ジャニーズ性加害問題:「沈黙」「忖度」のテレビは変われるか

社会 文化

英BBCが今年3月に報道したのを機に、国内でも社会問題化したジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長(2019年死去)による未成年者らへの性加害。1999年に「週刊文春」が報じたジャニー氏の加害を裁判所が真実と認定した後も、多くの日本メディアはこの問題に沈黙し、ほとんど報道してこなかった。長く無視し続けてきたメディア、とりわけ同事務所との関係の深いテレビ局の姿勢が問われている。

ジャニーズ事務所は解体へ

約100人の男性タレントを擁する日本最大級の芸能事務所「ジャニーズ事務所」が、解体に向かう。創業社長のジャニー喜多川氏によるタレントの卵である「ジャニーズJr.(ジュニア)」など少年たちへの性加害問題が理由である。

事務所はジャニー氏の名前を冠した社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更。10月2日現在で325人から補償の求めがあった性虐待被害者の精神的ケアや金銭補償に専念する。一方でエージェント業務を行う新会社が設立され、希望するタレントたちはここに移籍する。

ジャニーズ事務所はマネジメント業務を担う会社で、タレントの仕事の決定やスケジュール管理、マネージャーなどのスタッフの確保、スキャンダル対応まで行っていたが、エージェント新会社がやるのは仕事の獲得ぐらい。他の業務はタレント本人が責任を負う。

2つの会社の社長を務める、元「少年隊」メンバーの東山紀之氏は10月2日の記者会見で、エージェント新会社におけるタレントの姿について、こう説明した。

「タレントが会社に委ねたり縛られたりすることなく、自らがその活動の方向性に応じて、活躍の場を求めていく」

事務所の力が強大化し、性虐待被害者の声が世に出にくくなってしまったり、テレビ界などメディアに対して高圧的だったりしたという批判もあっての組織改革である。

ジャニーズ事務所の東山紀之社長(右から2人目)、井ノ原快彦副社長(右から3人目)らは、社名変更と補償完了後の廃業、所属タレントや社員の移籍先となるエージェント新会社設立を発表した=10月2日(写真:Kazuki Oishi/Sipa USA via Reuters)
ジャニーズ事務所の東山紀之社長(右から2人目)、井ノ原快彦副社長(右から3人目)らは、社名変更と補償完了後の廃業、所属タレントや社員の移籍先となるエージェント新会社設立を発表した=10月2日(写真:Kazuki Oishi/Sipa USA via Reuters)

CMスポンサー企業は懐疑的、テレビ局は様子見

事務所の前社長でジャニー氏のめいである藤島ジュリー景子氏は、SMILE-UP.への社名変更後も取締役にとどまり、被害者の救済・補償に当たる。エージェント新会社に藤島氏は関与せず、元「V6」メンバーの井ノ原快彦氏が副社長になるなど、経営陣の顔ぶれは大きく変わるとされている。

もっとも、事務所の体質が一新されるかというと、不透明。SMILE-UP.の株式はジュリー氏が100%持つし、新会社は出資者も方向性もまだ分からない上、その従業員の大半は事務所からの移籍者になるからだ。

9月の1回目の記者会見で事務所が名称を変えなかったことなどを受けて所属タレントとのCM契約をストップした企業は、10月2日の会見後も事務所の体質一新には懐疑的。経済同友会代表幹事でサントリーホールディングス社長の新浪剛史氏は翌3日の記者会見で、「(CM起用を)すぐに再開するモードにはなっていない」と語った。他社にもCM再契約の動きはない。

企業が慎重なのは無理もない。もしも補償などで大きなトラブルが起き、世論が反発したら、SMILE-UP.も新会社も崩壊しかねないのだから。

一方、民放は1回目の会見直後にはタレント自身に問題があるわけではないとして番組への起用を継続する方針を示す局がほとんどだったが、CM枠を企業などに売ることで経営が成り立っているため、事務所との向き合い方はスポンサー企業に準ずるしかない。組織改革が発表されようが、揃って様子見の構えだ。

9月下旬に事務所に対し名称変更や、補償とタレントマネジメントの組織分離を要請したことを明らかにしていたフジテレビは、10月2日に「まだ詳細が不明な部分もあり、引き続き事務所の対応を注視していく」とコメント。他局も同様である。

NHKは9月27日に補償や再発防止の取り組みが十分と判断されるまで、所属タレントの新規の起用を見合わせると発表していたが、受信料に支えられているだけに慎重。「取り組みが着実に実施されているか確認していく」として、視聴者の理解が得られないうちは注意深くならざるを得ない。

ジャニーズ事務所強大化のきっかけ

そもそもジャニーズ事務所はどうして強大化したのか。手を貸したのはテレビ局だという声が多い。その通りに違いない。

ジャニーズ事務所は1962年に創業された。当時の最大手芸能事務所「渡辺プロダクション」の系列となって、同年に結成されたアイドルグループ「ジャニーズ」が多くのテレビ番組に出演するようになった。しかし、「ジャニーズ」が67年に解散し、さらに同年に生まれた「フォーリーブス」が78年に解散すると、人気のあるタレントが1人もいなくなってしまった。

だが、テレビ局の力でよみがえる。79年に始まった中学校を舞台とする連続ドラマ『3年B組金八先生』に生徒役で出演した所属タレントの近藤真彦と田原俊彦が女子中高生たちに大人気を博す。

タレントの発掘と育成を担当していたのはジャニー氏だが、テレビ局との折衝を担当していたのはメリー喜多川氏。ジャニー氏の姉で事務所の副社長や会長を歴任した。

もっとも、近藤と田原の『3年B組金八先生』への出演を決めたのはメリー氏ではない。メリー氏はこのドラマのプロデューサー・柳井満氏(2016年死去)につてがなかった。このため、2人の出演はオーディションで決まった。まだ同社は芸能事務所として力不足だったのである。

近藤と田原が人気者になると、メリー氏は新人タレントを抱き合わせで売り込み始める。2人を番組に出したいテレビ局に対し、後輩の「少年隊」や「シブがき隊」らの出演を条件とした。事務所は以後、この手法を駆使し、「光GENJI」「SMAP」「TOKIO」「Kinki Kids」「V6」「嵐」など、数珠つなぎのように売れっ子をつくり出す。メリー氏はテレビ界での人脈も広げていった。

テレビ局トップと親密な関係築いたメリー氏

やがてメリー氏のテレビ局への要求はエスカレートしていく。事務所が望むキャスティングや番組内容を求め始めた。例えば同社のタレントと競合する男性アイドルとの共演を拒んだ。同社の退所者の番組出演にも難色を示す。

「要求の受け入れを渋ると、ジャニーズ事務所のタレントを引き揚げると言い始める」(元民放幹部)

日本を代表する脚本家である倉本聰氏も同社からの横やりを経験した1人。ある女優をドラマに起用しようと考えたところ、「女優がジャニーズのタレントと一寸トラブッたことがあったらしく」、事務所がテレビ局に対し、「その女優を使うなら今後おたくの局から全ジャニーズ関連のタレントを引き揚げる」と通告したという(9月24日「財界オンライン」掲載の倉本氏コラム)。

メリー氏はテレビ局の番組制作現場には高圧的だった。一方で社長ら経営陣には慎ましやかで、親密な間柄になることに成功する。1992年から2011年まで日本テレビの社長や会長を務め、同局の中興の祖である氏家斉一郎氏(2011年死去)との関係もそうだった。

元日本テレビ幹部によると、読売新聞常務から同局に転じた氏家氏は硬派記者の意識が強く、芸能界関係者と付き会うことを好まなかった。だが、メリー氏だけは別。氏家氏はメリー氏と何度か会ううち、「彼女は大したもんだな」と評価するようになり、ほぼ定期的に会うようになる。

メリー氏の夫は評論家の藤島泰輔氏(1997年死去)。自民党公認で参議院選挙に出馬したこともある保守派の論客だった。メリー氏は藤島氏並みの知識量と情報量を誇ったとされるので、氏家氏がほれ込んでも不思議ではなかった。

2人が会談を重ねた場所は東京・六本木の高層マンション内にあるメリー氏の自宅。そこで食事をするのだが、メリー氏が手料理を振る舞ったわけではない。メリー氏が一流レストランのシェフを招き、高級料理を出された。

同局の看板番組『24時間テレビ 愛は地球を救う』に1990年代後半からジャニーズ事務所のタレントが大挙出演するようになったが、背景には氏家氏とメリー氏の親密な関係があった。

2006年から嵐の桜井翔が同局の報道番組『news zero』のキャスター陣に加わった。これも氏家氏とメリー氏による会談で決まった。桜井の父・俊氏が、当時はテレビ局の監督官庁である総務省の幹部(後に事務次官に就任)で、氏家氏と親交があったことも影響した。

「氏家氏は桜井(翔)氏のキャスター就任について、メリー氏に『アイドルはいつまでも続けられないだろう』と助言した」(元日本テレビ幹部)

他の民放のトップたちも次々とメリー氏宅に招かれ、氏家氏とほぼ同様の関係が築き上げられた。

トップを通じた圧力から「忖度」へ

1999年にジャニー氏の性加害を報じた「週刊文春」の発行元である文芸春秋に対し、ジャニーズ事務所が起こした名誉棄損の損害賠償請求裁判では、2003年の東京高裁判決で性加害が真実と認定された。04年に最高裁は事務所側の上告を棄却し、判決が確定した。

この裁判の中で、02年の東京地裁判決は性加害を認めなかったものの、週刊文春が報じた次の記述には真実性、または真実と信じる相当な理由があったと判断した(この点は高裁判決で維持され、最高裁で確定)。

「メリー氏はドラマの共演者が気に入らないと、その放送局の社長に直接電話をかけ、外すよう要求することもあったという」(「週刊文春」1999年11月18日号)

元民放幹部も「これは事実」と証言する。

「メリー氏から電話が来たら、社長も無視できないので、内容を制作現場に伝える。すると制作現場は聞き入れるしかない。やがて制作現場は社長から電話が来るのを嫌がるようになり、あらかじめジャニーズ事務所の機嫌を損ねない番組づくりをするようになった。いわゆる忖度(そんたく)です。ジャニーズから『タレントを引き揚げる』と言われることも恐れた」

テレビ界は昔も今も視聴率第一主義。ジャニーズ事務所は視聴率が取れる人気タレントを数多く抱えるようになった上、メリー氏による独特の人間コントロール術もあり、テレビ界を完全に抑えつけた。報道機関でもあるはずのテレビ局は、ニュースを含め番組の制作において、ジャニー氏の性加害が視界に入らなくなった。

第三者による事務所とテレビ局の関係検証を求める声も

テレビ局の目がやっと覚め始めたのは、3月に英BBCが性加害を報じてから。ジャニーズ事務所が加害を事実と認めた9月以降、ようやく一部の局が事務所と自分たちの関係を検証する番組を放送し始めた。

NHKが同月11日の報道番組『クローズアップ現代』内、日本テレビが10月4日の『news every.』内、TBSは同月7日の『報道特集』内で、それぞれ放送した。

このうち日本テレビは報道番組のキャスターに桜井翔らジャニーズ事務所のタレントを起用してきたため、「(同社に関する)報道が必要以上に慎重になったケースがあった」と明かした。

一方、NHKは10月9日の『ニュース7』でジャニー氏の性加害行為が同局内でも行われていたと報じた。2002年秋、ジャニーズJr.が出演する同局BSプレミアムの番組『ザ少年倶楽部』への出演を希望していた高校生に対し、ジャニー氏が声を掛け、男性用トイレに連れて行き、個室内で性加害に及んだという。

検証番組すら未放送の局があるが、文化人の中には「NHKと主な民放局は、外部の第三者委員会を設置して自己検証すべき」(朝日新聞9月29日付朝刊、ジャーナリスト・津田大介氏)という声もある。

その通りだろう。筆者は30年以上のテレビ界取材の中で2つのやらせ番組を告発したが、相手の局は事実の隠ぺいに躍起になった。自ら全ての暗部を明かすとは考えにくい。テレビ局も今のままでは、性加害問題は終わらない。

【ジャニー喜多川氏の性加害をめぐる主な動き】

1962年 ジャニー喜多川氏が芸能学校「新芸能学院」内にジャニーズ事務所を創業
1963年 新芸能学院の男子生徒がジャニー氏からわいせつ行為を受けたと訴えたのをきっかけに、ジャニー氏とメリー喜多川氏がジャニーズのメンバーとともに学院を去る
1964年 新芸能学院側がジャニー氏に対し、授業料などの損害賠償請求訴訟を起こす。裁判の証人尋問では性加害も取り上げられたが、事実と認定されず。67年までの間に、「週刊サンケイ」「女性自身」が裁判やわいせつ疑惑の記事を掲載
1981年 「週刊現代」がジャニー氏の性加害疑惑に触れる記事を掲載
1988年 元フォーリーブスの北公次氏がジャニー氏の性加害を告発する本を発表
1999年10月 「週刊文春」がジャニー氏の性加害などを報じる記事連載を始める
1999年11月 事務所側が文春側に名誉棄損の損害賠償を求めて東京地裁に提訴
2000年1月 米ニューヨーク・タイムズが、文春記事を受けてジャニー氏の性加害を報道
2002年3月 東京地裁が文春側に880万円の支払いを命じる。性加害は真実と認定せず。マスメディアが事務所を恐れ、追従しているとする文春記事の記述は、真実性または真実相当性があると判断
2003年7月 東京高裁が控訴審判決で性加害は真実と認定。賠償額は120万円に変更。主要紙は一部が判決内容を小さく報道するのみで、テレビは報じず
2004年2月 最高裁が事務所側の上告を棄却。東京高裁判決が確定
2019年7月 ジャニー氏が87歳で死去
2021年8月 メリー氏が93歳で死去
2023年
3月7日 英BBCがジャニー氏の性加害をドキュメンタリー番組で報道
4月12日 元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会で会見し、ジャニー氏の性加害を証言
5月14日 藤島ジュリー景子社長(当時)が動画と文書で被害者らに謝罪する一方、性加害の事実認定は避ける
8月4日 国連人権理事会の専門家が政府に被害者救済を要請
8月29日 事務所が設置した再発防止特別チームが、ジャニー氏による1950年代からの性加害を事実と認定。事務所に被害者救済措置と、藤島社長辞任を含む「解体的出直し」を求める。「マスメディアの沈黙」が被害拡大の一因と指摘
9月7日 事務所が記者会見で性加害を事実と認め謝罪し、被害者への「法を超えた」補償を行うと表明。東山紀之氏が社長に就任したものの、藤島氏は代表取締役にとどまる。大手企業に所属タレントの広告起用を打ち切る動きが広がる
9月12日 経済同友会の新浪剛史代表幹事(サントリーホールディングス社長)が、事務所の対応を「真摯(しんし)に反省しているか、大変疑わしい」と批判し、所属タレントの起用は「子供への虐待を認めることで、国際的な非難の的になる」と発言
9月27日 NHKが所属タレントへの新たな出演依頼を当面行わない方針を表明
10月2日 東山社長らが記者会見し、事務所の社名変更と補償終了後の廃業、所属タレントの移籍先となるエージェント新会社の設立を発表

※ジャニーズ事務所の再発防止特別チーム報告書、裁判資料、メディア報道などを基に作成

バナー写真:(左上部分)9月7日に行われた記者会見に出席したジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子前社長(右)、東山紀之社長(中央)、ジャニーズアイランドの井ノ原快彦社長(左)、(右下部分)会見を取材するテレビ局などの報道陣(Kazuki Oishi/Sipa USA via Reuters)

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