福島処理水:「私は当事者そのもの」―海洋放出の安全性、必要性を訴えてきた細野豪志・元環境相に聞く

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東京電力福島第一原発事故の対応に首相補佐官、担当閣僚として当初から関わり、近年は処理水の海洋放出に向け「安全性、必要性」を強く訴えてきた細野豪志・衆院議員。細谷雄一nippon.com編集企画委員(慶應義塾大学法学部教授)がインタビューし、これまでの経緯や自身の思い、主張などを聞いた。

細野 豪志 HOSONO Gōshi

衆院議員(自民党、静岡5区)。1971年京都府生まれ。京都大学法学部卒業。2000年に民主党から衆院選に立候補し、初当選。2011年3月の東日本大震災発生時は菅直人首相の首相補佐官。4月から同ポストで「原発事故対応及び広報担当」となり、その後原子力防災担当相、原子力行政担当相、環境相などを歴任した。民進党、希望の党を経て2021年に自民党に入党した。

当事者として、冷却水処理の決着を

細谷雄一 細野さんは民主党政権時代、環境相、内閣府特命担当相、そして首相補佐官として2011年東日本大震災とそれに伴う福島原発事故の対応をされてきた。処理水放出という今回の政府決定に深くかかわり、その安全性を熱心に説明している。ご自身のブログで、海洋放出についてマンガで発信されてもいる。継続的に関与されてきた動機はどのようなところにあるのか。

細野豪志 原発事故対応の、政治側の責任者でしたから。当時は(原子炉を)冷却するため、とにかく水をかけるしかなかった。処理水の海洋放出はその決着をつけることなので、私は当事者そのものという立場にある。ただ、海洋放出の必要性を外向きに発信し始めたのは2020年ごろからだ。それまでは政府がなかなか決断できない状況の中で、原子力規制庁やエネ庁、福島の方々と水面下でやり取りを重ねていた。

細谷 事故発生直後から対応にあたった政府の当事者、また閣僚として、この問題を当時どのように感じ、また考えていたのか。

細野 当初はどのように水を確保し、原子炉を冷却するかに集中していた。正直言ってその水が最終的にどうなるのか、その関心を寄せる余裕すらなかった。3月の終わりごろ、高濃度の汚染水が海に流れ出て、止めることができなかった時期があった。最後は液体ガラスで止めたのだが、かなり国際的に批判を受けた。あの時のトラウマが私の中にはある。当時は(事故対応で国際世論が)「日本頑張れ」という雰囲気だったが、それが変わる可能性が出てきた。

そこで5号機、6号機の地下のピットを空にして、そこにやや問題のある汚染水を入れるという方策をとることにした。しかし、そのためにもともと5号機、6号機の地下にあった水を海に流したことが批判されてしまった。この2つのケースを通じ、汚染水の問題は極めて深刻だと当時認識していた。

その後4月、5月の段階で少し冷却がうまくいき出して、水の問題に取り組もうということになった。米国、フランスに協力を依頼し、さまざまな機器を導入した。しかし、なかなかうまくいかず、東芝に強く促してできたのが「ALPS(多核種除去設備)」だ。やはり、日本のメーカーはこの問題に強い当事者意識があった。ALPSは改良を重ね、2013年、14年ごろにはトリチウム以外は取り除ける状況になった。

私はそのプロセスを克明に知っているので、それ以降は一日も早く海洋放出をした方がいいと思っていた。しかし、政府もなかなか決めきれず、菅政権が決断するまで非常に長い月日を要した(※1)

放出に向け重要なのは「安全性、透明性」

細谷 ALPSについては、現在は中国以外のほぼ全ての国が処理水の安全性を支持し、日本の立場を理解してくれている。ただ、ここにたどり着くまで、汚染水の排出に対する国際社会からの批判には、かなり懸念されていたのではないか。

細野 もちろん懸念はあった。だから、やるときは「海洋に流せる」安全な処理水にしなければならないし、徹底的な透明性の確保が重要だと考えていた。これをこの数年間、日本はしっかりやり切っている。それでもまだ批判はある。それらは科学的なものでなく、政治的なものだと感じる。なので、その批判にはしっかり反論すべきだと考えている。もはやこの局面では、「丁寧な説明」は効果が低い。反論しないと風評の拡散も止めることができない。

細野豪志衆院議員
細野豪志衆院議員

海洋排出を決断したのは菅総理で、私はその真ん中にいたわけではない。だた、菅総理は官房長官時代から、汚染水の問題の一番の当事者は私だとして、短時間だが何度も直接話をする機会をいただいた。ここに至るまでに、エネ庁の担当者が3人、4人と志半ばで任を離れた。政治的なリスクを取っての(菅首相の)判断には敬意を表したい。

処理水をめぐっては「現状、タンクで保管できているのだから、それでいいのでは」という主張もある。しかし、それは違う。タンクは恒久的な設備ではないので、台風や津波、竜巻被害などのリスクはある。また、これ以上タンクが増え、双葉町側にまで建設されるとなると廃炉作業にも影響してくる。このタイミングで決断するしかなかったと考える。

反論しないと「国際世論にも拡散」

細谷 一部のメディアが、処理水問題について科学的根拠がなく、危険を誇張するような報道を続けてきたことについて、「政府は毅然と反論すべきだ」(日経新聞、2021年5月1日)と指摘されている。この問題におけるメディアの責任をどのように考えているか。

インタビューに応じる細野豪志衆院議員(右)
インタビューに応じる細野豪志衆院議員(右)

細野 私がメディアに対して積極的に反論し始めたことには、あるきっかけがあった。世界のメディアがどう報じているかを調べると、韓国のメディアが一時期、日本の報道を非常に多く引用していた。また日本の有識者と称する人を多く登場させていた。その結果「日本でもこういう報道がある以上は危険なのだ」という伝え方になる。つまり、日本のこのような報道を放置した結果、海外でもそのような報道が主流になってしまう。反論しないと世界に拡散してしまうと考えた。

海洋放出が「科学的に危険だ」とする報道と、「科学的に安全だが、風評が心配だ」とする見方がある。前者については政府の検証結果を示して明らかに間違いであると反論する。傍証としては、世界中でトリチウムを出してきたし、日本でも六カ所で2006年にトリチウムを放出していることを示して反論する。最近出てきているのは後者のような報道だ。風評が心配なのであれば、科学的には安全だという事実をまず伝えてもらいたい。科学的な事実を伝えずに「風評が心配だ」とだけ報道するならば、これは風評の拡散そのものになってしまう。そこもきちっと反論すべきだと思うようになった。

風評を心配している人が福島にいるのは事実だし、これまでの経緯を考えればそれは自然なことだと思う。だが事実というのは、ある事象の中で全体像をある程度伝えないと事実にはならないのではないか。全体の事実の中で「風評を心配している人がいる」ということだけをクローズアップするのは、フェアな報道ではないと思っている。そこに焦点を当てて反論するということもこれまでやってきた。

新たな検証の必要なし

細谷 今回の海洋放出に当たっては、日本はかなりの程度、国際機関や主要国の理解を得た。思った以上に、日本の立場を支持してくれたのではないか。一方で、中国との間では引き続き難しい関係、大きな摩擦がある。これまでの中国の批判に、どのように対応することが望ましいと考えるか。

細野 処理水をはじめとした放射性物質の取り扱いの問題というのは、いわゆるP5といわれる核兵器保有国と、それ以外の国とでは扱いが全く違う。P5は核兵器については査察を受けることもないし、特権的な地位にある。何よりも、こういった問題を長年取り扱っているので、世界で最も実情を分かっている国々といえるだろう。今回の処理水が科学的に問題ないというのは、中国は理解している。それを十分理解した上で、批判をしているということだ。

おそらく「外交カードとして使える」と考えたのだろう。韓国も反対するし、そうすればアジア諸国も反対に回ると考えていたはずだ。そこにある種の誤算があった。韓国は民主主義の国だし、世論の反発はあるだろうが彼らも原発を持っているから、日本より濃度の高い処理水を出さざるを得ない。尹錫悦大統領は中国と共同歩調を取らなかった。ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々、太平洋諸国にも、日本は今回的確なロビー活動を展開できた。

一つ大きなターニングポイントといえるのは、IAEA(国際原子力機関)の調査団について。そこに中国と韓国の専門家が入ったのだが、私は当初「中国が拒否権を持つような事態にならないか」と懸念していた。全員一致とならずに、調査団の結論が出なくなるのではと危惧したのだが、さすがに専門家なので調査の明確なデータに対して反論はできなかった。

中国は今、この問題をどう決着していくか、ソフトランディングに向けたプロセスに入ってきていると思う。しかし、この一連の経過を考えると、もはや新たな検証の必要はない。IAEAの一員として(中国の専門家が)入っているし、そこではっきりとした判断がなされている。

(2023年11月29日)

バナー写真:東京電力福島第1原子力発電所=2023年8月24日(時事)

(※1) ^ (編集部注)2021年4月の関係閣僚会議で方針を決定。

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