G7サミットと日本外交のリーダーシップ:「包摂性」「多様性」強調しつつ、自由で開かれた国際秩序へ結束

政治・外交

ロシアによるウクライナ侵攻を機に、先進7カ国(G7)の枠組みが再び重要性を増している。2023年のG7議長国は日本。筆者は日本外交が「包摂性」や「多様性」を強調し、G20議長国インドと連携して自由な国際秩序維持に努力すべきだと指摘する。

今から半世紀前の1973年3月25日、オイルショックとそれに伴う経済不況に対処するため、米国、英国、フランス、西ドイツの西側主要4カ国の財相会談が開催された。その後、秋には日本を加えた「G5」となって、これが現在のG7の起源となった。75年11月、この5カ国にイタリアを加えた先進6カ国がフランスのランブイエに集まり、第1回先進国首脳会議を開催した。翌年からはカナダも加わって、米プエルトリコのサンファン第2回先進国首脳会議にはピエール・トルドー首相が参加した。ちなみに、その長男であるジャスティン・トルドーは2015年以降カナダの首相となり、今年のG7広島サミットに参加することになる。

半世紀ほどのG7の歴史の中で、日本は唯一のアジア国家として参加を続けてきた。1979年に議長国として東京でG7サミットを開催してから、現在に至るまで6回、日本での開催をホストした。最初の3回は東京、その後は沖縄、北海道、伊勢志摩で開催している。近年は警備上の理由もあり、大都市を避けて、静かで安全な環境で落ち着いた討議ができるように、風光明媚な観光地での開催が多くなっている。今年のG7広島サミットで、日本は7回目の議長国となる。

この間、世界では冷戦終結、対テロ戦争、金融危機(2008年)、新興国の台頭などを経験して、国際秩序も大きく変容した。08年にはG20サミットが始まり、G7不要論も叫ばれてきた。現在はむしろ、ロシアのウクライナ侵攻や、中国の台湾を武力で統一しようとする姿勢などからも、ロシアと中国との協力の限界が指摘されている。ロシアや中国を含めた国連安全保障理事会や、世界貿易機構(WTO)、G20などでの合意形成はよりいっそう困難となり、むしろ価値を共有するG7の価値が再確認されている。ここでは、そのような大きな歴史的な潮流の中で、日本外交がどのようにしてリーダーシップを発揮しようとしているかを見ていきたい。

G7というフォーラム

日本では一般的に「G7」という名称が用いられるときには、「G7サミット」を指す場合が多い。ただし、G7とは、今年ならば広島で5月19日と20日に開催されるG7サミットが唯一の会合の場というわけではない。日本のG7議長国は、2023年1月1日から始まり、それは年末の12月31日まで続く。その間に、例えば、4月16日から18日には長野県軽井沢でG7外相会合が開かれ、同15日、16日には札幌でG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催された。「サミット」としての首脳会談以外にも、閣僚レベルで多様な会合が日本全国で開催されている。いわば2023年は日本にとって「G7イヤー」なのである。

G7の価値が再確認されたのは、とりわけ昨年のロシアによるウクライナ侵攻以後のことである。ドイツは議長国として、22年の1年間で12回ものG7外相会合を開催した。コロナ禍の最中であったことからオンライン会合も含まれているが、それでもウクライナ支援とロシア制裁について、先進民主主義諸国間で足並みをそろえることの価値は大きい。まさに、ロシアのウクライナ侵略を転機として、民主主義諸国の協力を強化する必要が再認識され、G7サミットの価値が再発見されたのだ。

議長国としての日本のリーダーシップ

そのような議長国としてのリーダーシップは、2023年にドイツから日本へと継承された。1月23日の国会における施政方針演説で、岸田首相は次のように述べている。「力による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる地域においても許されない。広島サミットの機会に、こうした原則を擁護する、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとの強い意志を、あらためて世界に発信します」。

岸田首相はそれに先立つ1月の米国訪問で、ワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学で、次のようにも述べていた。「分断と混迷を強める国際社会の中では、我々は誰であるのかということが重要になります。G7は共通の価値観に基づいた紐帯(ちゅうたい)であり、ロシアによるウクライナ侵略に際しては、最も効果的に機能したグループでした」

岸田首相は、何度も「歴史的転換点」という言葉を用いて、G7を中心として国際社会がウクライナへの支援、そしてロシアへの制裁を強化する必要を説いている。14年のロシアによる一方的なクリミア半島併合の際には、日本政府はロシアとの良好な外交関係を維持するためにも、厳しい経済制裁に加わることはなかった。ところが今回は、対ロシア制裁をめぐる国際社会の結束を強化し、その結束を拡大するための努力をすることで、国際社会での責任を果たしているといえる。岸田首相は、14年の時には安倍晋三政権で外相だった。それゆえ、その過程について深く精通していると同時に、その時とは異なる対応の必要を感じたのかも知れない。

その上で、日本がとりわけ重視しているのが、いわゆる「グローバルサウス」との連携の強化である。1月13日のワシントンでの演説では、「グローバルサウスから背を向ければわれわれが少数派となる。政策課題の解決はおぼつかなくなる」と述べていた。実際に、林芳正外相は1月半ばに南米諸国を訪問し、さらに岸田首相は5月の連休を用いてアフリカ諸国を訪問することで、それらの地域のパートナーとの協力の強化を試みている。

2月18日には、ミュンヘン安全保障会議参加のためドイツを訪問した林外相は、議長国となって初のG7外相会合を対面で実施。「法の支配に基づく国際秩序を堅持するとのコミットメントを強調」し、さらには「ロシアによるウクライナへの全面的な侵攻後1年となる日が近づき、G7メンバーは必要となる限りのウクライナとの揺るぎない連帯を再確認した」との議長声明を発表した。

そして、ロシアによるウクライナ侵略から1年となる同24日、国連安保理閣僚級会合出席のためニューヨークに滞在中の林外相は、「その侵略は国際の平和と安定に最も重い責任を有する安保理常任理事国による国連憲章違反である」と指摘。さらに「ウクライナの主権と領土的一体性は尊重されなければならず、ロシアが侵略戦争を直ちに停止し、ウクライナから撤退すべきであること、そして、国際社会として同国を引き続き支援していくことが重要である」と述べた。

岸田首相はこの日、議長国になって初のG7首脳会合をオンラインで行い、ウクライナへの支援を強化する必要をあらためて強調。首脳声明では、「我々は、ロシアの違法で、不当で、いわれのない戦争、国連憲章の軽視、及びロシアの戦争が世界中の人々に与えている影響への無関心を非難する」と、もっとも厳しい言葉でロシアの侵略を非難している。そして、「我々は、違法な侵略を行うロシアの能力に更に対抗するために、G7及びパートナー国がこれまでに実施してきた前例のない協調された制裁及びその他の経済的措置を強化するという我々のコミットメントを再確認する」と述べて、ウクライナ支援、および対ロシア制裁を継続し、強化していく必要で合意している。

G7諸国は、この1年間、対ロシア制裁とウクライナ支援において、それを緩めることなく継続してきた。ロシアに対する経済制裁は、自国経済にも負の影響を及ぼす場合が多いために、それぞれの国内では不満もある。だが、そのような国内での多様な声に耳を傾けながらも、G7として結束して国際秩序の根幹となる規範や原則を守る姿勢は正しい。

「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の擁護へ

4月16日から3日間にわたり軽井沢で行われた対面でのG7外相会合は、メンバーが前年に12回もの会合を重ねていることもあり、親密で打ち解けた雰囲気で意見交換が行われた。G7外相は、東京から軽井沢までは、北陸新幹線のグランクラスという豪華な客席を利用して、リラックスした環境で7人いっしょに鉄道で移動した。初日の夕食には林外相のアイデアで、ビートルズのジョン・レノンが軽井沢を訪問した際に気に入っていたというアップル・パイを用意し、ブリンケン米国務長官、そしてフランスのコロナ外相の誕生日のお祝いとしてプレゼントしている。ハーバード大学大学院ケネディ・スクールを卒業した林外相は、日本の政治家として例外的に英語が流暢(りゅうちょう)で、社交的でもあり、異なる思惑を持つG7諸国の多様な立場を束ねる上では最良の外相といえる。

18日に発表されたG7外相コミュニケでは、「国連憲章を尊重しつつ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、強化するために共に行動をとることに対する我々のコミットメントを再確認する」と記されている。さらに「我々は、人権、正義及び尊厳を擁護し、最も脆弱(ぜいじゃく)な人々のニーズに対処する、開かれ、透明性のある、強靱で、持続可能な社会を促進するために、我々のパートナーと共に引き続き取り組む」としている。これは、それまで「グローバルサウス」と呼び、連携を強化していた諸国との関係を強めていく姿勢を示している。G7が国際社会でマイノリティとならないためには、「パートナー」との協力が不可欠であって、そのためにはこれからも引き続き多様な枠組みが活用されるであろう。

G7議長国として迎えた2023年の日本外交は、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を擁護し、強化することを重要なスローガンとして掲げている。従来、安倍晋三政権と菅義偉政権の下では、「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific)」という外交ドクトリンが提唱されて、インド太平洋地域における地域秩序形成への日本のリーダーシップが示されていた。岸田政権においては、そのような取り組みを、インド太平洋地域を越えたグローバルなレベルで実践する強い決意を示している。5月のG7広島サミットは、まさにそのような日本外交のリーダーシップを示す最良の機会となるであろう。

国際社会で分断が進行し、侵略によって憎悪が増幅する状況の中で、日本が「包摂性」や「多様性」を強調した独自の外交的ドクトリンを提唱する価値は大きい。G7の成功は、G7広島サミットでのそのような日本の努力、さらには今年のG20議長国となっているインドとの提携の強化によって、規定されるであろう。

バナー写真:先進7カ国(G7)外相会合に臨む(中央奥から反時計回りに)林芳正外相、ブリンケン米国務長官、ベーアボック独外相、クレバリー英外相、モラ欧州対外活動庁事務次長、タヤーニ伊外相、コロナ仏外相、ジョリー加外相=2023年4月18日、長野県軽井沢町(時事)

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