米国の対中対話仕切り直しは不発:バイデン流「競争管理」に限界か?

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米国が「最大の戦略的競争相手」と位置付ける中国との対話外交が壁に直面している。背景にあるのは、対決を極力回避し、対話によるソフトな競争を志向するバイデン政権の対中政策だ。米国は6月下旬~7月、ブリンケン国務長官を含む閣僚・高官3人を北京に送り込んだものの、中国側にいいようにあしらわれた感が強く、「競争管理」の限界を指摘する声も上がっている。

台湾海峡の波高く

米中間の軍事的緊張は1年前の昨年8月、ペロシ米下院議長(当時)が台湾訪問を強行したことで一気に高まった。訪問に強く反発した中国は、台湾周辺でかつてない大規模演習を展開し、中台間で「暗黙の休戦ライン」とされていた台湾海峡の中間線を越えた海空域への侵入を常態化させるようになった。軍事的威圧のエスカレートは今もなお続いている。

欧州のウクライナに加えて台湾海峡の緊張を抱え込んだバイデン大統領は昨年11月、インドネシアのバリ島で行われた習近平・中国国家主席との首脳会談で、ブリンケン国務長官を年明けにも訪中させて「米中対話を仕切り直す」という合意にこぎ着けた。誤解や偶発による軍事衝突を何よりも恐れたバイデン政権の側から、高官対話による意思疎通を切望した形だった。ところが、今年2月に予定されたブリンケン長官の北京訪問は、直前に中国の軍事偵察用気球の米領空侵入・撃墜事件が起きたために、いったん中止されてしまった。

上座と下座――まるで王朝外交

長官の訪問がようやく実現したのは、その4カ月後の6月18日だ。しかし、中国側は米国の足元を見るような対応に終始したと言ってよい。その典型が翌19日に行われた習近平主席とブリンケン長官の会談だった。

北京の人民大会堂で行われた長官一行との会談で、習氏はテーブルの中央に陣取り、長官を下座にあたる右手の離れた席に座らせた。その上で「国と国との交流は常に相互尊重と誠意に基づかなければならない」と訓戒を垂れるなど、いかにも上下の格の差を際立たせるような映像が公開された。

会談は明らかにブリンケン長官を格下に扱った「意図的な演出」と疑われ、米メディアでは「驚くべき外交儀礼の無視」、「従属者を謁見するような王朝外交」との声が上がった(※1)。過去に習近平氏が国務長官を迎えた会談では、2015年のケリー長官、2018年のポンペオ長官ともに同じソファーに隣り合って座り、上下の隔たりをみせなかった。また、ブリンケン長官の3日前に行われたマイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏との会談でも、同じソファーで歓談しており、ブリンケン氏に対しては冷遇が際立つ演出だった。

じらし戦術したたかに

ブリンケン長官は会談後の記者会見で、この件には触れずに「高官級の継続的な意思疎通こそが競争が衝突に至るのを防ぐ最善の方法だ」と訴えた(※2)。にもかかわらず最大の問題は、偶発的衝突を避けるためにバイデン政権が最も強く求める国防当局間の対話再開に中国が応じなかったことだろう。

経済の失速傾向が強まっている中国にとっても、対話を通じた経済交流の再開を喉から手が出るほど欲しいはずで、台湾をめぐる軍事衝突が好ましくないことは論を待たない。だが、米側が前のめりに対話再開を求める限り、これをじらし続けたり、つれなく扱ったりすることで駆け引きの先手を取り、外交カードに使うことができる。中でも、国防当局間の対話再開は中国にとって絶好のカードである。台湾への威圧を高めれば高めるほど、米国は対話を懇請してくるという図式だ。

米識者の中には、ブリンケン長官の訪中を「前のめりに過ぎた」と受け止め、バイデン政権が「くみしやすい相手」と侮られていると批判する意見も少なくない(※3)。バイデン大統領はブリンケン長官以降も、イエレン財務長官(7月7日)、ケリー気候変動問題担当大統領特使(同17日)を相次いで北京に派遣し、米中間の意思疎通の拡大を図っているが、肝心の「軍事衝突リスク」の回避につながる決定打は得られていないのが現状だ。

「対決なき競争」の行方

バイデン大統領は11月に米国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で習近平氏と本格的な首脳会談を設定し、「トップ交渉」で対話外交の壁を打破することを画策しているという。これに対し、したたかな中国は「対話」の代償を高めるために、ぎりぎりまで米国を揺さぶる戦術を展開する可能性が高い。

そもそもバイデン政権は、発足当初から中国との戦略的競争について「新冷戦は求めない。対話を通じて『対決なき競争』を進める」と訴え、新たな「競争管理」政策を掲げてきた。

トランプ前政権は、いわゆる「新冷戦」も辞さず、関税・貿易戦争も含めて「対決を辞さずに競争する」との強硬な対決路線を掲げ、中国に対して常に先手を取ってきた。同盟諸国との協力を無視したり、「自国第一主義」にこだわって国際協調を損ねたりする欠陥も多かったが、少なくとも中国に侮られることはほとんどなかった。

これに比べて、「圧力よりも対話」に頼るバイデン流「競争管理」は、ともするとオバマ政権時代に破綻が明らかとなった融和的な「関与政策」への逆もどりの道を歩む危険性も指摘されている。対話を求めるだけで緊張の緩和が得られるという保証はなく、中国をさらなる大胆な行動へ導く恐れもある。対決を回避すること自体は重要だが、その手段・方法は対話だけとは限らない。同盟・パートナー諸国と共に抑止と備えを強化・充実し、時には相手を突き放してみせる強い姿勢を示すことも必要だ。

バナー写真:ASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議の機会に組まれた個別会談で、中国外交トップの王毅共産党政治局員(左)を促すしぐさを見せるブリンケン米国務長官=2023年7月13日、ジャカルタ(AFP=時事)

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