ロシアと北朝鮮が軍事急接近: 問われる中国の対応

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北朝鮮の金正恩総書記が、9月13日にロシア極東部にある最先端の宇宙基地を訪ねてプーチン大統領と首脳会談を行い、軍事協力の強化で合意した。両国の軍事面での急接近は、中国を巻き込んで日米韓3カ国に対抗する狙いがうかがわれ、北東アジアにおける「新冷戦」の構図を鮮明にしつつある。

互いの孤立と苦境を反映

両氏が対面で会談するのは2019年4月以来だ。前回は米朝間の焦点となっていた「非核化プロセス」やロ朝の経済協力について話し合っただけで、会談自体も素っ気なかったとされている。これに比べ、今回は世界の中でそれぞれに孤立を深める両氏が、互いを必要とする窮状を色濃くうかがわせた。

プーチン氏は外国首脳に会う際、わざと遅刻して相手を待たせる「常習犯」とされているが、今回は宇宙基地前で金正恩氏の乗ったリムジンを自ら事前に待ち受けて出迎えるなど、前回には見られなかった異例の厚遇ぶりをアピールした。

背景には、ウクライナ侵略を巡る西側の制裁に加えて、今年3月には国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で逮捕状を発付され、孤立が一層深まった事情がある。何よりも、今夏から本格化したウクライナ軍の大規模反転攻勢に対抗する上でロシア軍は大量の武器や砲弾・弾薬の不足にさいなまれており、北朝鮮が保有する弾薬・砲弾の提供に強い関心があるとみられていた。

また金正恩氏も、核・ミサイル開発を巡って17年までに計11本の国連安保理制裁決議を科されている上に、今年5月と8月に「軍事偵察衛星打ち上げ」と銘打った大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に相次いで失敗を重ねた。その模様は広く世界に報道され、自らのメンツと体制の威信を失いかねない状況に陥っている。

核心は軍事協力に 

プーチン氏が鳴り物入りで設定した会談場所はロシア極東地域最大の先端宇宙開発基地であり、金正恩氏の随行者に多くの軍高官や衛星開発組織のトップが含まれていたことにも、両氏の狙いが明白に表れていた。一方は安保理決議で禁じられた核・ミサイル開発に血道をあげ、他方は戦犯容疑で国際逮捕状が出ている「ならずもの同士」だが、とりわけプーチン氏は自軍を守るための砲弾や武器弾薬が喉から手が出る程に欲しいところだ。

会談で互いを「同志」と呼び合った両氏は軍事協力の強化で一致し、金正恩氏はウクライナ侵略に関するプーチン氏の「全ての決定を支持する」と強調した(※1)。これに対し、プーチン氏も「北朝鮮の人工衛星計画を支援する」と応じたという(※2)

ただし、合意の具体的内容や今後の行動は一切明らかにされていない。第一に、これまでの国連安保理決議では北朝鮮製のあらゆる武器輸入が禁じられ、ロシアもこれらの決議に賛成票を投じてきた。北朝鮮から砲弾や弾薬の提供を受ければ、安保理常任理事国が自ら禁制を破ることになり、国際社会の非難を一身に浴びることになるからだ。ロシア国内や占領地域の人手不足に対応するために、北朝鮮の労働者や技術者を受け入れる可能性も指摘されているが、これも同様に安保理決議違反となる。

第二に、ロシアの衛星・ミサイル技術をどこまで北朝鮮に提供するかについても、疑問が残る。北朝鮮はロシアや中国から入手した兵器・技術に手を加え、外貨稼ぎのために中東などの第三国に輸出してきた過去がある。そうした行動を厳格に管理できないままに先端技術を与えてしまうと、危険な大量破壊関連技術を世界に拡散させる恐れがあり、プーチン氏もとりわけ慎重にならざるを得ないはずだ。

問われる中国の対応

日米韓は8月、米国でキャンプデービッド首脳会談を開き、3カ国の戦略的協調をインド太平洋地域に拡充することで合意した。ロシアと北朝鮮の軍事協力はこれに対抗する動きと言える。北朝鮮が自らの後ろ盾と頼むのは中国とロシアだが、北朝鮮は常とう手段として時に両国をてんびんにかけるような外交を仕掛けて、有利な結果を引き出そうとしてきた。

そこで改めて問われるのは中国の対応だ。ロシアは中国と毎年行う海上演習に北朝鮮を招待し、初の中ロ朝3カ国による合同演習を提案しているという。それが実現すれば、「日米韓vs中ロ朝」という新冷戦の構図が一層鮮明となるだろう。

だが、ロシアと北朝鮮の軍事急接近によって北東アジアの緊張が高まることを「中国は望んでいない」とする専門家は少なくない(※3)。「責任ある大国」をめざす習近平政権にとって、新冷戦の構図が深まれば、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」にも悪影響が及びかねない。「対決なき競争」を呼びかける米国との関係を巡っても、台湾問題に加えて新たな対立を呼び込むことになるからだ。

「制裁破り」につながるようなロ朝の軍事協力に同調することが国際社会からどう評価されるかを考えれば、決して得策とは言えないだろう。そもそもウクライナ侵略に関しても、北朝鮮の核・ミサイル開発に対しても、中国は一定の距離を保ってきた。ロ朝首脳会談の前日、中国外務省報道官は「朝ロ間で調整したものだ」(9月12日)と述べただけで、一切の論評を避けた。米国はロ朝急接近の今後を警戒すると同時に、中国がどう対応するか注視している。日韓も習近平政権の対応について、厳しく目を光らせる必要がある。

バナー写真:ロシア極東ボストーチヌイ宇宙基地で、説明に耳を傾けるプーチン大統領(中央左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記(同右)=2023年9月13日(AFP=時事)

(※1) ^ 9月14日付読売新聞朝刊「露朝首脳 軍事協力合意か 正恩氏ウクライナ侵略支持

(※2) ^ 9月15日ロイター電「ロ朝首脳会談、孤立国の結束で米主導の国際秩序に挑戦

(※3) ^A Wary China Eyes Ties With Russia, North Korea,” By Christy Lee, VOA, September 14, 2023.

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