激動する国際情勢下の日米韓関係:キャンプデービッド精神にのっとった日韓協力強化を

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国際秩序が流動化しつつある今、韓国の大統領選挙は、日本の安全保障にとって重大な意味を持つ。一見、出自が違うように思える日米同盟と米韓同盟を、「双子の同盟」と呼ぶ筆者が、転換期の日韓関係を展望する。

韓国大統領選挙は進歩派がリード

6月3日に韓国で大統領選挙が行われる。昨年12月3日に「非常戒厳」を宣布した尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が、その後の国会での弾劾訴追と憲法裁判所の決定により罷免されたことを受けての選挙となる。

選挙戦をめぐる報道では、進歩派の最大野党「共に民主党」前代表の李在明(イ・ジェミョン)氏がリードしていると伝えられる。進歩派が大統領に当選すれば新政権は日本に対し厳しい姿勢をとるのではないか、と懸念する向きもある。

尹氏より一代前の文在寅(ムン・ジェイン)大統領もやはり「共に民主党」の政治家で、文政権期に徴用工、レーダー照射、慰安婦問題などで日韓関係は厳しい局面を迎えたことは記憶に新しい。

これに対し、保守派の尹政権は日韓協調路線をとってきた。その最高潮が、2023年8月18日にアメリカ大統領の保養地キャンプデービッドで、当時の日本の岸田文雄首相、尹大統領、そしてジョー・バイデン米大統領の3首脳が安全保障上の連携強化で一致したことだった。

加えて注目されたのは、その3日前の8月15日に尹氏が行った演説である。日本にとっては終戦記念日にあたる8月15日は、韓国では「光復節」と呼ばれる。日本の植民地支配からの解放記念日、という意味だ。尹氏は、韓国側が日本の植民地支配を改めて批判する機会にしてもおかしくない光復節での演説であえて、日本に置かれる「国連軍」の後方基地が「北朝鮮の侵攻を遮断する最大の抑止要因だ」と述べたのだった(※1)

日米同盟と米韓同盟は「双子の同盟」

1950年6月に北朝鮮が韓国に侵攻したことで勃発した朝鮮戦争では、アメリカなどが「国連軍」の名目で韓国防衛のために軍事介入した。朝鮮戦争中の51年9月、日本はアメリカと日米安全保障条約を結んだが、この時吉田茂首相とディーン・アチソン国務長官の間で「吉田=アチソン交換公文」と呼ばれる文書が取り交わされた。この文書は、朝鮮戦争という現実を前に、日本が朝鮮国連軍の行動を、基地やサービスの提供によって支持することを約束したものである。

さらに53年7月の朝鮮戦争休戦協定署名後、54年2月には、日本と朝鮮国連軍参加国との間で「国連軍地位協定」が署名された。われわれが普段「在日米軍基地」と呼んでいる基地の中で、座間、横須賀、佐世保、横田、嘉手納、普天間、ホワイトビーチの各基地は、実は国連軍地位協定によって指定された「在日国連軍基地」でもある。光復節の演説で尹氏が強調したかったのは、韓国防衛にとっての日本の重要性であった。

そもそもアメリカが朝鮮戦争に介入したのは、当時の対ソ連封じ込め政策の根幹が、西ヨーロッパ防衛と並ぶ東アジアにおける日本防衛であり、その日本にとって地政学上重要な地域が韓国だったからである。日本にとっての韓国(朝鮮)の地政学的重要性をめぐる国際政治については、20世紀初頭までさかのぼることができる。日本は安全保障上の必要から、朝鮮がロシア帝国の勢力下に入るのを防ぎ、自国の勢力圏とすることについて、1905年にアメリカ(桂=タフト協定)、イギリス(第2次日英同盟協約)、そして最終的にはロシア(ポーツマス条約)からも承認を得た(※2)

そのような日本と韓国の地政学的な結びつきは、日本の敗戦によっても本質的には変わらなかった。日本の安全保障にとって韓国が重要であるのと同じく、アメリカは朝鮮戦争への介入という実戦を通じて、韓国防衛にとっての日本の基地の戦略的価値を痛感し、このことが日米安保条約に発展する。このように、日米同盟と米韓同盟(53年10月、米韓相互防衛条約署名)はお互いに支え合っている。両同盟は歴史的な起源から見てもいわば「双子の同盟」なのである。日米同盟は、単に日米二国間同盟として完結しているわけではなく、実態的には「米日・米韓両同盟」とでもいえる安全保障システムの中の一機能と見ることさえできるだろう(※3)

第2期トランプ政権に影響される日韓関係

ところが日本と韓国の関係は、文政権期を振り返れば分かるように、常に良好というわけではない。韓国で再び進歩派政権が誕生すれば、この「米日・米韓両同盟」はどうなっていくのか。

日韓関係の難しさにもかかわらず、戦後に「米日・米韓両同盟」が維持されてきたのは、両国の間にアメリカが介在してきたことが大きい。しかし、第2期ドナルド・トランプ政権の「自国第一主義」により、アメリカがロシアのウクライナ侵略をめぐってロシアに融和するのではないかとの不安が広がっている。こうしたトランプ政権に対する不安の広がりは、東アジアでも例外ではない。実際に第1期トランプ政権は在韓米軍撤退をちらつかせたこともある。

一方、北朝鮮がロシアに加担して2024年10月以降ウクライナに派兵し、またこれに先立って同年6月19日にウラジーミル・プーチン大統領と金正恩(キム・ジョンウン)総書記とのあいだで「ロ朝包括的戦略パートナーシップ条約」が署名されるなど、旧ソ連時代からの両国の同盟関係が事実上復活しつつある事態に、地域の警戒感が強まっている。こうした状況下で、韓国での進歩派政権の誕生によって日韓関係が悪化し、しかもアメリカも地域からそっぽを向くとなれば最悪のシナリオだ。

ただ、日米韓三国関係を分析した政治学者のヴィクター・チャが、アメリカのこの地域への安全保障上のコミットメントに動揺が見られる時、日本と韓国は協調する傾向にある、と指摘したことはよく知られている(※4)。地域における覇権主義的な動きへの懸念の高まりや、トランプ政権の自国第一主義を踏まえると、韓国でどのような政権が誕生するにせよ、キャンプデービッド精神にのっとった日韓安全保障協力の強化に取り組んでいけるかどうかが焦点になる。

日韓安全保障協力における尹氏の貢献は大きいが、一方で非常戒厳の宣布は内外から不可解なものと受け止められた。非常戒厳が覆されたことは、韓国における民主主義の成熟を示しているともいえるだろう。権威主義国家に囲まれる東アジアにおいて、二大民主主義国である日本と韓国が協力し、アメリカを引き込んで地域の安全をはかっていくことが、地政学的観点からも重要である。

また、トランプ政権の自国第一主義を踏まえ、アメリカの同盟国が今後より大きな安全保障上の責任を引き受ける必要があることに照らすと、日米韓に加えて、日米フィリピン、日米オーストラリア・インド(QUAD)、日本・イギリス・イタリア(GCAP)といった国々のミニラテラルな安全保障協力をさらに強化していくことも求められる。

(※)本稿は個人の見解であり、所属組織とは無関係です。

バナー写真:2023年5月、韓国・釜山に入港した海上自衛隊の護衛艦。自衛艦旗である旭日旗を掲げている(共同)

(※1) ^ 『日本経済新聞』2023年8月15日付夕刊。

(※2) ^ ただし本稿は日本による朝鮮の植民地化を正当化するものではない。

(※3) ^ 千々和泰明『戦後日本の安全保障―日米同盟、憲法9条からNSCまで』(中公新書、2022年)43頁;千々和泰明『日米同盟の地政学―「5つの死角」を問い直す』(新潮選書、2024年)54頁。

(※4) ^ ヴィクター・D・チャ(船橋洋一監訳・倉田秀也訳)『米日韓 反目を超えた提携』有斐閣、2003年、3頁。

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