費に充当される社会保障目的税」である)を中心にするのがむしろ当然の論理的帰結になる。消費税を中心とした国・地方の公費、オール資本としての企業拠出、そして当事者である家族や将来次世代のこどもたちに支えてもらうことになる全ての現役世代の拠出が財源構成の基本になる、ということではないか。

出生率を回復させたフランス

子育て支援に必要な費用を企業や個人が共同で拠出して賄っている例は、フランスの家族政策の仕組みに見ることができる。

フランスは先進国で最も出生率の高い国の一つだが、家族政策に国内総生産(GDP)の約3%を使っている。日本でフランスと同じレベルの家族政策(日本でいう「少子化対策」)を実施するとすれば、現在の約2倍、約15兆円超になる。

この費用の約6割は「社会保障拠出金」として企業が負担している。個人は、CSG(一般社会拠出金)と言われる個人所得を課税対象とする社会保障目的税を負担する。個人の負担総額は総費用の約2割だ。そして、中央にも地方にも「家族手当金庫」という組織があり、そこから各家庭への手当やサービスをする地方自治体や保育施設などに資金が流れる仕組みだ。金庫には企業や自営業者、労働団体、家族会のそれぞれ代表者がメンバーとして参加して施策の立案や執行に関与している。

フランスの家族手当金庫

フランスの家族政策を支える財源

全国家族手当金庫の歳入
社会保障拠出金(賃金の5.4%相当を事業種が負担) 277億ユーロ(58.3%)
CSG(一般社会拠出金、個人所得に課税する7.5%の社会保障目的税。全国家族手当金庫分の税率は1.1%) 97億ユーロ(20.5%)
その他 101億ユーロ(21.2%)
歳入総計 475億ユーロ

内閣府資料をもとにnippon.com編集部作成

今こそ具体的行動を

実は1990年代、旧厚生省内で、児童家庭局を中心に、介護保険に続く「一元的な少子化対策の構築」の必要性が議論されていて、児童手当制度のスキームを拡充し、保育サービスや一時保育など子育て支援にかかる現物給付を一体的に組み込んだ、「一元的・包括的子育て支援給付制度」を構築する、という構想が議論されていた。

結局この構想は実現することなく、あれから約30年、出生率は低下し続け、2007年ついに総人口が減少に転じ、さらに15年が経過した。もはや議論の段階ではない。Just do it. 具体的行動に踏み出さないと本当に間に合わなくなる。

バナー写真:福井県児童科学館「エンゼルランドふくい」を視察する岸田文雄首相(右)。左は小倉将信こども政策担当相=2023年2月4日、福井県坂井市(時事)

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