国民が支持する「女性天皇」の皇位継承論議を棚上げにする国会:議員に多い「ぼんやり」保守とリベラル

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天皇家の長女、愛子さまを想定した「女性天皇」は、世論調査で8割の支持を集めており、「男系男子」論が主流の国会との差異が著しい。国民の多くは男系男子に限る皇位継承を定めた皇室典範の改正論議を望んでいるが、国会では論議の棚上げが1年半以上続く。「永田町」の実態を、国会で皇室問題に10年取り組んだ菅野志桜里・前衆院議員に聞いた。

菅野 志桜里 KANNO Shiori

弁護士、人権団体「国際人道プラットフォーム」代表理事。東京大学法学部卒。検察官を経て、2009年の衆院選で初当選(議員時代は山尾志桜里)、3期10年務める。民進党政調会長。20年に立憲民主党を離党し国民民主党に。党憲法調査会長。皇室、憲法問題などに取り組み、16年の予算委員会質問で「保育園落ちた、日本死ね」の匿名ブログを取り上げ、待機児童問題を再燃させた。21年の衆院選に立候補せず政界引退。旧統一教会をめぐる、消費者庁の「霊感商法対策検討会」委員。

永田町だけ男系派が増えている

「世間は女性・女系天皇(母方に天皇の血筋を持つ天皇)を支持しているのに、永田町だけは男系派が増えている」

菅野さんは今年7月に都内で開かれた公論イベント「愛子さまを皇太子に」(主宰者・漫画家の小林よしのり氏)にゲストとして登壇し、国民と永田町(国会や首相官邸)に大きなギャップがあることを指摘した。その背景をこう説明する。

公論イベント「愛子さまを皇太子に」で持論を展開する菅野志桜里さん=2023年7月、都内(主催者提供)
公論イベント「愛子さまを皇太子に」で持論を展開する菅野志桜里さん=2023年7月、都内(主催者提供)

「皇室問題に詳しくない、また関心の高くない『ぼんやり保守、ぼんやりリベラル』の国会議員が多い。『ぼんやり保守』は、自分は保守だから『男系男子』を死守すると思いながらも、ロジックが緻密でないタイプ。野党に多い『ぼんやりリベラル』は、皇室に対する自分の立ち位置がはっきりせず、大勢に流されるタイプ」

「皇室は国の根本の問題だが、それに関する各党の会合や勉強会に参加する議員は与野党とも多くないので、国会で論陣を張れる議員は限られる。特にリベラルの参加は保守より少ないから、男系男子を錦の御旗とする保守の一部の陣営が国会の皇室議論の中心になっている。ぼんやり派は保守もリベラルさえも、自分の知らない皇室のテーマになるとなんとなく保守の香りに吸い寄せられて、国会に男系派が多くなってしまう傾向にある」

国民に閉ざされた議論

皇室問題の論議を始めるに際し、政府や自民党の政権側は「静謐(せいひつ)な環境で議論を深める必要がある」と言う。

この点について菅野さんは、「静謐な議論と、国民に閉ざされた議論とは違う。政権側は参加者を絞り、国民に開かれた議論をしようという意図が感じられない。むしろ、自分たちの思う姿に皇室を無理やり持っていこうとしているのでは、と懸念している。それが如実に現れたのが、政府の有識者会議が21年にまとめた報告書でした」と語る。

同報告書には秋篠宮家の長男、悠仁さままでの流れを前提にした現行の男系男子継承の維持が記された。戦後に皇籍を離れた「旧宮家」系の男系男子の皇籍取得案も初めて示された。「愛子天皇」の可能性は否定されたのである。

同じ自民党政権下でも2005年の小泉純一郎内閣の有識者会議報告は、正反対の内容だった。「男系継承を安定的に維持することは極めて困難で、女性・女系天皇への道を開くことは不可欠」、皇位継承順位は「天皇の直系子孫を優先し、男女を区別せず、年齢順の長子優先」とあった。「愛子皇太子」が実現すると思われたが、間もなく悠仁さまが誕生し、皇室典範改正案の国会提出は見送られた。

「小泉内閣の有識者会議には、皇室関係の著書も多い園部逸夫・元最高裁判事や緒方貞子さん(日本人初の国連難民高等弁務官)らが有識者のメンバーになり、17回の会議を重ねて結論を出した。それから15年以上が経ち、皇族はさらに減り、次世代の皇位継承資格者は悠仁さま一人という切迫した状況の中で、(今回の)有識者会議はどうしてあのような結論となったのか」

「『悠仁さま以降の皇位継承については、将来、悠仁さまの年齢や結婚などを巡る状況を踏まえた上で議論を深めていくべき』と報告書は述べているが、皇室で一番大事な天皇に将来どなたがなられるのか、この問題を棚上げしたまま、他の結論を出すのは本末転倒。旧宮家案の男系派をなだめるための報告書だと思えた」(菅野さん)

「秋篠宮家に弓を引くな」とタブー視の動きも

前述の公論イベント「愛子さまを皇太子に」では、別の登壇者からこんな趣旨の発言があった。

「秋篠宮さまの立皇嗣(りっこうし)の礼が20年に行われ、翌年に有識者会議報告書が出たことで、次の天皇は秋篠宮さまに確定と思い込んだ人が少なくない。女性・女系天皇を言い出して、秋篠宮家に弓を引くようなことは慎むべき、と皇位継承問題をタブー視させようとする動きも感じられる」

「こうした雰囲気の中で、永田町の政治家はこの問題に手を付けるのはまずいと考えるようになり、それに男系派が乗じた」

公論イベント「愛子さまを皇太子に」で議論をかわす登壇者たち(主催者提供)
公論イベント「愛子さまを皇太子に」で議論をかわす登壇者たち(主催者提供)

こうした動きが「言論の府」国会で皇室典範改正論議をせき止める要因にもなっている。菅野さんは、「政治家のぼんやりとした皇室への尊敬が、逆手に取られているからだ。国会で論議を行うことは当然のことで、政治家に皇位継承問題の関心と正確な知識をもっと持ってもらう必要がある」と話す。

「皇室問題は選挙の論点にはなっていない。だが、男系維持派だと言えば保守のコア層の支持をつなぎとめることができるが、女系天皇を認めると言っても票的には得るものがない。この状況をどう早く変えていくかも課題」

「女性はいいけど、女系はね」

男系派の一部から、愛子さまが女性天皇になることを容認する声が聞かれるようになった。愛子さまは天皇陛下のお子さま、つまり「男系の女子」で、歴史上8人10代の女性天皇も存在したからだ。しかし、愛子さまのお子さまは「女系」となるから女系天皇は認めないという。

この影響で、永田町では「女性はいいけど、女系はね」と言う議員が与野党から出てきた。女性天皇までは認めるけれど、女系天皇は支持しないという意味だ。

各党の皇位継承に関する主張は、党内でまとまっているわけではない。自民党でも21年の総裁選での記者会見で、女系天皇について4候補のうち岸田首相と高市早苗氏の2人が反対、野田聖子氏は「選択肢に含まれる」と容認、河野太郎氏は言及を避けた。野党でも立憲民主党などに女系天皇に反対する議員はいる。この傾向について、菅野さんはこう語る。

「リベラルな議員にも『日本の伝統を考えると女系天皇は行き過ぎで、女性天皇はバランスが取れて落としどころ』と言う人は少なくない。しかし、女性天皇と女系天皇は一本の糸でつながっており、切り離せない。女性天皇を認め、もし天皇になる愛子さまにお子さまができたとして、天皇直系のお子さまが次の天皇になれないというのは、おかしくありませんか。男系に固執して国民になじみのない旧宮家系の男系男子が皇位を継承する案より、天皇のお子さまの女性・女系天皇の方が国民の支持と理解を得られると信じます」

さらに菅野さんは、「もっと女性議員は女性皇族に寄り添って」と呼びかける。「皇太子妃には男子を生まなければというプレッシャーがあり、他の女性皇族も皇室典範改正の行方が決まらないから、結婚後も皇室に残るのか人生の選択肢を自分で決められない状況が続いている。女性皇族が苦しんでおられる現実を理解して、女性議員は『改正論議を急ごう』と声を上げるべきです」

皇室問題を議論する場を作らせない

岸田首相(自民党総裁)は今年2月の党大会で、「安定的な皇位継承策は先送りできない課題で、国会での検討を進めていく」と述べた。しかし、具体的な動きはなかった。

最後に菅野さんはこう語る。

「国会には皇室問題を議論する場がほとんどない。少なくともこの件については、議論を始めると説得力のある方が勝つ。それを永田町は承知しているから、天皇論議の場を作らせないようにしているのではないか。時間稼ぎをして、愛子さまが人生の次のステップに進むのを待っているのではないかとさえ思ってしまう」

「皇室の方々は国民の気持ちに沿った生き方を覚悟されているのもしれないが、国民の気持ちからかけ離れた永田町の論理に人生が左右されるのでは余りに申し訳ない。このまま制度論が放置された結果として、愛子さまが一般国民と結婚され皇籍を離れてしまうことがあれば残念です。議論の行方を心配しています」

バナー写真:御用邸敷地内を散策される天皇、皇后両陛下と愛子さま=2023年8月21日、栃木県那須町(代表撮影・時事)

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