世界的選挙年:岐路は11月の米大統領選

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2024年は多くの主要国で政治指導者選びが行われる「選挙の年」だ。中でも重要なのは11月の米大統領選で、その結果は欧州、中東、インド太平洋など世界の安全保障に重大な影響を与えるだろう。予想される「バイデンか、トランプか」の米国民の選択をめぐり、片時も目が離せない情勢が続く。

ウクライナ情勢をも左右

1月13日の台湾総統選を皮切りに、世界ではインドネシア大統領選(2月)、ロシア大統領選(3月)、韓国議会総選挙(4月)、インド総選挙(4~5月)、欧州連合(EU)の欧州議会選(6月)──と、重要選挙が目白押しだ。

ロシアによる侵略が2月に3年目に入るウクライナでも、ゼレンスキー大統領が5月に任期5年の満了を迎えるが、戦争という戒厳体制を理由に大統領選が延期される見通しだ。これに対し、ロシアのプーチン大統領は、昨年後半のウクライナ軍の大規模反転攻勢が不発に終わったことで自信を回復している。現在も約40万のロシア軍を占領地域に残して居座っており、大統領選で「国民の圧倒的支持」を演出した上で、力による現状変更をさらに推し進める姿勢を誇示している。

ウクライナ侵略の長期化で、欧州では「支援疲れ」の傾向が見られる。さらに、中東などからの移民・難民の規制や排斥を掲げる右派系勢力の進出が独、仏、オランダなどで昨年から目立っている。EUの立法機関である欧州議会選挙では、中東情勢の展開をにらみながら、こうした内向きの傾向がどこまで顕在化するかが注目される。

中国 威嚇継続か懐柔か

台湾総統選では、与党・民進党と野党・国民党、第三勢力の台湾民衆党の3候補によるつばぜり合いが展開された結果、民進党主席の頼清徳副総統(64)が勝利し、蔡英文現総統の後継者に決まった。日米などと協調して「現状維持」を掲げる台湾外交の現路線が継続されることになり、あの手この手で頼清徳氏の当選を阻もうとしてきた中国の威圧外交はまたも失敗に終わった。これを受けて、習近平政権が軍事的威嚇をさらに続けるのか、新たな路線に転じるかが注目される。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主を自認するインドネシアや、昨年は主要20カ国・地域(G20)議長国として「グローバル・サウス」(新興国や途上国)を束ねてきたインドも、選挙の結果を受けて外交・安全保障政策が変わるかどうかが問われている。

尹政権の失速狙う北朝鮮

韓国総選挙は、大統領選挙ではないものの、2022年春に就任した尹錫悦大統領にとって任期半ばにおける国民の「中間評価」にあたる。尹氏は、前政権の対中・対北朝鮮傾斜を断ち切って、日米韓の緊密な協調と結束に思い切ってシフトしたが、議会では少数与党のままだ。自身に対する国民の支持率も30%台の低迷が続いており、内政では苦しい状況だ。

総選挙で与党が大きく敗退すれば、尹氏の求心力もさらに低下しかねない。尹政権の失速は、日韓関係にもたらした急速な改善や日米韓3カ国の結束にも大きなマイナスとなる。北朝鮮は偵察衛星と称する大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の追加発射など、さらなる核・ミサイル開発に拍車をかけることが懸念される。北朝鮮はウクライナ侵略を機に、ロシアとの軍事協力を高めており、この点でもアジアの安全保障に対する韓国総選挙の影響は見過ごせない。

「4正面」にどう立ち向かう?

選挙が相次ぐ中でも、決定的に重要なのが米大統領選であることは言うまでもない。バイデン政権の米国は、既に欧州(ウクライナ侵略)、中東(イスラエル対イスラム勢力・イランとの対決)、インド太平洋(台湾情勢)の3正面の外交・安保課題を抱え込んでいる上に、対立が深まる朝鮮半島を加えた「4正面」の苦境にある。

大統領選は1月中旬から党員集会や予備選が本格化するが、現時点で最も可能性が高い組み合わせは、現職のバイデン大統領(81)と復活を狙うトランプ前大統領(77)の現・前一騎打ちだ。

高齢対決という異常さに加えて、「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)を掲げて米国を内向きに走らせたトランプ政権に対し、バイデン氏は北大西洋条約機構(NATO)や先進国(G7)首脳会議との国際協調を回復させ、地球温暖化防止のパリ協定にも復帰するなどほぼ正反対の政策をとってきた。

両者の外交で唯一といえる共通点は、中国を「戦略的競争相手」と位置付けて厳しく対処する対中戦略だが、異例の3期目入りを果たした中国の習近平政権は、その経済的苦境にもかかわらず、覇権的行動と軍事力拡大を進めている。

トランプ氏復権なら深刻な揺り戻し

トランプ氏は在任中にプーチン大統領を高く評価したことで知られ、昨年7月にも「大統領に復帰したら24時間以内にウクライナの戦争を終わらせる」と述べた(※1)。トランプ政権が復活すれば、バイデン氏が主導してきた欧米日のウクライナ支援策を激変させる恐れが強い上に、NATOや日米、日韓などとの同盟関係や国際協調にも深刻な揺れ戻しが懸念され、国際安全保障全体に与える影響は計り知れない。

一方、バイデン氏にも懸念はある。2021年の就任早々にアフガニスタン駐留米軍の撤退を拙速で強行したために、タリバン政権が息を吹き返すなどアフガン情勢を大きな混乱に陥らせ、その余波は今も続いている。対ウクライナ支援の金額は群を抜いて大きいが、先進兵器の供与をためらってウクライナ軍の好機を逃したとも批判され、バイデン氏自身の「軍事嫌い」の性格が拙速と不決断の原因とする見方もある。昨年末には米下院のトランプ支持勢力の抵抗のために、肝心のウクライナ支援も枯渇しかねない情勢に置かれている。

米大統領選は、総じて米国が国際協調を堅持するか、孤立主義的な内向き路線に逆戻りするかの選択に絞られる公算が大きい。岸田文雄首相は「ウクライナは明日の東アジア」という危機感を持ち、G7議長国として諸国を説得し、「自由で開かれた国際秩序」を掲げて、日本と世界の安全保障を推進してきた。国際協調は日本の平和と安全にとっても生命線というべきだ。これを堅持するために、国際社会はどう動くべきか。11月の米大統領選に向けた対応を怠りなく進めていく必要がある。

バナー写真:米大統領選・共和党4回目の候補者討論会。トランプ前大統領は、これまですべての討論会を欠席している=米アラバマ州タスカルーサ(AFP=時事)

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