米中が核協議:鍵握る透明性と信頼醸成

政治・外交

核軍備管理に関する米中両政府の高官級協議がワシントンで開かれた。米国は「中国が2030年代に1000発超の核弾頭を保有する」と推測し、急ピッチの核戦力増強を強く懸念している。核を巡って両国が協議したのはオバマ政権以来初めてだが、相互不信の根も深い。米国は第一歩として透明性の向上と信頼醸成を中国に求めている。

急速な核増殖

核増強の勢いはすさまじい。米国防総省は昨年11月、定例の「中国の軍事・安全保障に関する議会報告」(通称・中国軍事力)2022年版(※1)で「現行ペースで進めば、中国の運用可能な核弾頭数は2030年代に1000発を超え、35年には1500発に達する」との予測を明らかにした。

さらに今年10月の同報告(23年版)(※2)では「今年5月現在、中国の核弾頭は500発以上」と、予想を上回る実態を指摘した。中国が核弾頭用の高純度プルトニウム産出炉の増設や多様な新型ミサイルの開発を加速させている状況に警鐘を鳴らしている。中でも米国が頭を悩ませているのは、30年代には米国、ロシア、中国の核弾頭数がそれぞれ1500発前後で横並びとなる「三者拮抗」の時代が想定されていることだ。

三者拮抗の時代に何が起こるのか。バイデン政権は昨年10月、核戦略指針「核態勢の見直し」(Nuclear Posture Review:NPR)(※3)の中で、中国の核増強によって「米国は2030年代までに歴史上初めて二つの主要な核保有国(ロシアと中国)を同時に抑止しなければならなくなる」との分析を明らかにしている。

最悪のシナリオは

この場合、米国にとって最悪のシナリオは、中ロが結託して核の脅しをかけてくることだ。中ロの核弾頭約3000発に対し、米国が「2対1」の劣勢に立たされるのは言うまでもない。欧州では英仏が保有する核があるものの、とりわけインド太平洋では米国が不利となりかねない。グローバルな戦略的安定が揺らぐ恐れに加えて、日韓などの同盟国を守るために提供している「核の傘」(拡大抑止力)にほころびが生じる心配がある。

このような事態を防ぐには、米国がアジアを中心にレーガン政権時代のような大幅な核増強に踏み切るか、米ロに中国を加えた三者で新たな核軍備管理協議の枠組みを講じる以外に選択はない。11月6日、ワシントンで行われた米中高官協議には、そうした米側の期待が込められていたといってよい。

協議には米国のスチュワート国務次官補(軍備管理・検証・順守担当)、中国外務省の孫暁波軍縮局長が出席し、「責任を持って米中関係を管理し、競争が衝突に発展しないようにするための対話」(米国務省)を行ったという。

交錯する思惑

だが、新たな三者協議への道は遠く、険しい。米国とロシアは2011年の「新戦略兵器削減条約」(新START)を通じて戦略核弾頭数の削減を進めてきたが、プーチン政権はウクライナ侵略をきっかけに今年2月、「新STARTの履行停止」を宣言した。米ロの険悪な関係がこのまま続けば、条約は2026年(現在の有効期限)になれば「延長されずに失効する」という悲観的な見通しもある。

これまでも米国は中国を加えて新STARTを練り直し、3カ国の新たな核削減の枠組み創設を提案してきた。これに対し、中国は「米ロの削減が先決」と主張して拒んできた。さらに、中国は「核兵器を先に使用しない」とする独自の「核先制不使用」ドクトリンを掲げており、米国に対しても「先制不使用の大前提に応じなければ、核協議はできない」と、話し合いを突っぱねてきたという(※4)

だが、中国が「先制不使用」にこだわる裏には、「米国と同盟諸国を分断させる狙いがある」との見方も少なくない。米国が「先に核を使わない」と約束してしまったら、日本や韓国に対する「核の傘」の効力が失われ、通常戦力による中国の威嚇に対抗できなくなってしまうからだ。オバマ、バイデン両政権には核兵器への依存を減らしたい性向があり、先制不使用の考え方に傾斜しがちと指摘されてきた。この点を巡って日韓は強い懸念を表明し、韓国が米国との間で「核協議グループ(NCG)」を設立(4月の米韓首脳会談)したのも、米国の「核の傘」を再確認し、強化するためだった。

まずは透明性を

米紙ニューヨーク・タイムズは社説で「中国の急速な核軍拡は、米ロにも際限のない核増強を誘発する危険をはらんでいることだ」と述べ、「もっと早く話し合うべきだった」(※5)と指摘した。今回の協議で、米国は三者協議の創設といった最終目的には踏み込まず、中国に「核大国の責務」として自国の核戦力に関する透明性を高めるよう求めたという。中国は核・通常戦力を含む自国の戦力データの詳細を公表しておらず、「最も透明度の低い大国」と国際社会から批判されている。

一方で、台湾海峡や南シナ海の緊張が続いており、今回は「誤解や誤算による衝突リスクを避ける」ことに焦点を絞った話し合いとなった模様だ。透明性の向上を呼び掛けつつ、相互の信頼醸成に結び付けていく手法は、かつて冷戦時代に米国とソ連が核軍縮・軍備管理交渉を進める際に用いられた。米ロの間にはそうした共有体験があるものの、米中にはそれがない。回り道のようだが、グローバルな戦略的安定を維持していくには必要なプロセスといえる。サンフランシスコで11月15日行われた米中首脳会談でも核問題を巡る進展は得られなかった。同盟国日本も、日中首脳会談などを通じて大いに側面支援に努めるべきだろう。

バナー写真:軍事パレードで中国・北京の天安門広場を進む大陸間弾道ミサイル=2019年10月(ロイター=共同)

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