日欧協力と米国との同盟をつなぐもの

国際・海外 政治・外交

ロシアのウクライナ全面侵攻を契機に、従来以上に重要性が増した日本と欧州の協力。筆者は、「ルールに基づく国際秩序」を標榜する日欧にとって米トランプ政権への懸念は深まる一方ではあるものの、米国をつなぎ留めることが重要だと強調。ただし、中長期的には「自律性」引き上げのための日欧協力も視野に入ると指摘する。

日本と欧州の間の協力が注目を集めている。2025年7月に東京で開かれた日EU(欧州連合)定期首脳協議は日本の主要新聞の1面トップを飾った。8月末の英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」の東京入港は大きな話題になり、多くの人々が集まった。

何が日欧協力をもたらしているのか。日欧は何を目指すのか。これは、日欧協力とは何なのかという問いであると同時に、何ではないのかを明らかにすることでもある。本稿では、日欧の政治・安全保障に関する具体的協力の分析ではなく、欧州とインド太平洋、そして、日欧それぞれが有する米国との同盟という文脈で日欧協力の位置付けを探ることにしたい。

結論を先取りすれば、ロシアによるウクライナ全面侵攻、さらにはそれに対する中国および北朝鮮による支援は、日欧協力の必要性を、従来以上に直接的なかたちで示すことになった。加えて、2025年1月の米国でのトランプ政権の発足は、日欧協力をあらためて考えさせるきっかけになっている。しかし、さまざまな分野での米国への依存の現実を踏まえれば、日本にとっても欧州にとっても、日欧協力は、米国との同盟を代替するわけではない。ただしそうであるがゆえに、日欧協力を考えることは、日欧それぞれにとっての対米関係を考えることと不可分にもなる。

ウクライナ侵攻のインパクト

安全保障面での今日の日欧協力の基礎となるのは、第1に、欧州大西洋地域の安全保障とインド太平洋地域の安全保障の不可分ともいってよい連関である。しかもその度合いが高まっている。欧州の出来事がアジアに影響を及ぼし、アジアの出来事が欧州に影響を及ぼす。好むと好まざるとにかかわらず、自らの利益を守るために、相手の地域に関与する必要性が高まっているのである。

岸田文雄首相(当時)は2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻を受け、「(今日の)ウクライナは明日の東アジアかもしれない」との危機感を表明した。国際法を踏みにじる力による現状変更が国際社会で見過ごされることへの懸念が背後に存在した。

石破茂首相は、「ウクライナにおける平和のあり方が、欧州のみならず、インド太平洋を含む世界の安全保障に影響を与え得る」という前提に立ち、「誤った教訓が導き出される状況とならないように対応しなくてはならない」と繰り返している。これは当然のことながら中国を念頭においた発言であり、力による現状変更が追認されるという「誤った教訓」を中国が導き出すことを阻止する観点である。

さらに、中国がロシアからのエネルギー輸入でロシア経済を支えるとともに、デュアル・ユースなどの部品や技術の輸出でロシアの武器・弾薬製造に貢献している現状がある。北朝鮮は、ロシアに対して武器・弾薬を直接供給するのみならず、実際に兵士を送りウクライナ軍との戦闘に従事させた。北朝鮮兵が実戦経験を積んだことに加え、ロシアからは、その見返りとして、軍事技術の供与などがおこなわれているといわれる。これは、北東アジアにおける北朝鮮の軍事的脅威の増大につながる。

中国や北朝鮮がロシアの戦争を支えるという構図が存在する以上、ウクライナにおける戦争が停止した後であれば、将来、中国や北朝鮮の行動をロシアが支援するとしても不思議はない。ロシアが国益を犠牲にしてまで中国や北朝鮮へのコミットメントをおこなうとは考えにくい。それでも、現在の中国が自らの国益に基づき、「ロシアの敗北」を避けるために支援しているのと同様に、ロシアが、米国に対する中国や北朝鮮の敗北を避けるために支援することが自らの国益に合致すると判断することは十分に考えられる。そうした構図のなかで、中ロにそれぞれ前線として接しているのが日本と欧州なのである。

抑止という観点でいえば、欧州とインド太平洋での武力紛争の同時発生をいかに防ぐかが最大の課題になる。これは地域を超えた抑止であり、そのためには、日欧、さらには日米欧のいままで以上の協力が求められる。

米国をまだ諦めない

今日の日欧協力をもたらす第2の主因はトランプ政権である。「ルールに基づく国際秩序」を標榜してきた日欧にとって、国際ルールを軽視するようなトランプ政権への懸念は深まるばかりである。敵対的な国よりもまずは同盟国を標的にするかのような関税措置は、各国の米国への信頼を損ねている。そうした中では、経済はもとより外交、安全保障に関しても、日欧が協力して米国に対抗すべきとの考えが示されることもある。これはある意味で自然な流れかもしれない。

しかし、ここには落とし穴がある。というのも、中国やロシア、さらには国際社会での重みを増しているいわゆるグローバル・サウスを念頭に考えれば、日本や欧州は、米国との間で、いまだにより多くの価値や利益を共有しているのが現実だからである。日米や米欧、あるいは日欧の間の価値や利益の相違を見つけることはたやすい。しかし、さらなる相違に満ちた世界の中では、日米欧やG7はやはりまだ利益と価値を共有する集まりである。国際的な諸問題の解決にあたって、米国を除いたG6が、G7よりも効果的な枠組みになる可能性は当面低い。

端的にいって、米国との協力を諦めるのは時期尚早である。日本が中国や北朝鮮といった地域の脅威や挑戦に対処するにあたり、予見し得る将来、日米同盟の重要性は上昇することはあっても、降下することは考えにくい。日本が防衛費を拡大したところで、特に中国への単独の対処は視野に入らない。欧州との協力で代替できる可能性も皆無に近い。

欧州では、後述のように「米国後」への準備も始まっているが、2025年6月のNATO首脳会合での欧州諸国のトランプ政権へのこびへつらいや、ウクライナに関する問題での米国へのすり寄り、トランプ関税をめぐる欧州の慌てぶりなどは、依然として欧州がいかに米国に依存しているかを露呈した。

日欧ともに、経済と安全保障の両面における米国への依存状態ゆえに、結局米国に強い姿勢は取れないのが現実である。それを踏まえて考えれば、日欧にとっての当面の共通課題は、米国との同盟の代替ではなく、インド太平洋と欧州の安全保障を筆頭とする国際社会のさまざまな問題に米国を関与させ続けさせることである。そこで問われるのは、米国の負担をいかに軽減できるかである。

そのためには、日本や欧州といった同盟国が負担共有(バードンシェアリング)の度合いを高めることが不可欠になる。「アメリカ・ファースト」のもとでは、同盟国は米国にとって負担でしかないとの理解になりがちだが、そうであるからこそ、強固な同盟網を維持することが米国の利益であることを、同盟国自身が示していく必要がある。米国の負担が軽くなれば、インド太平洋と欧州への安全保障上のコミットメントもより継続しやすくなるという考え方が前提になる。

「ルールに基づく国際秩序」を米国が脅かしているようにみえたとしても、日欧にとっては、その米国を抱き込むことが、パワー・バランスの観点で、ロシアや中国の挑戦への対処を可能にする唯一の現実的選択肢なのである。日欧協力はこの現実のもとに存在する。

日欧の「自律性」

とはいえ、当面は米国をつなぎ留めることが日欧にとっての共通の課題だったとしても、トランプ政権へのこびへつらいによって、長期的な安全保障と同盟関係の安定を実現できるわけではない。それは、当座のしのぎにしかならないのだろう。その先を展望するのであれば、欧州のいう「戦略的自律(strategic autonomy)」の度合いを引き上げることがやはり必要になる。「米国後」や「NATO後」という意味での「プランB」の議論だ。

ただし、自律性自体は「目的」ではなく、「手段」であることを忘れてはならない。目的は、米国と異なる決定をすることではなく、あくまでも、自らの国益に基づいて、自らの判断をおこなうことである。結果として、米国との関係強化が選択されることもあれば、そうではないこともある。というのは、米国との同盟の維持や強化も、本来はそれ自体が目的ではなく、自国の安全や繁栄を守るための手段だからだ。

こうした意味での自律性を引き上げることは、日本と欧州の両方にとっての利益である。安全保障・防衛面で当面必要になるものは、米国のつなぎ留めと実はほとんど変わらない。それは、不足する能力、装備の整備であり、それを可能にする国防費の増額である。さらに、武器・弾薬の製造能力の拡大という、防衛産業力の強化も必要になる。日欧間では、例えば、日英伊の3カ国による次期戦闘機の共同開発プロジェクト(GCAP)が始動している。自衛隊と欧州各国の軍隊との共同訓練も拡充されている。

これらの具体的な協力は、同盟の文脈でのバードンシェアリングの一貫だと捉えれば、欧州やインド太平洋地域の安全保障への米国のコミットメントをつなぎ留めるためのものである。日欧が協力することによる米国の負担軽減が目指される。しかし同時に、中長期的には、「プランB」への準備でもある。

日欧協力は、今後も当面は、この両面性を維持しながら展開することになる。どちらをより意識するかは、最終的なビジョンを考えるためには重要だが、現実に照らせば、両睨みという以外にはないのだろう。

バナー写真:米海軍横須賀基地に寄港中の英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」に乗艦し、飛行甲板で英米大使らと記念撮影に臨む石破茂首相(中央)ら=2025年8月23日、神奈川県横須賀市[内閣広報室提供](時事)

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