衆院選大勝後の高市外交:「特別な立ち位置」てこに、訪米で両国関係の深化目指す

政治・外交

高市早苗首相は3月、就任後初めて訪米する。米トランプ政権が行動の不確実性を増す中、日米は「揺るぎない同盟」を世界にアピールできるのか。筆者は、現状の日本は結果的に「特別な立ち位置を得ている」とし、現実的な外交を貫くべきだと指摘する。

大きく変化する安全保障政策

2026年2月の衆議院選挙で、高市早苗首相率いる自民党と日本維新の会は465議席中352議席を獲得し、地滑り的勝利を収めた。自民党は公示前から大幅に議席を伸ばし、高市首相が掲げた「首相選択選挙」という位置づけは、事実上の信任投票として機能した。

果たして、これほどの議席の力を得た高市首相はこれから何を行うのだろうか。参議院では依然として少数与党だが、衆議院では参議院で否決された場合でも法律案を再可決できる3分の2を優に超える多数を有している。英誌エコノミストが高市首相を「最もパワフルな女性」と評したことは、国内政治基盤の強さが国際的にも注目されていることを示している。

高市政権の安全保障政策では、すでに一部報道があった防衛装備品の輸出規制の緩和に留まらず、国家安全保障3文書の改訂や経済安全保障推進法の改正などの準備が加速し、防衛予算のさらなる増額も視野に入る。外国人政策でも、外国人による土地取得等のルール改正の有識者検討会が立ち上げられ、夏までに一定の結論を得る予定だ。2026年は、日本の安全保障政策にとって、大きな変化の年になることは間違いない。

相対的な地位が高まった日本

3月19日に行われる日米首脳会談では、国内政権基盤を固めた高市首相をトランプ大統領は評価するだろう。他方で、秋に中間選挙を控えるトランプ政権だが、実のところ内政では行き詰まりが目立っている。移民対策やインフレ対策が不評を買う中で、外交に活路を見いだそうとしている。だが、国家緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置を違法とする米最高裁の判断が示されたことは、関税を重要な道具とみなしてきたトランプ外交に大きな制約を課した。こうした中で、日本はどのような姿勢を取るべきなのだろうか。

国際社会の一部や日本国内では、カナダのカーニー首相の1月のダボス演説のように、アメリカへの強い批判をにじませ、国際秩序への問題意識と声高に語ることを良しとする向きもある。しかし、そうした姿勢がどこまで日本の利益になるかは、今一度立ち止まって考えるべきだ。実のところ、トランプ政権やアメリカの保守派の間では、欧州諸国が相次いで中国寄りの姿勢を取り、アメリカ外交を批判することに警戒心が高まっている。カーニー首相も1月の訪中で中国との関係強化を進めたと報じられる中で、ダボス会議で演説を行った。

こうした中で、日本は相対的に地位を高めているという事実がある。つまり、日本はアメリカとの関税交渉をいち早くまとめ、投資協定に応じただけでなく、その投資の第1弾も発表した。加えて高市首相は、中国に対して強硬な姿勢を取ることを厭(いと)わなかった。日本が欧州の同盟国と異なり、対米交渉・投資・対中姿勢で一貫した対応を行い、トランプ政権や米保守派から好ましく思われ、結果として特別な立ち位置を得ていることは注目すべきであろう。

そのように考えると、日米関係を当面マネージしていくためにも、今回の日米首脳会談で、投資を含む経済面および安全保障面でどれほど具体的な課題をさらに前に進めるかが重要である。日本が現在得ている立ち位置の良さを生かすことが国益につながるのである。もちろん、対米投資そのものが過剰な政府負担につながることがないよう配慮すべきは当然だが、投資がアメリカ市場へのアクセスを民間企業にとって広げるチャンスになることも事実である。日米が昨年約束した5500億ドルの戦略的投資イニシアティブの見直しを求める声もあるが、それは拙速に提起すべきことではない。

悪化した日中関係の固定化回避を

ところで、日中関係の改善への道は目先では依然として険しい。2月下旬、中国は新たに、日本企業に軍民両用品の輸出規制をかけることを発表した。しかし、高市政権の強い政治基盤や強固な日米関係が、日中関係の変化に貢献する可能性も留意すべきである。当面、中国は高市首相の歴史認識に対する姿勢なども勘案しながら、11月のAPECまで慎重な対応をしてくるに違いないが、日本が徐々に交渉力の基盤を固めていることも事実だ。

中期的な視点に立てば、日本は悪化した日中関係を現状のまま固定化させるような手段に出るべきではない。従来の日中関係を支えてきた4つの基本文書の精神を踏襲していると確認することが必要である。対話は常に開かれているという姿勢を堅持することが重要である。ただし、日中関係でそれ以上の対応をすべきとも、高市政権がそれを行うとも思えない。

「インド太平洋」深化は、ASEAN外交の強化から

韓国の李在明政権と高市首相はすでに良好な関係を築いている。3月にも行われると言われている日韓首脳のシャトル外交も、両首脳の信頼関係をさらに固めることに貢献するだろう。日韓関係をさらに前に進めるためには、歴史問題や領土問題など両国で立場に溝が深い問題を実利的な協力ができる分野と分けたツートラックの姿勢が重要だ。

具体的な協力課題を未来志向で具現化していくことが求められる。日米韓協力に見られるような安全保障協力だけにとどまらず、日韓協力を経済・科学技術の分野で進めていくことが重要になってくるだろう。日韓両政府が、他の同盟国間協力に見られるように、経済安全保障、科学技術における具体的なプロジェクトを取り上げ、推進していく姿勢を明確にすることが必要だ。

高市政権には、インド太平洋の多くの国と協力を深化させていく責任もある。中国への姿勢をより前向きなものに変化させている国も多い。そうした中で、どのように「自由で開かれたインド太平洋」を次のステージに持っていけるか。2月の第2次高市政権の施政方針演説は「インド太平洋を、強く豊かに」と述べたが、その具体化は、第2次安倍政権の先例に学べば、まずASEAN外交の強化である。先端技術や経済安全保障、安全保障能力強化などを具体策に落とし込む必要がある。もちろん、オーストラリアやインド、台湾、大洋州諸国との関係強化においても、これまで以上の取り組みが求められてくる。

国際社会全体を見ても、ルールや規範が大きく揺らいでおり、国際秩序の先行きに不安が広がっている。そうした中で、どのようにルールを構築していくのか。日本がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)やその他のメカニズムを生かして、国際秩序におけるルール形成に貢献する姿勢を見せていくことが求められる。

しかし繰り返しになるが、高市政権にとって最大の外交課題は、それでも対米関係のマネージである。中間選挙における劣勢を回復したいトランプ政権は、より一層行動の不確実性を増すだろう。法規範や欧州同盟国の利益と整合しない行動を取り続けてくるのかもしれない。そのようなトランプ政権とどう付き合うかは、道義だけではなく国家としての利益も踏まえて、大きな判断をしていくべきだろう。

自らの判断で防衛力強化の意思を

高市首相は施政方針演説で、日本はインド太平洋の「輝く灯台」になると宣言した。それは一つのビジョンとして非常に重要である。それに加えて、良好な日米関係をさらに固め、トランプのアメリカを2国間でマネージするだけではなく、アメリカを少しでも国際舞台に引き戻せるような外交努力も求められてくる。

日米首脳会談は3月19日に行われるが、それに合わせて高市首相は首都ワシントンで演説を行うべきだと提案したい。その演説では、今の世界が直面している安全保障上の危機感を共有した上で、日本はアメリカとともに大きな責任を引き受ける覚悟があることを、高市首相は力強く、具体的に語りかけるべきだ。

日本は独自の判断として防衛努力を増やすと意思を明らかにすべきである。さらに投資にとどまらず、中国依存の大きい戦略物資の脆弱性を克服するため、ともに取り組む意思を明確に示す必要がある。日本は、アメリカに依存するだけの、またはアメリカから何かを一方的に得る関係を求めているのではなく、それぞれのビジョンを持って世界で対等に付き合えるパートナーであることも明確にすべきだ。

圧倒的多数は高市政権に自由を与えたが、同時にそれは責任も伴う。対米関係の現実的なマネージを軸に、中国との緊張管理、韓国やオーストラリアを始めとした同志国との協力深化、そしてインド太平洋、さらに世界における秩序形成に関与していくことが、日本外交の進むべき道である。国際秩序が大きく揺らぐ時代だからこそ、理念ではなく結果、すなわち平和と繁栄の実現によって評価される、冷徹なほど現実的な外交が求められている。

バナー写真:米海軍横須賀基地に停泊中の原子力空母「ジョージ・ワシントン」に大統領専用ヘリコプター「マリーンワン」(奥)で到着した高市早苗首相(中央右)とドナルド・トランプ米大統領(同左)=2025年10月28日、神奈川県横須賀市(時事)

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