中国の不動産バブル崩壊:習政権の号令が引き金、巨額の不良債権化―情報統制で抑え込みも

経済・ビジネス 国際・海外 政治・外交 仕事・労働

中国の大手不動産デベロッパーの相次ぐ債務不履行(デフォルト)に加え、恒大集団の破産申請を受けて、「中国経済の日本化」が指摘されている。すなわち日本のバブル経済の崩壊とその後の「失われた30年」と同じように、中国は日本の轍を踏むのではないかと言われている。

中国のバブルは「政府の失敗」

世の中に崩壊しないバブルは存在しない。ただし、今の中国が直面している難局は、1990年代初めのバブル崩壊後の日本の状況と似ている部分もあるが、大きく異なる点の方が多い。つまり、日本のバブル経済の原因は「市場の失敗」によるところが大きいのに対して、中国の不動産バブルは「政府の失敗」によるものである。

これまでの20年間、中国政府は不動産投資を経済成長のエンジンとして位置づけていた。特に胡錦涛政権(2003~12年)下で、温家宝首相(当時)は地方政府が払い下げする土地使用権(定期借地権)の売り上げを地方政府の財源に充てると決定。これを受けて、各地方政府は土地使用権の販売価格を釣り上げ、不動産デベロッパーはそれに迎合して、両者は事実上の地上げに走った。デベロッパーは地方政府の要求に応じなければ、落札が難しくなる。これこそが不動産市場のバブル化のきっかけとなった。

40年前、すなわち「改革・開放」初期、中国都市部住民の1人当たり居住面積は約3平方メートルだった。当時、中国都市部の標準家庭は3、4人だったため、一家族の平均居住面積は10平方メートル前後だった。長い間、中国人は広い家に住むことを熱望してきた。

中国の土地制度は公有制であるため、土地の売買が制度的に禁止されており、都市再開発ができなかった。1990年代半ば、日本の定期借地権制度を見習って、中国政府は土地の所有権と使用権を分離して、使用権を売買できるようにした。この改革によって、都市再開発が始動し、個人向けのマンション建設が活況を呈した。

ただし、マイホームを手に入れようとする個人の需要はあるが、それを買う経済力がない人が多かった。長い間、中国社会では、マイホームは高根の花。特に、若者の間でマイホームを持つことは結婚の前提条件にされている。この根強い実需こそ不動産デベロッパーの大胆な開発計画を助長したのである。

習政権が不動産投資を問題視

ところが、習近平政権は「家は住むためのものであり、投機対象ではない」として、不動産投資を問題視し始めた。習政権のこの号令によって、中国の不動産需要は下火になって、不動産市場は下り坂をたどるようになった。

中国の不動産デベロッパーは楽観的な景気見通しに基づいて、国有銀行からの借り入れや社債発行によって、実力以上の債務を抱えている。不動産市況が下り坂をたどっているのに加え、マンションなどの住宅の売れ行きも滞るようになったため、債務返済ができなくなったデベロッパーが続出。業界最大手の碧桂園や恒大集団でさえ、デフォルトを起こしたが、これは氷山の一角である。今後、大規模デベロッパーの倒産が続出するのではと懸念されている。

中国での債務不履行の連鎖反応は、バブル崩壊後の日本以上に広範囲に及ぶ。デベロッパーの経営難は地方政府に飛び火し、地方政府は土地使用権の払い下げの財源が手に入らなくなり、地方政府が管轄する年金などの社会保障ファンドも財源が枯渇する恐れがある。

巨額の不良債権

恒大集団はニューヨークの裁判所に破産申請をした。延命を図ろうとする措置だが、実質的に債務超過に陥っているとみられる同社は、経営再建がほとんど不可能とみられている。さる9月28日、同社は創業者で最高経営責任者(CEO)の許家印が警察に拘束されていることを認めた。

先に述べたように、そもそも不動産バブルの原因は政府の失敗によるところが大きい。しかし、政府は、経営に失敗した個別企業を救済することができない。ただ、このまま放置すると、債権者と不動産購入者は財産の保全ができず、大規模な抗議活動に発展する恐れがある。

もう一つの懸念は、恒大集団に融資した国有銀行が巨額の不良債権を抱えることである。日本でバブル経済が崩壊したあと、金融機関にも飛び火して、日本長期信用銀行や日本債券信用銀行など大手金融機関は相次いで破綻してしまった。今回、中国の国有銀行も似たようなリスクにさらされている。

日本では、当時、銀行を救済するために、預金保険機構が活用された。それに対して、中国の預金保険制度が導入されたのは2015年5月であり、保証能力は不十分である。結局、中国政府は財政資金を投入せざるを得なくなる。

強力な情報統制で「飛び火」は回避

では、中国で不動産バブルが崩壊して、金融システム危機を引き起こす可能性はあるのだろうか。答えは地方レベルの金融危機は避けられないが、全国的なシステム危機の可能性は低いということである。なぜならば、金融危機が起きるメカニズムは危機に関する情報の伝達だからである。民主主義国家では、金融機関の経営状況に関する情報はリアルタイムで伝わるため、システム危機に発展しやすい。

これに対して、中国政府は情報を統制することができるため、ある地方の国有銀行の支店が預金の引き出しに応じられなくなった場合、そうした情報は地元で共有されることはあっても、全国的には広がりにくい。国営メディアは報道しないし、インターネット上のSNSに書き込まれても、すぐさま削除される。

各地で点在する地方の金融危機は全国的に広がりにくいとしても、問題は解決されないままとなる。政府が積極的に改革し問題を解決しようとしなければ、将来的に「点」が「面」となって、いずれ全国的なシステム危機に発展してしまう。それは単なる金融危機だけではなくて、「革命」を意味するものとなる。

中国進出企業の流出も

最後に今回、中国の不動産バブル崩壊による世界経済への影響について触れておこう。もともとコロナ禍が終わり、中国経済は力強いV字型回復をするとみられていた。しかし、実際は、中国経済はL字型成長になっている。

不動産バブルが崩壊し、景気が一段と減速すれば、底割れに陥る可能性すらある。残りの第4四半期において李強首相は大胆な景気対策の策定を命じていると言われているが、効果はあまり期待できない。なぜならば、中国経済のファンダメンタルズは弱くなったからである。

こうしたなかで、中国の不動産バブルの崩壊による世界経済への影響が懸念されている。中国の不動産デベロッパーに投資している外国の機関投資家は損失を被る恐れがあるが、その影響は限定的とみられている。

それよりも、不動産バブルが崩壊して、中国の景気が一段と落ち込むようなことになれば、中国に進出している多国籍企業は工場の海外移転を急ぐことになる。これこそバイデン大統領が指摘している「デリスキング」である。チャイナリスクを管理して、その影響を低減させることが重要である。

バナー写真:建設中の中国恒大集団の建物=中国・広西チワン族自治区南寧市(時事)

中国 習近平 金融危機 中国共産党 バブル崩壊 不動産不況