日米韓が「インド太平洋シフト」へ:3カ国協調で対中抑止

政治・外交

日米韓3カ国による協調の対象地域が従来の北朝鮮から広くインド太平洋へシフトした。画期的なシフトの焦点が台湾を巡る対中抑止にあるのは明白で、中国の対応が注目されている。

安保協力「新たな高み」へ

「インド太平洋シフト」を明確にしたのは、バイデン米大統領が8月18日にワシントン近郊の大統領山荘「キャンプデービッド」に岸田文雄首相と韓国の尹錫悦大統領を招いて行った日米韓首脳会談でのことだった。

同山荘は、第二次大戦終結時や中東和平協議の際にも用いられた由緒ある場所で、バイデン氏が同山荘に外国首脳を招いたのは就任以来初めてだ。また、3カ国の通算13回目にあたる首脳会談が国際会議などの機会を利用せずに単独で設営されたのも初めてだった。米側がいかに会談を重視し、周到に準備を重ねてきたかをうかがわせる舞台づくりといえる。

会談は昼食を交えて約2時間に及んだが、「大統領は政権初日からインド太平洋地域を重視してきた。今回はその集大成だ」と米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が説明したように、その成果も目覚ましいものが並んだ。

3首脳はまず、日米韓の中長期的な協力指針として「キャンプデービッド原則」(Camp David Principles)(※1)を発表し、続いてその具体的な協力内容を示した首脳共同声明「キャンプデービッドの精神」(The Spirit of Camp David)(※2)を採択した。

二つの文書の最大の特色は、「日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへ引き上げる」とし、その焦点を「インド太平洋の平和と安全」に拡充したことである。従来の3カ国協調が対北朝鮮にほぼ特化していたのに対し、最優先はインド太平洋地域であり、「共通の価値や法の支配に基づいて、自由で開かれたインド太平洋を達成することを(3カ国の)集団的な目標とする」と明記した。

狙いは中国の抑止

さらに、南シナ海での「中国による危険かつ攻撃的な行動」を列挙した上で、「インド太平洋のいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」(共同声明)と言明し、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を再確認した。

会談後の首脳共同質疑で、バイデン氏は「中国について語ることは会談の目的ではなかった」(※3)と語り、中国を狙い撃ちする意図を否定したものの、「当然ながら、話題にはなった」と認めている。これは中国自身の不当な行動が日米韓の戦略的連携の強化を招く結果になったことをアピールしたと言ってよい。実際、日米韓は昨年11月の首脳会談(プノンペン)でも「台湾海峡の平和と安定の重要性」に触れており、今回は「台湾問題の平和的解決を促す」という表現で、改めて武力侵攻にくぎを刺している。

中国の冒険的行動を抑止していくために、軍事・安全保障分野では、▽日本の自衛隊と米韓両軍による3カ国の共同訓練・演習を拡充し、毎年定期的に実施する▽首脳レベルを含む迅速な協議と情報共有を約束する▽いずれかの国に脅威が生じた際、対応を調整するためのホットラインを設ける――などが決まった。

また、日米韓の新たな戦略的連携を深めるために、▽首脳会談に加えて、外務、防衛閣僚、国家安全保障(NSC)局長級の協議を「少なくとも毎年1回」開く▽商務、産業閣僚級の会合を年次開催する――と定め、3カ国の協力体制を「制度化」することになった。これは、とりわけ韓国で政権交代のたびに外交政策がぶれる例が多いことから、閣僚・高官級を含む定期協議を絶やさない狙いがあるという。

経済安全保障の分野でも、▽半導体などのサプライチェーン(供給網)の安定と混乱回避のための「早期警戒システム」を構築する▽技術の窃取・流出を防ぐための協議を発足させる――ことになった。

成否の鍵は尹政権に

首脳会談では対北朝鮮、ロシアについても、核・ミサイル開発、偽情報、サイバー攻撃を含む対応がきめ細かく話し合われ、岸田首相は会談後、「日米韓パートナーシップの新時代を開く歴史的機会」(共同記者会見)と高く評価した。バイデン氏がオバマ政権の副大統領時代から日米韓の連携強化を「ライフワーク」として尽力してきたことも見逃せないが、今回の「インド太平洋シフト」の実現をもたらした最大の要因が尹錫悦政権の誕生にあったことは言うまでもない。

日米韓首脳会談は29年前の1994年に初めて開かれたものの、歴史問題などが足かせとなって、その後の日韓関係は激しく揺れ動いてきた。とくに対中・対北傾斜が著しく、反日色も濃厚だった文在寅前政権下の2017年以降は3カ国の首脳会談自体が途絶えた時期もあった。

しかし、昨年5月に就任した尹大統領は「普遍的な国際規範を支え、グローバルな指導国家(Global Pivotal State)として、より大きな役割を果たさなければならない」と国民に訴えた。同年12月には「自由、平和、繁栄のインド太平洋戦略」(※4)を発表し、日本の「自由で開かれたインド・太平洋構想」(FOIP)や米欧と足並みをそろえ、中国・ロシアとの競争に挑む姿勢を明らかにした。尹氏の思い切った外交シフトが日本との政治的信頼やキャンプデービッド会談に結びついたといってよい。

それでも、こうした尹氏の外交・安保路線に対する韓国世論の支持は盤石とは言い難い。中国は「日米韓は米国主導で排他的グループを形成し、アジア太平洋の平和と安定、繁栄を脅かしている」(新華社論評)と、激しく反発している。中でも中国を最大の貿易相手国とする韓国は、これまでの歴史をみても中国による経済・政治的威圧に対する抵抗力が日本よりも弱いとみられがちだ。

一方、中ロとの地政学的競争に一国だけの力では対抗しにくくなった米国は、「統合抑止戦略」の名の下で同盟・パートナー諸国による応分の負担を何よりも必要としている。日韓協力のいずれも欠くことができず、内輪もめしている余裕などないのが実情だ。日米韓の3者関係の中で日米、韓米は同盟関係にあるが、日韓は同盟関係にないこともあって、中国側から「最も弱いリンク」とみられている。歴史問題などをあおって日韓を離反させたり、韓国を揺さぶって中国側に引き付けようと画策したりする可能性があり、3カ国の戦略的連携が危機にさらされるリスクはゼロではない。「インド太平洋シフト」を成功させていくには、3カ国それぞれの側で細心の注意と工夫が必要だ。

バナー写真:米ワシントン近郊のキャンプデービッド山荘での共同記者会見を終え、握手するバイデン米大統領(中央)、岸田文雄首相(右)と尹錫悦・韓国大統領=2023年8月18日(AFP=時事)

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