政治を動かす「熱量」の差:参院選4000人調査から見える「推し活」の姿
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政党・党首への「感情温度」を測定
7月20日に行われた2025年参院選は、これまでの常識を覆す極めて特徴的な選挙であった。国民民主党や参政党が大きく議席を伸ばした今回のサプライズは、2024年にあった東京都知事選(7月)および兵庫県知事選(11月)と同じ流れにある。都知事選では、「小池vs蓮舫の闘い」という事前予想を崩して無名の石丸伸二・元広島県安芸高田市長が2位に躍り出た。兵庫知事選では、さまざまな疑惑を抱えて不信任を突きつけられた斎藤元彦氏が前回選挙を上回る得票で再選を果たしている。
これらの選挙において、当該の政党や候補者に対する支持は、既存の政党・政治家への支持よりも「熱い」傾向にあると指摘されている。実際に、SNS上で国民民主党や参政党、あるいは石丸氏や斎藤氏の支持者による書き込みを見ていると、他党支持者には見られないほどの熱量が垣間見える。さらに最近では、こうした熱量の高い支持のかたちを「推し活」に例える論考も見られる(※1)。
そこで本稿では、参院選の直前4日間に筆者が日本全国の男女4109人を対象に実施したオンライン調査(※2)の分析を通じて、支持政党ごとに「熱狂」(※3)がどの程度なのかを実証的にひも解いていきたい。
この調査では、主要政党とその党首(代表)に対する好悪の度合いを測定する「感情温度計」と呼ばれる設問を設けた。さまざまな政党や政治家に対して、最も好きであれば100、逆に最も嫌いであれば0、中間を50として、あてはまる数値を回答してもらう設問だ。
調査結果に基づき、各政党の支持者が、自身の支持する政党と党首(代表)に対してどの程度の好感を覚えているのかを比較してみたい。
2つのグラフは、政党ごとにその政党と党首に対する感情温度の数値(平均値)をそれぞれ示している。グラフ1は支持政党別、グラフ2は全サンプル(世論全体)の数値だ。たとえば、グラフ1の「自民支持層」について見てみると、赤色の69.1ポイントは自民党への感情温度、黄色の56.9ポイントは石破茂総裁への感情温度を表している。
低熱量の自民支持者、新興政党は党首への「推し」
このうちまず、支持政党別の結果について検討してみよう。結果からは大きく分けて3つの傾向を読み取ることができる。
第1に、他党と比べても自民党支持者の熱量が低い点が挙げられる。自民党支持者は、他党の支持者と比べて、党に対しても、党首に対しても、相当に低い。つまり、今回の参院選では、自民党支持者ですら自民党に対して否定的であったことがわかる。
第2は、3つの小規模政党の支持者が、非常に熱心に対象政党を支持している様子がうかがえる点だ。国民民主党は81.6ポイント、参政党は85.1ポイント、れいわ新選組は86.6ポイントと相対的・絶対的に感情温度が高い。
さらに第3として、党と党首の温度差(絶対値)に注目すると、自民党支持者では12.2ポイントの差があるのに対して、国民民主党支持者では4.5ポイント、参政党支持者では1.8ポイント、れいわ新選組支持者では1.3ポイントの差しかなく、政党評価と党首個人への評価がほぼ連動していることが分かる。
ここから、小政党における支持の熱量の高さは、党首個人への強い「推し」の気持ちに支えられていることがうかがえる。玉木雄一郎・国民民主代表の不倫問題や、選挙中に報じられた神谷宗幣・参政代表の金銭スキャンダルがあっても、支持の低下に繋がらなかった理由の1つとして、まさに「推し」の気持ちを反映している可能性がある。
ただし、このことは、政党がどれだけ問題を起こしても説明責任を回避できてしまう党の構造をも意味しており、決して望ましいものではなかろう。とりわけ国民民主党や参政党は、党ガバナンスのあり方に関してさまざまな批判がなされている。熱狂的な支持が結果として健全な党ガバナンスの成立を損ねているとすれば、新たな支持層の獲得にも影響を及ぼす。
世論一般との「乖離度」が大きい党は?
続いて、サンプル全体の政党別感情温度(グラフ2の青色)と、政党支持層ごとの感情温度(グラフ1の赤色)との乖離(かいり)度を検証してみたい。この乖離度は、世論一般の空気感と支持者の空気感の違いを表すものである。すなわち、その差が大きいほど、支持者の熱量が世論一般から遊離している(敢えて悪い表現をすると「世間からズレている」)ことを意味する。
全体の傾向を見ると、これは当然のことながら、どの政党支持者でも、支持者内での感情温度は、世論全体の感情温度よりもかなり高くなる傾向にある。ただし、その乖離の度合いは政党によってかなり違いが見られる。
各政党支持層の平均値からサンプル全体の平均値を減じた乖離度を見てみると、自民党は32.2ポイント、立憲民主党は35.8ポイント、国民民主党は32.2ポイント、日本維新の会は約35.4ポイントとほぼ同じ程度である。これに対して、参政党の場合はサンプル全体に比べて46.4ポイント、れいわ新選組では52.5ポイントもの差がある。
ここから、参院選でともに議席を大きく伸ばした国民民主党と参政党の2つの新興政党では、支持のかたちの違いが読み取れる。つまり、国民民主党への熱狂は世論一般における(一定の)評価を伴っていたのに対して、参政党の場合は、相対的に見て世論の評価を必ずしも伴わない、支持者間で共有・完結された熱狂だったとみることができる。
既成政党にとっても大きな岐路
とはいえ、本調査は参院選前のデータであるため、参院選を経てさらに認知度が大きく向上した参政党は、今後、世論全体での好感度も上昇する可能性がある。現に、選挙直後の7月21〜22日に読売新聞社が実施した緊急世論調査では、参政党支持率は12%へと急騰し、国民民主党(11%)や立憲民主党(8%)を抜いて野党第1党の座を射止めている。その意味で、参政党支持者の熱量が今後、世論全体に広がるかどうかは、与党が衆参ともに過半数を割り込んだ国会で何をするかによるだろう。
他方、参院でも少数与党になった自民、公明両党は言わずもがな、かつてないほど野党に有利な状況であったにもかかわらず議席を増やせなかった立憲民主党にも大きな危機が迫っている。
紙幅の制約で詳述できなかったが、実は立憲民主党や野田佳彦代表への感情温度は、参政党や神谷代表のそれよりも高く、必ずしも「立憲は嫌われている」わけではなさそうである。それにもかかわらず、立憲民主党が比例票で国民民主党や参政党に及ばなかったことを鑑みると、嫌われている方がまだマシで、もはや関心すら向けられていない可能性が高い。
既存政党も「熱狂的支持」を求めに走るのか、それとも愚直に「冷静な判断」を訴え続けるのか。新たなステージに入った日本政治において、既存政党の側も大きな決断を迫られている。
バナー写真:参政党の街頭演説で気勢を上げる人たち=2025年7月19日、横浜市(共同)
(※1) ^ 例えば、山本圭「選挙と「推し活」民主主義 従来的な市民像と「フォロワー」の違いは」(朝日新聞2024年12月9日)などがある
(※2) ^ 調査は、2025年7月16〜19日にかけて実施した。調査に際しては、性別・10歳刻みの年齢・地域ブロックごとに回収上限数を割り付けることで、できる限り日本の縮図となるように調整して実施した。また、オンライン調査の内容をきちんと読まずに回答したと考えられる人も割り出してはいるものの、そうした人も有権者の一人であると考えて、あえてすべての回答者を分析対象とした。なお本調査は、大阪経済大学研究倫理審査委員会の審査を受けて承認を得た。
(※3) ^ ここでいう「熱狂」とは、感情温度が高く、かつ政党と党首への評価が連動しているようなパターンの支持を指している。

