英仏が核運用で連携:米国抜き、対ロ抑止で歴史的転機

国際・海外 政治・外交

英国とフランスが独自に保有する核兵器について、運用面で緊密に連携することになった。ウクライナ侵略を機に高まるロシアの脅威と米国の欧州離れに備えて自前の「核の傘」をめざす動きで、欧州安全保障を巡る歴史的な転機として注目されている。

米国の「核の傘」への信頼感が低下

欧州はこれまで核による安全保障について、もっぱら北大西洋条約機構(NATO)を通じた米国の「拡大抑止(核の傘)」に依存してきた。しかし、ウクライナを支援する欧州諸国に対してロシアが再三、核を脅しに使っているのに加え、2期目のトランプ米政権が欧州防衛に消極的で、同盟軽視の姿勢も強まっていることを背景に、「米国の核の傘は頼りにできない」との機運が高まっていた。

英仏の核連携に先鞭(せんべん)をつけたのはフランスのマクロン大統領だ。今年3月、「欧州の未来はワシントンやモスクワで決められるべきでない」とする演説を行って、「米国に代わる『核の傘』を欧州に提供する」と提案した。そのための協議と対話を6月にも着手することを明らかにした。

英国のスターマー首相も6月、「戦略防衛見直し」報告の中で「欧州防衛に主導的役割を果たしていく」と表明した。これを受けて7月10日、スターマー氏は訪英したマクロン大統領と会談し、両国いずれかの死活的利益が脅かされたり、欧州に極度の脅威が生じたりした場合、「連携して迅速に対応するための協調と連携を進める」とする「ノースウッド宣言」(核に関する英仏共同声明)を発表した。宣言は、両国が核兵器の運用で緊密に連携する合意に達したことを意味する(※1)

「核運用グループ」を設置

英仏は15年前の2010年、ランカスターハウス条約を結んで核関連の技術・研究協力に道を開いてきたが、研究協力を超えて核の使用や運用を含む連携に踏み込むのは初めてだ。具体的には、英首相府と仏大統領府に直属する合同組織「英仏核運用グループ」(UK-France Nuclear Steering Group)を設置して、核に関する戦略・政策、能力、作戦・運用の各分野で相互の連携と調整を深めていく。

両国ともに核使用の最終決定権はこれまで通りに独立性を維持するが、作戦・運用面で連携すれば、共通の脅威に手分けして効果的な打撃を与えることが可能になる点が注目される。

英仏はいずれも射程1万キロ前後の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した戦略ミサイル原潜(SSBN)を4隻ずつ運用している。英国の核弾頭数は225発、仏は約290発で、米ロ両国が各5000発以上であるのに比べて数では見劣りするが、連携すれば手ごわい敵となるのは確実といえる。

ノースウッド宣言では名指しを避けたものの、マクロン政権がまとめた「国家戦略レビュー」(7月14日)では、ロシアが「欧州のかつてない持続的脅威となっている」(※2)という認識が示されており、英仏連携のターゲットがロシアのプーチン政権であることは誰の目にも明らかだ。

ドイツも英仏と連携

非核保有国のドイツも、英仏との連携を強めている。マクロン大統領は5月、ドイツのメルツ首相をパリに招いて会談し、仏独両国が主導して欧州安全保障の自立を促す姿勢を確認したうえで、両国の兵器運用などを調整する「防衛・安全保障評議会」の設置で合意した(※3)。また、7月にはスターマー首相も訪英したメルツ首相との会談で英独の相互防衛義務を明記した友好協力条約に署名し、さらに英仏独3カ国の協力の深化も約束した。

そもそも英仏の核連携を呼びかけたのは、トランプ政権の同盟軽視を懸念したメルツ氏だったとされている。3カ国はNATOの主要な欧州加盟国であり、いずれも北大西洋条約の下で相互防衛に守られているが、あえて3カ国の協調と連携を誓い合うことによって米国の欧州離れに対応していく姿勢を強くにじませている。

3カ国の違いの調整が課題

英仏にドイツを加えた3カ国の主導で欧州独自の「核の傘」構想が進めば、NATOの歴史と欧州の核抑止態勢にとって歴史的な転換を意味する。プーチン政権も「重大な脅威となる」と強く反発している。

だが、フランスはドゴール時代(1960年代)以来の行きがかりを反映して、NATOの核運用政策を協議する「核計画グループ」(加盟国の国防相級で構成)に所属していない。「欧州の戦略的自立」を持論とするマクロン氏自身も、初めから米国と一線を画す姿勢が強い。

これに対し、米国との「特別な関係」を重視する英国は、歴史的にも米英協調とNATOを重んじてきた。両者にはさまれたドイツは、欧州駐留米軍の大半を抱える地政学的位置にあって、対米協調と懸念の間を揺れ動いている。

米国の欧州離れに備えた核連携を実効ある構想に育てていくには、こうした3カ国間の違いを相互に調整し合って、欧州の平和と安定に役立つようにする姿勢が大切で、今後最も重要な課題といえよう。

核連携の意味は欧州にとどまらない。2011年に成立した米ロの新戦略兵器削減条約(新START)は、プーチン政権の「履行停止」などによって来年2月に失効する見通しだ。また、2030年代には、急速に核増強を進める中国の核弾頭数が米ロとほぼ同じ水準に達するとされ、世界はかつてなく危険な「三つどもえ」の時代を迎える。世界の核の安定が大きな課題となる中、英仏核連携の成否は日本の安全にとっても重要なものとなりそうだ。

バナー写真:ロンドン近郊で共同記者会見に臨むスターマー英首相(左)とフランスのマクロン大統領=2025年7月10日(AFP=時事)

(※1) ^Northwood Declaration: UK-France joint nuclear statement” Statement by the United Kingdom and the French Republic on Nuclear Policy and Cooperation, press release Prime Minister’s Office, 10 Downing Street, 10 July 2025.

(※2) ^France’s New Strategic Review (2025),” By Aleksander Olech, Defense24.com, July 15, 2025.

(※3) ^ 読売新聞5月8日朝刊「欧州の防衛 独仏で主導 首脳確認 ウクライナ支援継続

欧州 フランス 核兵器 英国 核問題