戦後80年をどうとらえる

日本の右派の多くはなぜ親米なのか : 民族派の一水会代表が語る「トランプ政権は対米自立の好機」

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日本の右派勢力は保守的で国家主義的な思想を持つと考えられているが、彼らの多くが戦後「親米」を掲げる。戦前は「反米」だったはずの右派勢力が、なぜ戦後に雪崩を打って親米に転じたのか。米国のトランプ大統領が日米安保体制に不満をにじませる今、これからの日米関係はどうあるべきか。「対米自立」を訴える「一水会」の木村三浩代表が、自身の活動を踏まえて、客観的に歴史的経緯を語った。

木村 三浩 KIMURA Mitsuhiro

1956年、東京都生まれ。一水会代表。社会活動家。30歳から慶應義塾大学法学部、同大学法学研究科で学ぶ。81年「反米愛国・抗ソ」を掲げた「統一戦線義勇軍」の結成に参画、議長に。98年NASYO(非同盟主義学生青年会議)の常任理事となる。2000年に一水会代表に就任。著書に『男気とは何か』『憂国論・新パトリオティズムの展開』『反米自立論 日本のための選択と共同』(大西広氏と共著)など。

20年後の「アメリカ占領100年」を憂う

木村三浩氏が代表を務める「一水会」は今、日本の真の独立、米国に追従する社会風潮の是正、世界平和の実現、世界愛国者の国際連帯を目指して活動している。

「戦後80年ということは、20年後には、『対米従属』という名の米国による事実上の日本占領が100年を迎えるということでもある。今でも日本各地に米軍基地があるのは、主権国家として異常な事態だと、日本国民はまず認識すべきです」

撮影 : 横関一浩
撮影 : 横関一浩

木村氏は“異常な事態”の一例として、日米安全保障条約、日米地位協定の問題を挙げる。

「米軍基地内は日本の法が及ばない、いわゆる治外法権。米軍関係者が犯罪を起こしても、犯罪捜査上の特権を受けられます。2017年にはトランプ大統領が就任後初来日の際に、東京・横田基地に大統領専用機のエアフォース・ワンで乗りつけ、シークレットサービスは拳銃を所持しながら、パスポートコントロールも受けずに入国しました。公式実務訪問であるにせよ、随行員も含め米軍基地からの入国は、日本の主権が否定され、日本が米国の属国や保護国になっているのと同じです。日米安保条約、日米地位協定は不平等条約です。対米自立、日本の真の独立を目指さなければなりません」

横田基地に到着したトランプ大統領は、集まった1000人以上もの米兵に向かって「われわれは空を、海を、陸を、宇宙を支配している」と演説(ロイター)
横田基地に到着したトランプ大統領は、集まった1000人以上もの米兵に向かって「われわれは空を、海を、陸を、宇宙を支配している」と演説(ロイター)

トランプ大統領の今こそ、チャンス

一方で木村氏は、「今こそ米国の日本支配からの脱却のチャンスだ」ともいう。第2次トランプ政権は「連邦政府の縮小」を目指している。国防予算削減のため、在日米軍の機能強化の取りやめを検討していると2025年3月に報じられた。

「この報道を受けて親米保守の人たちは、『在日米軍の予算が縮小されたら、日本の安全保障上の維持機能が崩壊する』などと騒いでいますが、私にしてみれば大歓迎です。今こそ、日本が『対米自立』を果たす好機です」

木村氏は対米自立に向けてこんな“構想”を持っている。

「まず、米国とは日米安保条約を破棄して友好条約を結び、ロシアとは日ロ平和条約を締結、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)とも国交正常化を果たせばいい。日米安保をやめれば、日本が米国と対等の関係になるわけで、中立、調和の外交方針を示せます。ロシアや中国、北朝鮮は安心し、日本に軍事侵攻する理由がなくなる。日ロ平和条約が締結されれば、それこそ北方領土問題だって解決するかもしれない。とにかく重要なことは米国の戦争に日本が巻き込まれないようにしなければならないのです」

そしてこう続ける。

「こうしたことが簡単にいかないことは分かっていますが、戦前の右派は『興亜主義』の路線から、アジアと連帯して西欧と対抗していました。今こそ、この思想に立ち返り、日本が周辺諸国との『総調和路線』を取ることで、平和を守ることができるのです。こうした中で、究極的に目指すべきは、戦争の違法化と軍縮の徹底でしょうね」

右派勢力の歴史的経緯

「対米自立」は日本の“右派保守界隈”では異端のようだ。「新右翼」と呼ばれた一水会はすでに「脱右翼」を宣言し、対米自立・民族派の立場を鮮明にしているが、一水会のような考え方はどのような経緯で生まれたのか。そもそも右派勢力とは何なのか。木村氏は客観的にこう解説する。

「右派勢力の生粋の右翼とは、日本の伝統や歴史や文化を守ろう、尊皇精神を持って国の大事に動こう、日本の国益を守ろう、という考え方を持つ人々の総称です。またそれに伴い、敵対する人たち、例えば共産党や社会主義者、あるいは既存の体制に対し、対抗する行動を示していく人たちを指しています」

歴史的に、右翼が成立する契機は、対立概念である「左翼」の成立にあった。1917年のロシア革命により、世界初の社会主義国家であるソビエト社会主義共和国連邦が成立し、社会主義や共産主義が日本にも流入してくる。

「共産党は天皇制を否定しました。そこで、外国の思想にかぶれて天皇を批判するのはナンセンスだ、国賊だと抗議し、対抗する人たちが現れます。次第に、天皇制否定の共産主義、平等主義、マルクス主義の人たちが『左翼』、それに対抗し天皇や国家を尊重する人たちが『右翼』と呼ばれるようになりました」

太平洋戦争が始まると、反西欧を謳(うた)った生粋の右翼は敵国「鬼畜米英」の打倒を目指す「反米」として、大政翼賛会や大日本言論報国会、あるいは在郷軍人会などで活動した。敗戦を迎え日本が米国の占領下に置かれると、彼らの多くはGHQから「公職追放(ホワイト・パージ)」される。

「その後、文筆業で生計を維持していたインテリ右翼たちを、侠客(ヤクザ)が意気に感じて世話をすることもあった。また共産党が強くなっていく過程で、“反共抜刀隊”構想にヤクザ・テキ屋も加わり、反共統一戦線が組まれたこともありました」

戦後「親米」に転じた右派

そうした中、世界や日本では共産主義の勢いが増していく。戦後米ソによって南北分割占領された朝鮮半島では、1948年に北朝鮮が成立し、49年には中華人民共和国が成立、そして50年には朝鮮戦争が起きる。東西冷戦の始まりだ。

「そこでGHQは、日本を共産主義の防壁とし西側陣営の一員となるよう、日本占領政策を転換しました。国家主義者などの追放解除が始まる一方で、共産党員やその同調者の勢いを阻止しようとしました。その象徴ともいえるのが、日本で初めて予定されていた1947年2月1日のゼネストをGHQの命令で中止に追い込んだことです。その後、公職や企業から追放する『レッド・パージ』が進められました」

そして59~60年、安保条約改定に反対する運動「安保闘争」が左翼や全日本学生自治会総連合(全学連)を中心に広がり、日本再軍備反対、岸信介内閣打倒などが掲げられた。

「右翼は国体擁護を第一義にしており、反国体の左翼に対抗するという意味で存在しています。安保闘争を機に、反共統一戦線として体制側と共同歩調をとる右翼も出てきました。こうして、戦前は『反米』を掲げていた右翼の大多数が、時代的状況から『親米・反共』を活動の軸にしていったのです」

三島由紀夫氏に同調する一水会の「反米・反共」

「ところが安保闘争のさなか、民族派重鎮の中から『安保反対の闘いは、実際は共産主義的ではなく民族主義に立脚している』という声が出てきたのです。当然、反共ですが、日本の伝統を守り、国家革新、体制チェックに立ち返ろう。それには、まず『自立』だと……。その象徴が三島由紀夫先生だったのです」

三島は60年安保の翌年、短編『憂国』で二・二六事件の青年将校を描き、短編『英霊の聲』(66年)では昭和天皇の人間宣言に憤る英霊たちを描いた。

「三島先生の思想が分かりやすく伝わってくる著書の一つに、『尚武のこころ』(70年)という対談集があります。その中の作家で元東京都知事の石原慎太郎氏との対談で、民族派が本来持っているべきは『ナショナリズム』『反資本主義』『反体制的行動』『天皇への忠誠』である。しかし、『天皇への忠誠』以外の3つを左翼に取られ、本来の姿を失っていると述べています」

三島氏は70年、民族派の学生たちと結成した民兵組織「楯の会」会員4人と自衛隊市ヶ谷駐屯地に赴きクーデター決起を促したが失敗。会員で25歳の森田必勝氏とともに、割腹自決を敢行した。

一水会事務所に飾られていた三島由紀夫氏ら「楯の会」5人の写真 撮影 : 横関一浩
一水会事務所に飾られていた三島由紀夫氏ら「楯の会」5人の写真 撮影 : 横関一浩

森田氏の同志だった鈴木邦男氏は、早稲田大学在学中は右派系の学生運動をしていたが、事件が起きた時には、政治活動から離れて社会人として働いていた。森田氏の自決の報に大きな衝撃を受け、三島・森田両氏の遺志を受け継ごうと、学生運動仲間と72年に「一水会」を設立した。

「鈴木さんは、三島先生の目指した『戦後体制の打破』を実現しよう、森田烈士の思想と行動を鎮魂し、意義を広めていこうと考えました。そして既存の右派とは一線を画した『新民族主義運動』として、『反米・レコンキスタ(失地回復運動)・変革』を掲げたのです」

米国で第2次トランプ政権が誕生したのと時期を同じくして日本では石破政権が発足した。石破茂首相は、就任直後から戦後日本の首相としては初めて日米地位協定の見直しに意欲を示す発言を繰り返している。2025年6月には国会内に立憲民主党を中心とする「日米地位協定を改訂する議員連盟」が発足した。

一水会が掲げる「対米自立・主権回復」が、戦後80年を機に現実味を帯び始めているようにも見える。

撮影 : 横関一浩
撮影 : 横関一浩

取材・文:株式会社POWER NEWS・山口一臣

バナー写真 : 一水会事務所にて。壁には三島由紀夫氏の写真と「憂國」の揮ごうが掲げられていた。左は三島氏とともに自決した森田必勝氏(撮影 : 横関一浩)

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