トランプ氏の平和賞アピール:世界の視線は冷たく

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ノーベル平和賞を欲しがるトランプ米大統領のアピールが止まらない。各国の指導者らに推薦を強要する電話作戦に加えて、演説でも「私には受賞の資格がある」と繰り返し、なりふり構わぬキャンペーンを展開中だ。だが、既存の平和秩序や経済規範を破壊し、地球環境も軽視するトランプ外交に国際世論の目は至って冷ややかだ。

電話作戦

平和賞は毎年10月、ノルウェー議会が任命する委員(5人)で構成する「ノルウェー・ノーベル委員会」が選考する。地元メディアによると、今年7月、同国のイェンス・ストルテンベルグ財務相に突然、トランプ氏から電話があった。表向きは関税を巡る協議だったが、トランプ氏は「世界平和に尽力してきた私がノーベル平和賞にふさわしい」と自らを推し、「受賞を切望している」と語ったという(※1)

ストルテンベルグ氏は同国の首相を2期務めた後、昨年秋まで北大西洋条約機構(NATO)事務総長を歴任した著名な政治家だ。NATO時代には、同盟協調を軽視するトランプ氏と欧州との橋渡しに腐心させられ、トランプ氏と良い関係をつなぎとめたことでも知られる。ストルテンベルグ氏はメディアに対し、トランプ氏と会話した事実は認めたものの、平和賞に関してはコメントを避けた。

トランプ氏は1カ月前の6月にも、インドのモディ首相との電話協議で「平和賞に私を推薦してほしい」と談判したために、米印関係を急速に冷却させたばかりだ。ストルテンベルグ氏への電話も、こうした厚かましいキャンペーンの一環とみられている。

「7つの戦争終わらせた」?

ホワイトハウスは8月にもX(旧ツイッター)でパキスタン、カンボジア、イスラエルなどの国名を列挙して「世界はトランプ氏の受賞を求めている」とアピールした。そうしたアピールの極め付きとも言えるのが、9月23日、ニューヨークの国連総会でトランプ氏が行った一般討論演説だ。

この中でトランプ氏は「終結不可能とされた7つの戦争を私がわずか7カ月間で終わらせた」と豪語し、「その一つ一つについて平和賞を授与されるべきだとみんなが言っている」とうそぶいた(※2)。首脳の一般討論演説で慣例とされる15分を4倍近くオーバーした約57分の長広舌もさることながら、問題はその内容だった。

第1に、トランプ氏が挙げた「7つの戦争」には「エジプトとエチオピア」、「セルビアとコソボ」が含まれるが、いずれも戦争や武力衝突は起きていない。「ルワンダとコンゴ共和国」(6月)、「タイとカンボジア」(7月)の国境紛争は確かに米国の仲介で停戦合意が結ばれたものの、起きてもいない戦争を終わらせたと強弁するのは無理筋である。

第2に、「イスラエルとイラン」に至っては、米国自らが大型地中貫通爆弾(バンカーバスター)による対イラン空爆に加わっており、両国間にはいまだに停戦合意も成立していない。また、世界が最も注目し、トランプ氏自身も注力してきたウクライナとパレスチナ自治区ガザの2つの戦争は全く終結のめどが立っていない。米メディアもこうした点を具体的に指摘する中で、トランプ氏のふさわしさに大きな疑義を呈している(※3)

演説後にワシントン・ポスト紙が行ったオンライン世論調査によれば、トランプ氏に「ノーベル平和賞を受賞する資格はない」と回答した人が76%に上り、「資格がある」は22%だった(※4)。共和党支持層でさえ、「資格がある」と「ない」の回答はそれぞれ49%で拮抗し、無党派層で「資格がある」と答えたのは14%、民主党支持者では3%にすぎなかったという。

温暖化防止を「詐欺」呼ばわり

問題はこれだけではない。トランプ氏は同演説の中で、国連や国際社会が積み重ねてきた気候変動対策についても「地球温暖化はウソだった」と正面からけなした上に、温暖化防止の営みに対して「愚かな人々が作り上げた史上最大の詐欺だ」と、国連総会の壇上で言い放っている。

トランプ氏は政権1期目から温暖化防止のパリ協定や国連児童基金(ユニセフ)を脱退した。2期目に入っても「米国第一主義」の下で米国の広範な国際支援活動を担ってきた国際開発庁(USAID)を閉鎖するなど国際社会における協調に背を向けてきた。ノーベル平和賞の選考では、そうした協調的行動も重要な基準になるとされている。

平和賞の歴史に詳しいオスロ国際平和研究所の責任者、ニナ・グレーガー氏によれば、トランプ氏は米国を世界保健機関(WHO)や気候変動対策の国際的枠組みから脱退させ、友好国・同盟国との貿易戦争を始めた。「平和を本当に推進しようとする大統領や人物について私たちが抱くイメージとは正反対だ」と語るグレーガー氏の指摘は重い(※5)

トランプ氏は平和賞を欲しがる前に、国際社会にどう見られているかをよく考える必要があるだろう。

バナー写真:国連総会で演説するトランプ米大統領=2025年9月23日、米ニューヨーク(AFP=時事)

ドナルド・トランプ ノーベル賞 平和構築