中国の対日威圧:「G2のわな」に警戒を

政治・外交

台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁を機に、中国が対日威圧を強めている。背景にはトランプ米大統領を懐柔して、日米離間を狙う中国の戦略もうかがわれ、高市政権としては長期化を覚悟する必要がある。

執拗な中国の「答弁撤回」要求

発端は11月7日の衆院予算委員会の質疑で、中国が武力で台湾の海上封鎖などに出た場合、高市首相が「日本の『存立危機事態』になり得る」と答弁し、米軍支援のために集団的自衛権を発動する可能性に言及したことだった。

翌日、中国の駐大阪総領事はSNSで「勝手に突っ込んできた汚い首は一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく斬ってやるしかない」と、斬首を意味する異様な投稿を行った。この投稿は削除されたものの、中国は日本政府の抗議を無視しただけでなく、中国外務省報道官が「高市首相答弁への強烈な不満と断固反対を申し入れた」と、逆に激しい対決姿勢に出た。

その後も国連の場で「日本は中国侵略の過去を反省していない」などと訴え、高市答弁の撤回を執拗(しつよう)に求め続けている。さらに加えて、▽中国人観光客、留学生に対する訪日自粛要請、▽日本産海産物の輸入停止、▽日本製映画や日本人アーティストの公演中止など、あの手この手の威圧策をエスカレートさせている。

観光業界などへ実害が

中国が繰り出す威圧作戦は現在、経済や文化を主なターゲットにしている。米メディアの分析によれば、「非公式な経済威圧」(informal economic coercion)(※1)と呼ばれ、法令や公的な政策に基づくものではないのが特徴だ。悪名高いレアアースの輸出規制などは公的政策に基づくため、先の米中交渉の焦点となり、中国政府が凍結を約束させられているためとみられる。

「治安の悪化」などを口実にした非公式な訪日自粛や食の安全を掲げた海産物の再検査なら、日本側が対抗措置を講じるのは難しい。中国人はインバウンド(外国人訪日客)の約2割強を占め、キャンセルされた航空券は50万枚ともいわれ、日本経済への実質的なダメージは小さくない。

国内の観光地では「中国人客が減って迷惑行為が減少した」などの声が一部にあるものの、観光業界などで威圧の長期化に備えた代替措置を講じる動きはまだ鈍いのが現状だ。

トランプ氏の対中融和姿勢

米国の専門家は、習近平政権が一連の対日圧力を通じて「高市氏の政権基盤を弱体化させようとしている」(※2)と分析する。自民党内には親中派も少なくない。自民党・日本維新の会による新連立政権の基盤はまだ万全とは言い難く、経済面を揺さぶることによって高市外交の対中・台湾政策に影響を与えようとしているとみる。

同時に懸念されるのは、先の日米首脳会談で同盟強化を約束したばかりのトランプ大統領が中国への融和姿勢を示していることだ。来年11月に中間選挙を控えるトランプ氏は、通商交渉で中国から最大限の経済利益を引き出すために来年4月の訪中に向けたディール外交の準備に余念がない。

中国外務省は11月24日に行われた米中首脳電話協議で「台湾問題の重要性について米側の理解を得た」と一方的に発表した。27日には共産党機関紙『人民日報』を通じて「世界の平和と安定を損なう行為を断固阻止することは米中の共通の責任だ」と、米国に「共闘」すら呼びかけている。

トランプ氏自身は11月25日の日米電話協議で高市首相に「中国を刺激しないように伝えた」と報じられている。中国側の狙いが米中通商交渉の円満解決をテコに、台湾問題を含めた対中融和姿勢をトランプ氏から引き出す戦略にあるとみてよい。その先に浮かぶのは、米中で国際秩序を主導する「G2体制」に引き込むことである。

米中で世界を牛耳るという「G2」構想は、かつてオバマ政権が掲げたことがあるが、中国の専制主義体質や世界観が米国と折り合わないことから米外交では死語となっていた。ところが、トランプ氏は10月末に韓国で行われた習近平国家主席との首脳会談の直前に「G2会談が開かれる」とSNSに投稿。会談後も「習氏とのG2会談は素晴らしかった」と述べるなど、G2容認を隠そうとしていない(※3)。トランプ氏が一時的にせよ、米中G2体制に乗せられてしまったら、台湾の将来や日米同盟はもとより、インド太平洋の平和と安定も危うくなる。

「経済の武器化」被害国との連携を

高市答弁については、米メディアも「故安倍晋三首相すら明示的に台湾に言及しない従来の方針を破るものだった」と指摘する(※4)。「台湾有事は日本有事」は現実の安全保障環境に照らせば当然に想定すべき事態ではあるものの、「いわずもがな」だったことは反省すべきだろう。

問題は相次ぐ威圧に今後どう対応するかにある。中国の経済的威圧は、過去に製品不買運動(韓国、2016年)、食肉・ワイン輸入停止(オーストラリア、2020年)、物品輸入停止(リトアニア、2021年)などの被害例もある。日本政府はこれらの被害国とも連携して、不当な威圧の手口を国際社会に広くアピールしていくことが必要だ。

また、中国はソーラーパネルに必要な銀粉のほぼ100%を日米韓からの輸入に依存しており、西側からの輸入に頼る物品も少なくない。これらを逆手にとれば、威圧に対抗する手段になり得るという。

その上で何よりも重要なのは、トランプ氏がG2のわなに引き込まれないよう日米の同盟強化に努めることである。

バナー写真:中国外務省の劉勁松アジア局長(手前右)との協議を終えた日本外務省の金井正彰アジア大洋州局長(同左)=2025年11月18日、北京(共同)

(※1) ^China Revives Economic Coercion to Punish Japan,” by Victor Ferguson, Audrye Wong, Wall Street Journal, Dec. 1, 2025.

(※2) ^Why China Is Picking a Fight With Japan,” by Walter Russell Mead, WSJ, Nov. 18, 2025.

(※3) ^ 11月28日付産経新聞朝刊『トランプ氏の「米中はG2」投稿に茂木外相「両国関係の安定重要」 直接のコメント避ける』。

(※4) ^China’s ‘Wolf Warrior’ Diplomacy Returns With Threat Against Japan’s Leader,” by Andrew Higgins, Javier C. Hernández, NYT, Nov. 13, 2025.

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