暴走するトランプ外交:アジア安全保障にも暗雲

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グリーンランド領有問題など欧州で暴走するトランプ外交が米欧同盟の断絶ばかりでなく、アジアの安全保障や日本の対中、対欧米関係にも不穏な影を広げつつある。

西側の結束が崩壊

年明け早々のベネズエラ攻撃に続いて起きたのが、デンマーク自治領グリーンランドの領有問題だ。トランプ米大統領は一方的に「米国のテリトリーであり、国家の安全に必要」と唱え、武力行使も辞さない強硬姿勢でデンマーク政府に割譲を強要した。

米国と「西半球(南北米大陸)」にとって、グリーンランドが中国、ロシアを抑止する欧州の戦略的要衝であるのは事実だ。しかし、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国に対して盟主国が領土割譲を求めて武力を振りかざすのは、異例中の異例だ。デンマークをはじめ、英独仏、北欧3カ国など主要加盟国がそろって反対を表明したが、これに対してもトランプ氏は反対する8カ国の輸入品に2月1日から10%の追加関税を課すという異常な懲罰措置をぶつけてきた。

欧州側も黙ってはいられない。英国は「総力を挙げて領有を阻止する」(スターマー首相)(※1)と応じ、欧州連合(EU)も巨額の報復関税を検討したため、米国市場では株、ドル、債券のトリプル安が起きて、トランプ氏は関税を撤回した。こうした応酬の末に、スイスのダボス会議で開かれたトランプ氏とルッテNATO事務総長の会談で協議の枠組みが話し合われ、ひとまず問題は収まった形だ。

欧州・カナダの対中接近

とはいえ、この問題で第2次大戦終結以来「最も成功した同盟」とされてきたNATOの結束が崩壊状態に陥ったのは否定できない。そればかりか、米欧の相互信頼や先進7カ国(G7)の連携・協調にも深い断絶を招いてしまった。

トランプ政権が昨年末公表した「国家安全保障戦略(NSS)」や今年1月の「国家防衛戦略(NDS)」で欧州を疎遠に扱っていることも大きい。ウクライナ戦争の終結を「何よりも欧州の責任」(※2)と突き放し、ロシアの脅威についても「欧州で対処可能」とする姿勢を明白に打ち出した。

加えて、欧州ではトランプ氏が4月に予定した中国公式訪問で習近平国家主席と「G2体制」(世界を米中2国で指導)に向けた「ディール」(取引)を目指すのではないかとの観測がしきりだ。

この流れを念頭に、欧州・カナダでは昨年末から中国に急接近する動きが目立つ(※3)。12月にフランスのマクロン大統領が訪中して以降、1月にはカナダ、アイルランド、フィンランド首相に続いて英国のスターマー首相も8年ぶりに訪中し、習近平氏と会談した。メルツ独首相も近く訪中する見込みという。

台湾も警戒強める

欧州の専門家が「米国が中国とのディールを目指す中、欧州も取り残されるわけにいかない」と指摘するように、欧州首脳の「中国詣で」の主な狙いは経済・通商関係の多角化や協調とみられるが、中国の戦略的狙いは、米国に代わる「自由貿易の旗手」を誇示することだけではないだろう。

マクロン氏やスターマー氏との会談で習近平氏が「一つの中国」論に言及するなど、中国にとって「最重要の核心的利益」とみなす台湾再統一へ向けた欧州諸国の同調を取り付けようと試みている。台湾はこうした動きに警戒を強めている。

トランプ政権は昨年12月、台湾に総額111億ドル(1兆7000億円)相当の新たな武器売却を承認したものの、その一方で新たな国家防衛戦略では中国と「不要な対立は求めない」とし、中国を「最重要の戦略的競争相手」とする従来の表現も削除されている。台湾政府の危機感がぬぐえない理由だ。

問われる日本外交

G7でアジア唯一のメンバーである日本にとっても、事態は深刻と言わざるを得ない。米国の欧州軽視と対中傾斜は、中国にとって米欧離間のまたとない機会と映っても不思議はない。欧州では、ロシアも米欧の亀裂を歓迎している。

日本は岸田文雄政権以来、法と秩序を掲げて「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分」と主張してきた。ウクライナ支援を惜しまないと同時に、欧州やカナダに対して台湾を巡る中国の軍事的増強や威圧的外交の実状を説明し、協調を訴えてきたのもそのためだ。

今の高市早苗政権は、昨年秋の首相国会答弁をきっかけに中国の執拗(しつよう)な威圧外交にさらされており、日本を標的とした輸出規制などに対抗する上でも欧州やカナダの理解と協力が今ほど必要な時はない。G7や個別会談などあらゆる機会をとらえて、中国の戦略と思惑について説得に努める必要がある。

また、3月にも見込まれるトランプ氏との首脳会談では、安易なG2論の危険性や日米同盟の重要性について議論を深めることが重要だ。

バナー写真:ダボス会議の機会に合わせて会談したトランプ米大統領(中央右)とルッテNATO事務総長(同左)。トランプ氏の隣には(左から)ルビオ国務長官、ベッセント財務長官、ルトニック商務長官が並ぶ=2026年1月21日、スイス東部ダボス(AFP=時事)

(※1) ^ 1月21日 産経新聞朝刊、『英首相、グリーンランドの米領有阻止へ「総力挙げる」

(※2) ^ 国家防衛戦略。U.S. National Defense Strategy, U.S. Department of War, Jan. 23, 2026.

(※3) ^ 2025年11月30日読売新聞朝刊、「欧州首脳中国詣で続々 仏、来月初め 英・独、年明け検討…投資呼び戻し狙い」

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