米国のベネズエラ攻撃:国際秩序を自ら破壊

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米国がベネズエラを軍事攻撃し、同国のマドゥロ大統領夫妻を拘束した。トランプ大統領は「麻薬密輸の阻止」を名分としつつも、「石油利権を取り戻す」と明言し、資源目当ての身勝手な狙いも明白だ。国際法を踏みにじり、第二次大戦後に築かれた国際秩序を自ら破壊する暴走はどこまで進むのか。

大義なき攻撃

ベネズエラは反米左派政権下の1990年代以降、米石油資本の接収(国有化)や米国支援のクーデター騒動も起き、対米関係が悪化した。その後継者であるマドゥロ政権は、中国やロシアとの関係を深めるなど、因縁の対立が続き、昨年夏以降は麻薬密輸船の破壊攻撃やタンカー拿捕が相次いでいた。

マドゥロ氏が三選された2024年の大統領選では、大がかりな不正や反対派の弾圧が国際問題化し、その正当性に多くの国が疑問を呈していたのは事実だ。だが、いずれも国連憲章などで禁じられている一方的な軍事攻撃を正当化する根拠とはならない。武力を容認する国連安保理決議も存在せず、ましてや米国内ですら、議会承認なしに行われた攻撃に与野党から批判や疑問の声が上がっている(※1)

「国家安保戦略」と石油利権

攻撃の背景に指摘されているのは、昨年末に公表された「米国の国家安全保障戦略(NSS)2025年版」報告だ(※2)。第1次政権時にまとめた2017年版との違いは、「米国が世界秩序全体を支え続ける時代は終わった」と明言し、独善的行動に大きく傾斜していることだ。価値や正義、秩序などに斟酌せず、ひたすら米国の利益を追求する「米国第一主義」がこれまで以上に鮮明となった。

外交・安全保障の最優先地域を「西半球」(南北米大陸)とし、ベネズエラを含む地域をいわば米国の「勢力圏」とし、中ロなどの介入や影響力の排除を目標としている。第二の優先地域として「アジア」(インド太平洋)を挙げ、中国の軍事的脅威から台湾などを守る抑止の強化を掲げているが、欧州諸国についてはできるだけ自力で身を守る責任を強調している。

中でもベネズエラは、石油の推定埋蔵量が世界最大(3000億バレル)で、産出量の多くが中国向けとされている。トランプ氏は昨年来、「ベネズエラがわれわれの石油を全て奪った。それを取り戻したい」と語っていたことでも知られる。同国の石油利権を奪還することによって、米国の勢力圏を固めるとともに、資源争奪戦で中国に打撃を与えるという一石二鳥の効果を計算したとしてもおかしくはない。

広がる波紋

トランプ氏はこうした路線を19世紀米国の「モンロー主義」になぞらえて「ドンロー主義」(トランプ氏の造語)と豪語しているものの、本質は国際秩序を無視した理不尽な路線にほかならない。

身勝手な軍事攻撃の波紋は、ベネズエラにとどまらない。トランプ氏は、国内に麻薬組織を抱えるコロンビアやメキシコへの攻撃についても意欲を示しているほか、中ロに対峙する上で戦略的要衝とみなすデンマーク領グリーンランドに関しても「米国領土とすべきだ」と繰り返し、デンマーク政府や欧州主要国から「脅迫をやめよ」と反発を買っている(※3)

今回の軍事攻撃を口実に、ロシアや中国がウクライナ侵略や台湾侵攻の正当化に利用する懸念を指摘する意見も多い(※4)。国際社会全体にとっても、危険この上ない所業と言わざるを得ない。

また、直後に行われた米国内の世論調査によると、共和党支持者で攻撃を支持したのは65%に上ったが、民主党支持者、無党派層を含めた全体では33%にとどまり、ベネズエラへの過度な関与を「懸念する」と答えた人が全体の72%に達していたという(※5)。国民の受け止め方はトランプ氏の期待する程ではなかったことを意味しており、ルビオ国務長官が「米国がベネズエラを直接統治するのではない」と、トランプ発言の修正を図っているのはこのためとみられる。

高市首相は板ばさみ

トランプ氏はさらに、国連気候変動枠組み条約など計66の国際機関・条約からの脱退や資金拠出停止に踏み切り、自由世界のリーダーという重要な役割の完全な放棄に向かっている。欧州連合(EU)や先進7カ国(G7)が対応に苦慮する中で、高市首相は1月5日の年頭記者会見で、ベネズエラ攻撃の賛否について直接的な論評を避けた。台湾有事を巡る国会答弁以来、中国の威圧外交に追われている情勢下で、唯一の同盟相手と頼むトランプ氏との親密な関係に配慮したものとみられる。

だが、日本はロシアによるウクライナ侵略、中国による台湾危機、北朝鮮の核・ミサイル開発などの外交・安保問題について「法に基づく国際秩序」を通じた解決を世界に訴えてきた。腕力が強いだけでなく、国際社会の指導国とみなすからこそ、米国との同盟強化を進めてきたのが日本外交の根幹である。

そうした責務をかなぐり捨てて秩序破壊の道を突き進むトランプ政権にどう対応していくのか。今後、その整合性を厳しく問われそうだ。

バナー写真:「学生の日」の式典でダンスを踊るベネズエラのマドゥロ大統領=2025年11月21日(左)と、共和党下院議員との会合でポーズをとるトランプ米大統領=26年1月6日、米ワシントン(時事)

(※1) ^ 1月4日読売新聞朝刊、「国際法違反」米でも指摘「差し迫る脅威でない」』。

(※2) ^ National Security Strategy of the United States of America November 2025, White House, Dec.4, 2025.

(※3) ^ “'We need Greenland’: Trump repeats threat to annex Danish territory,” By Nick Beake, BBC, Jan. 5, 2026.

(※4) ^ 1月5日読売新聞朝刊、『法的根拠問う声 米民主「議会承認なし」中露の行動助長を懸念』。

(※5) ^ 1月6日ロイター日本語版、「ベネズエラ軍事作戦、支持3割 多数が過度な関与懸念=調査」。

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